「大阪都構想」法成立の意味

政治・外交

法成立だが、構想実現の道遠し

橋下徹大阪市長が主導する大阪都構想の実現を可能とする新法が、通常国会で8月29日に成立した。

「橋下人気」に背中を押される形で与野党の調整が異例の急ピッチで進んだ。だが、政党側には法律が成立しても新制度の実現は難しいとの計算も働く。新法が日本の地方制度にもたらす影響の大きさと、実現へのハードルの高さの双方に留意すべきだ。

日本の地方自治は広域自治体である都道府県と住民行政を担う基礎自治体の市町村の2層で行われている。ただし、東京都だけは戦前の旧東京市が23の特別区に分割されている。

大阪都構想は、人口260万人の大阪市を複数の特別区に分割再編したうえで公選区長の下に住民自治を委ね、広域行政は大阪府に一元化する構想だ。東京都と特別区の関係に似た形となるため便宜上、「都構想」と呼ばれている。

民主、自民など7会派が共同提案し成立した新法は、東京以外でも市町村を廃止して特別区を置くことを可能とする手続き法だ。政令市を含む人口200万人以上の区域であれば道府県や関係市町村による移行計画を作成できるが、大阪に追随する地域は現時点で現れていない。実際に道府県や特別区の間でどう事務、権限や財源を配分するかは国と事前に協議しなければならない。

自治体の“運命”を住民投票に委ねる

日本の地方制度における新法の位置づけはユニークかつ画期的だ。これまで国が法律で一律に決めていた地方制度を地域主導で選択できる道が限定的ながら開かれたためだ。

政権交代後の2010年6月に政府が閣議決定した地域主権戦略大綱には「国のかたちは、国が一方的に決めて地方に押し付けるのではなく、地域の自主判断を尊重しながら、国と地方が協働してつくっていく」との原則が明記された。一見唐突な都構想だが、実はこうした潮流に沿った議論だったことがわかる。

特別区設置について地方議会のみならず、住民投票による同意を必要とした点も重要だ。大阪都構想の場合、最終的には大阪市民投票による同意が必要となる。

憲法は特定の自治体を対象とする法律の制定について、住民投票を必要な手続きとして定めている(95条)。だが、日本の自治制度は首長や地方議会のリコールなどを除き、住民投票に法的拘束力を認めることに慎重だった。とりわけ地方議会には住民投票に対抗意識が強く、市町村合併ですら住民投票は必要な手続きとされていない。

ところが、新法は限られたケースながら自治体の「運命」決定を住民投票に委ねたのである。

2年後の大阪市民投票が成否を握る

問題は、実際に「大阪都」が実現するかどうかだが、政府や与野党には懐疑的な見方が多い。もともと、与野党各党が法整備に協力したのも、橋下氏が率いる大阪維新の会が国政に進出する大義名分を奪おうとする狙いがあった。維新の会の国政進出が決定した現在も、衆院選後をにらみ決定的な対立を避けたい思惑がある。法制化に反対して「改革潰し」のレッテルを貼られるよりは、地元の作業にゲタを預けたというのが実態だろう。

最大のハードルとなるのは現在の大阪市を分割、再編し新設する特別区の区割りである。橋下市政の下で、現在24ある行政区で公募区長が始動したばかりだ。しかし、息つく間もなくこれを8~9特別区に再編する作業を進めないと目標の2015年春の新制度移行に間に合わない。特別区間にはかなりの税収格差も見込まれるだけに区割りは難しい。

行政コストを肥大化させず特別区を設置できるかも難問だ。橋下氏は特別区にかなりの権限を持たせると表明しているが、東京都と違い大阪府、大阪市の財政基盤は弱い。これまで以上に国から地方交付税などの財源を投入しなければ新制度稼働は難しい、との懸念が政府内に根強い。新制度移行までには多くの立法措置も新たに必要とみられている。

また、都構想が実現しても「大阪府」の法律上の名称は変わらない。橋下氏らはこれを東京都と同様「大阪都」に改称するよう求めており、これも実現には新規立法が必要だ。

いずれにせよ、最終的に成否を握るのは大阪市民だ。大阪再生には自治の仕組みの改革が不可決とする橋下市長の説明がどこまで浸透したかが試される。順調に作業が進めば2014年春ごろに実施される大阪市民投票が新制度の意義とハードルの双方を象徴する場面となるだろう。

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