脱“ゆとり教育”の行きつく先は?

社会

日本の初等中等教育は、よく振り子にたとえられる。ゆとりと詰め込みの間を行ったり来たりするからだ。背景には、世の中に閉塞感が高じてくると教育を悪者にして国民を奮い立たせたくなるという為政者の心理がありそうだ。

今は、2002年から学校週5日制が実施され毎週土曜日が休みになったのに合わせて削られた授業内容が復活し、脱“ゆとり教育”へと舵を切ったところだ。振り子がゆとりから詰め込みへと振れ戻り始めたと言える。去年4月から小学校で、この4月からは中学校も新しい授業内容に切り換わる。

小学校低学年では国語の時間が週に9時間と戦後最も多かった19年前の水準に戻った。まずは、学習の基礎となる国語に重点を置き、その上の学年で理数を中心に主要教科に力を入れるという配分だ。学力として測りやすい教科の時間数を増やすことで学力低下の批判をかわそうという文部科学省の意図がみてとれる。

授業内容としては、“ゆとり教育”批判の矢面に立たされた格好の小学校算数の台形の面積の公式、中学校理科のイオンや元素の周期表など前回の改訂で削られた内容が軒並み復活した。これに加えて、中学校で学ぶ英単語数が現在の900語から1200語に増やされるなど、増量した部分も多い。ゆとりの中で、自ら学び、課題を見つけ、解決するという新しい学力をめざしていたのが、再び、反復型の学習に重心を戻すことになった。

広がる学力格差

では、なぜ脱“ゆとり教育”へと向かわせたのか。OECD経済協力開発機構が行っている国際学習到達度調査(PISA)の2003年調査で、読解力の国際的な順位が3年前の8位から14位へと大幅に下がったことが一つの要因だ。それだけではない。改訂の議論が、教育改革に熱心だった安倍晋三内閣のもとで行われたことが影響している。安倍元首相が手本としたのは、イギリスのサッチャー政権下の教育改革だった。“英国病”とまで言われた経済の低迷からの脱却を成し遂げた改革を評価してのことだが、当時のイギリスは好調な経済発展を続ける日本の教育に学んだと言われる。わざわざ海外に学ぶことで日本の振り子を元に戻すという回りくどい道をとったことになる。

国際学習到達度調査(PISA)読解力平均点の国際比較

  PISA2000 PISA2003 PISA2006 PISA2009
1 フィンランド フィンランド 韓国 上海
2 カナダ 韓国 フィンランド 韓国
3 ニュージーランド カナダ 香港 フィンランド
4 オーストラリア オーストラリア カナダ 香港
5 アイルランド リヒテンシュタイン ニュージーランド シンガポール
6 韓国 ニュージーランド アイルランド カナダ
7 イギリス アイルランド オーストラリア ニュージーランド
8 日本 スウェーデン リヒテンシュタイン 日本
9 スウェーデン オランダ ポーランド オーストラリア
10 オーストリア 香港 スウェーデン オランダ
11 ベルギー ベルギー オランダ ベルギー
12 アイスランド ノルウェー ベルギー ノルウェー
13 ノルウェー スイス エストニア エストニア
14 フランス 日本 スイス スイス
15 アメリカ マカオ 日本 ポーランド

授業時間はそれほど増えてはいないのに、授業内容を元に戻したことで、小学校の現場からはすべてはこなしきれないという叫びが聞こえてくる。民間の教育情報会社の調査では、教員は子供の間に学力格差が広がったと感じ、対応に苦慮しているという。 “ゆとり教育”がめざした知識を身につけるだけでなく、その知識を生かして考える力を育てる教育が実現するのはいつのことになるだろうか。

安倍晋三 NHK ゆとり教育