選挙制度改革という“魔物”

政治・外交

衆院小選挙区の大都市圏と地方のいわゆる「1票の格差」是正が足踏み状態だ。最高裁判決で違憲状態と判定されながらすでに1年近く放置されている。国勢調査に基づく政府審議会の区割り見直し作業も凍結されたまま、法律の定める勧告期限を過ぎた。

是正に踏み込めない背景には選挙制度の抜本改革をめぐる党派を超えた駆け引きがある。1票の格差是正を仮に先行できても、抜本改革をめぐる暗闘は政治の行方に「魔物」のように影響し続けるだろう。

小選挙区の是非めぐる「百年戦争」

衆院議員は1選挙区ごとに1人が当選する小選挙区(定数300)と、党派別の比例代表(同180)で選出される。だが昨年3月、最高裁は2009年衆院選における小選挙区の人口と議席配分の最大格差2.3倍について違憲状態と判断した。判決は都道府県にまず1議席を配分する方式の廃止を求めたため、立法府は速やかな対応を迫られた。

ところが、民主、自民両党は5つの県で議席を1ずつ減らす案(0増5減案)で合意しているのにもかかわらず、是正は進んでいない。このままではどれだけ早く手を打っても新区割り下で選挙が可能になるのは10月以降とみられている。

事態を複雑にしているのは、選挙制度そのものの抜本改革問題が絡んでいるためだ。民主、自民両党に影響力を持つ公明党は1票の格差是正と同時に「小選挙区比例代表連用制」と呼ばれる制度を導入し、抜本改革を実現するよう求めている。

「連用制」は小選挙区で議席を多く得た政党ほど比例代表で議席が獲得しづらくなる仕組みで、比例代表部分の議席獲得を重視する中小政党にとって有利な制度だ。民主党がこれまで「0増5減」案の実施に慎重だったのも、消費増税問題などを抱える国会で公明党との決定的な対立を避けるため、連用制に歩み寄る余地を残しておく思惑からだ。

だが、結論から言えば、今国会中に「連用制」実施の道筋をつけるハードルは極めて高い。小選挙区制を維持しつつ中小政党にも配慮する方式に民主、自民両党内に強い慎重論があるためだ。

その代表格は現行の小選挙区制度そのものを改め、1選挙区で複数候補が当選する中選挙区制度を復活させる抜本改革を主張する勢力だ。民主党の渡部恒三、自民党の加藤紘一両ベテラン議員を世話人とする議員連盟は2月23日総会を開き、次期選挙で中選挙区導入を目指すことで一致した。総会には衆院議員90人以上が参加、メンバー約150人には森喜朗、麻生太郎両元首相らも名を連ねる。

衆院の選挙制度は94年に選挙制度改革法が成立し、それまでの中選挙区制が小選挙区制に変更され、96年選挙から新制度に移行した。政策本位の選挙実現と「政治とカネ」問題の解決をうたった制度改正だったが、自民、旧社会党を中心に賛成、反対両派によるすさまじい内部抗争が当時は繰り広げられた。小選挙区の是非をめぐりなおくすぶる議論には「百年戦争」的な根深さがある。小選挙区制度下で「決められない政治」が続く現状、相変わらず後を絶たない政治とカネをめぐる不祥事、政策論争を活発化させる効果への疑問などがここにきて、復活論を後押ししている。公明党はもともと、中選挙区制にも理解がある。民主、自民両党が将来、いわゆる大連立構想に動く場合、中選挙区制であれば候補調整が可能、といううがった見方もある。

一方で、小選挙区を擁護する議員の多くは比例代表を廃し、すべての衆院議員を小選挙区から選出する単純小選挙区制を実現し、二大政党化をさらに進めることを志向する。その立場からすれば、中小政党が絶えず維持される「連用制」のような制度は改悪以外の何物でもなかろう。

もちろん、「議員一人一人の動きは選挙区事情をみればわかる」と言われるような個別事情もこれに絡んでくる。選挙制度の抜本改革問題が一般に意識される以上に“陰の主役”として当面の政局を左右しかねない点に留意すべきであろう。

小選挙区 地方分権