「道州制」の動向が焦点となる安倍内閣の分権改革

政治・外交

衆院選で自民党が圧勝し政権を奪還したことから分権改革の路線にもかなりの変更が加えられそうだ。

既存の都道府県や市町村の権限を拡充するよりも、地方制度の見直し論に軸足が移る可能性がある。とりわけ、都道府県を数ブロックに再編する道州制導入に向けた基本法案の提出を、安倍内閣がどう判断するかが当面のポイントになる。

地方制度の見直しへ軸足変化か

野田佳彦前首相が衆院を解散する前日の11月15日、1つの法案があわただしく決定された。国土交通省地方整備局など国の地方出先機関を地方自治体の特定広域連合を受け皿としてブロック単位で移譲できるようにする内容だった。だが、この法案は結局国会に提出されず、事実上葬り去られた。

国の出先見直しは地域主権改革の主要テーマだったが、中央官庁の激しい抵抗に遭い、地方側の足並みも乱れ後退を重ねた。やっと最終場面で閣議決定にこぎつけ体裁を繕った訳だが、自民党は政権公約(政策集)で民主党が進めてきた出先改革に反対する方針を明記している。このため、出先改革は事実上「お蔵入り」するのではないか、との見方が広がっている。

基本法案提出時期がポイントに

一方で注目されるのが47都道府県を数ブロックに再編し、広範な権限を与える道州制論の動向だ。自民は公約で導入に向けた基本法を早期に制定し、それから5年以内に実施を目指すとした。

第2次安倍内閣で初入閣した新藤義孝総務相が道州制担当となった。新藤総務相は道州制について「大きな方向として必要と思っている」と述べ、導入に積極姿勢を示した。

安倍晋三首相自身、最初に政権を担当した当時、渡辺喜美行革担当相の下に有識者会議を設けた積極論者である。民主党政権では制度論と一線を画したため沈静化したが、「大阪都構想」を可能とする法制化などを契機に地方制度改革への関心は再燃している。

日本維新の会、みんなの党などいわゆる第三極勢との部分連合の思惑も絡む。次期参院選で衆参ねじれ状態の解消を安倍政権は目指すが、「道州制推進」は与党の自民、公明のみならず維新、みんなとも歩調がそろう数少ないテーマだ。参院選後の「自公」と第三極の接着剤として、政治的に注目され得る。

自民党が検討している基本法案は実質的に「道州制国民会議」の設置法案に等しい。12年9月に取りまとめた骨子案は「道州」の中身について国の役割を極力限定するなどの基本理念や方向を示すにとどめている。

首相を本部長とする道州制推進本部を置き、具体的な制度設計は国会議員や有識者からなる「国民会議」を首相の諮問機関として設け、3年以内の答申を求めている。あまり各論に踏み込んだ法案としなかったのは成立を優先するためとみられている。

議論に必要な長期的視点

だが、仮に基本法案であっても、実際に国会に提出するハードルは高い。新藤総務相も基本法案の提出時期については「議論を深めないといけない」と述べ、慎重な言い回しだ。

道州制は府県の存否そのものに直結するだけに、知事をはじめ首長の多くは慎重、反対派だ。日本の47都道府県の枠組みは120年以上にわたり基本的に変化していない。社会、文化的な要素として根付いているだけに、実現にはすさまじい政治的エネルギーを要する。参院でなお第1党の民主党は道州制に基本的に慎重だ。参院選までは経済対策を中心に安倍内閣は「安全運転」優先とみられ、1月召集の通常国会で法案提出を急ぐ動機づけは乏しい。その際は第30次地方制度調査会による大都市制度論議が地方制度改革の当面の主役となるだろう。

自民党の本気度も問われる。道州制を目指す一方で国の出先機関の地方移譲に反対する姿勢は分権という観点からは矛盾する。

基本法の自民党案は道州制下の国の事務について「真に全国的視点に立って行わなければならないもの」としており、幅広く解釈される余地もある。事実上、現在の府県が合併したような「道州」も選択肢としている疑念はぬぐえない。

道州制について政界には単純に行政コスト削減の手段として捉えたり、逆に現在の都道府県よりも国の関与を強めたりしようとする観点からの議論もあるだけに最初のレール敷きが重要だ。日本社会は今後大都市圏を中心に超高齢化の波に洗われ、やがて人口減少社会に突入する。国、広域自治体、基礎自治体(市町村)の役割分担と住民への行政サービスを長期的視点から検討する姿勢が与野党に求められている。

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