「STAP論文に研究不正あった」と理化学研究所がついに認定(2014年4月9日改訂)

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論文取り下げを勧告

独立行政法人・理化学研究所(野依良治理事長)の発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子・研究ユニットリーダーらが2014年1月に発表した、新しい万能細胞(STAP細胞)の作製に関する研究論文に疑義が生じた問題で、理研の調査委員会は4月1日、最終報告書を発表した。中間報告で指摘した6項目の疑問点のうち2項目について、論文に「ねつ造や改ざんなどの不正があった」と認定した。

調査委は小保方氏ら論文著者らに対し、論文を「正式に取り下げるよう勧告する」方針を明らかにした。ただ、最も肝心なSTAP細胞の存在については今回、調査対象とはしていないため、存在の有無は依然はっきりしていない。調査委では、STAP細胞の再現実験を理研内で着手し、最終的な検証結果を公表するとしている。

STAP論文は、研究発表直後の2014年1月30日付英科学誌『ネイチャー』に掲載された。「細胞を弱酸性の液体で刺激するだけで新たな万能細胞が作製できた……」とする研究成果は、細胞生物学の常識を打ち破る発見として世界の研究者らを驚かせた。しかし、それ以降、STAP細胞作製の成功事例の報告はまだなく、それどころかSTAP論文自体への多くの疑義が内外から指摘された。

2つの項目で不正認定

調査委が最終報告書で「不正」と認定したのは、(1)STAP細胞からできたとされる組織の画像が、小保方氏の大学院時代の博士論文と酷似した実験画像を使った行為(ねつ造)、(2)遺伝子解析の画像に別の実験画像を切り貼りしたような跡がある(改ざん)――の2項目。

他の4項目である、(1)実験手法の記述の一部が海外論文と酷似している、(2)実験手法の一部が実際の手順と異なる、(3)STAP細胞の画像に不自然な歪みがある、(4)別々の実験とされる胎盤の画像が酷似している、などの点については「不正ではない」とした。

さらに調査委員会は、2点の不正行為は小保方氏の責任によるものと指摘。共同著者に名前を連ねた笹井芳樹副センタ―長や若山照彦山梨大学教授ら他の研究者には不正行為がなかったと判断した。ただ、笹井、若山両氏がデータ確認を怠った事実を重視し、「過失とはいえ、立場や経験などからしても、研究不正を招いた責任は重大」と指摘した。

小保方氏は不服申し立てへ

最終報告が、2つの点で研究不正があったと認定したことについて、小保方氏は「理研の規程で『研究不正』対象外となる『悪意のない間違い』にもかかわらず改ざん、捏造と決めつけられたことは、とても承服できない」と反論するコメントを発表し、理研に不服申し立てをする考えを明らかにした。さらに、「このままでは、あたかもSTAP細胞の発見自体がねつ造であると誤解されかねず、到底容認できません」との見解を示した。

STAP論文をめぐっては、当初の華々しいSTAP細胞発見報道から、一転して所属組織による研究不正認定という不名誉な結果となった。STAP細胞の存在の有無はまだ確認されていないが、今回の騒動は各方面に波紋を広げた。日本の若手研究者らの研究倫理体制の不備や研究機関の過度な業績至上主義などに警鐘を鳴らす専門家も多い。日本の基礎科学研究について海外からの信頼低下を懸念する声も聞かれ、日本にとって大きな課題を残したといえる。

〈追補・4月9日、小保方氏反論会見〉「STAP現象は200回以上確認している」

小保方氏は4月9日、大阪市内のホテルで2人の代理人弁護士とともに、反論記者会見を行った。

小保方氏は、冒頭「私の不注意、不勉強、未熟さゆえに多くの疑念を生み、皆様にご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます」と陳謝した。質疑の中で、STAP細胞の作製事例がまだ報告されていないことについて、「200回以上作製している。論文はSTAP現象について示したものであり、STAP細胞作製の最適条件を示したものではない」と述べた。また、調査委から論文取り下げを勧告されていることについては、論文作成上の不注意や不手際を認めながらも、「論文撤回は結論が間違っていることを世界に向けて発表することになるので、正しい行為ではないと考える」と難色を示した。

STAP論文で疑義が持たれたうちの2項目が最終報告書で「ねつ造や改ざん不正があった」と認定されたことについて、同席した弁護士は「(実験の)結果自体は存在している。論文掲載の方法の問題であり、改ざんではない」などと、理研側の認定に反論した。

また、報告書がSTAP細胞からできたとされる組織の画像が小保方氏の学位論文から切り貼り(ねつ造)したとされる点については、「学位論文を基にしたものではなく、共同ラボで使ったパワーポイントに掲載されたものを使った」と釈明。画像取り違いについて「反省しているがねつ造ではない。取り違いに気づいた段階で英科学誌ネイチャーにも伝えた」と語った。

小保方氏の研究ノートが3年間で2冊だったと指摘された点については「調査委に求められ提出したのは手元にあった2冊だったが、私には十分(研究プロセスを)トレースできるものであり、ハーバードを含め何か所かで実験を繰り返してきたので、ノートはほかにもある。少なくとも4~5冊ある」と述べた。

タイトル写真=新しい万能細胞「STAP細胞」の論文問題で、記者会見する理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダー(2014年4月9日、大阪市内のホテル、撮影=時事)

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