「地方創生」目指す安倍内閣——地方の人口減少を克服できるか

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政府は「地方創生」をスローガンに、地方の活性化と人口減対策のための総合戦略策定に乗り出した。若者にとって魅力ある町づくり、ひとづくり、仕事づくりを推進する。地方から東京圏への一極集中が続く中で、地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を食い止めるのが狙いだ。

止まらない東京圏への人口流入

「地域が元気になれば、日本が元気になる」――。歴代政権はこうした掛け声で、地域活性化のための諸施策に知恵を絞ってきた。しかし、東京、名古屋、大阪などの大都市圏と過疎化や高齢化に直面する地方との格差はなかなか縮まらない。とりわけヒト、モノ、カネが集中する東京首都圏には、日本が人口減少社会に入った現在でも若者を中心に人口流入が続いている。

第2次安倍内閣発足後、安倍晋三首相が繰り返してきたのは「景気回復を全国津々浦々で実感できるようにする」ことである。しかし、経済再生を表看板に掲げ、デフレ経済からの脱却を目指す安倍政権は、必ずしも地方の問題に大きなウエートを置いてこなかった。

人口減による「消滅可能性都市」の公表

ところが、2014年5月、民間研究機関の「日本創生会議・人口減少問題検討分科会」(座長・増田寛也元総務相)が公表した、今後の人口減少予測を基に消滅可能性のある自治体をリストアップした報告書が大きな反響を呼んだ。20歳~39歳の若年女性の人口をその地域の将来を決定づける指標と捉え、将来推計を自治体別に試算したものだった。 

「消滅可能性都市」の候補に挙げられた自治体からは異論や反論もあったが、危機意識は共有され、安倍内閣に軌道修正を迫る形となった。特に、来春には統一地方選を控えた時期でもあり、霞が関や永田町が地方の人口問題への認識を変えるきっかけになった。政府はこうした認識の基で、「地方創生」を新たなキーワードに、中長期的な観点から総合的な地域対策の検討に着手した。

「地方創生国会」で本格論議

安倍首相は2014年9月29日、臨時国会開会の冒頭、この国会を「地方創生国会」と位置づけた。この中で、首相は地方が直面する人口減少や超高齢化など構造的な課題に危機感を表明し、「若者が将来に夢や希望を持てる地方の創生に向けて、力強いスタートを切る」と力説した。基本的な目標は「地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を克服する」ことだ。

安倍内閣はそのための態勢づくりとして、前自民党幹事長の石破茂氏を新設ポストの地方創生担当相に任命し、内閣府に地方政策を担う「まち・ひと・しごと創生本部」を創設した。石破担当相の下には各省の出向者を含め約70人を配置。この新設組織で、地方への新しいひとの流れをつくり、地方での仕事創出や若い世代の結婚・出産・子育ての希望を実現できるような環境づくりに取り組む。

年内にも総合戦略を策定

政府は臨時国会に地方創生の関連法案として、①人口減対策の基本理念を定めた「まち・ひと・しごと創生法案」、②自治体支援の窓口を一本化する「地域再生法改正案」の2本を提出し、審議を本格化させる。さらにアベノミクスの成果を地方に浸透させるため、1兆円超の予算措置を検討している。

ただ、地方創生に向けた課題には、多様な論点があり、一筋縄ではいかない。具体策や各論の議論はこれからだが、まち・ひと・しごと創生本部は早ければ年内にも長期ビジョンとともに、2015年度から5年間の総合戦略策定を目指す。政府は歴代政権の失敗を踏まえ、国主導のバラマキ政策ではなく、地方の自主性を尊重する姿勢を強調している。

成果乏しい歴代政権の地方対策

歴代政権が取り組んだ地方活性化策はどのようなものだったか。主な施策を振り返ると――。

竹下登内閣(1988-89年)では「ふるさと創生事業」を打ち出し、全国の市区町村に対し資金1億円を交付した。使途は自由で、各自治体が創意工夫してこの1億円を地域振興やまちづくりに活かそうというものだった。そのユニークな資金の使い方がニュースや話題になったが、政府によるその後の経済効果測定はされていない。

小渕恵三内閣(1999年)では、15歳以下の子どもがいる家族と65歳以上の高齢者らに対し、2万円分の「地域振興券」を交付し、消費を刺激しようとした。しかし、配布対象を子供とお年寄りに限定したため、家計支出には目立った変化はなく、地域振興券発行が景気回復に結びついたとの評価は少ない。

第1次安倍内閣(2007年)では「頑張る地方応援プログラム」に取り組んだ。少子化対策や定住促進、若者の自立支援など地域活性化に意欲的な自治体に地方交付税の一部を重点配分した。さらに民主党政権下の菅直人内閣(2011年)では、「地域自主戦略交付金」として、国が使途を特定する補助金の一部を自治体が自由に使い方を決められる一括交付金に切り替えた。

政権の真価問われる「地方創生」

いずれの政策も地域活性化や少子化対策で十分な効果を上げたとは言えない。翻って、第2次安倍内閣は「地方創生」を旗印に、「従来の取り組みの延長線上にはない次元の異なる大胆な政策を、中長期的な観点から、確かな結果が出るまで実行していく」(まち・ひと・しごと創生本部)と宣言した。

しかし、過疎化や人口減少に悩む地方が直面する構造的な問題の解決は容易ではない。これらの具体策は今後、国や自治体が一丸となり検討する。例えば、①人口急減・超高齢化への対応、②若い世代の就業・結婚・子育て支援、③東京圏への人口の過度の集中是正、④地域特性に即した地域課題の解決などだが、いずれも1~2年では成果の出ない難問ばかりだ。

とはいえ、日本が直面する人口減・超高齢化のスピードは諸外国と比べても際立って速い。10~20年をかけるほど悠長な話ではない。政府が一連の地方活性化策の総合戦略とその政策の具体化にどこまで踏み出せるか。女性閣僚の辞任劇で揺れる安倍内閣は「地方創生」でも政権の実行力と信頼度が問われる。

カバー写真=地方の商店街の代名詞・シャッター通り(提供・時事)

 「長期ビジョン」および「総合戦略」に関する論点

まち・ひと・しごと創生本部が2014年9月に作成した「長期ビジョン」と「総合戦略」に関する論点の主なポイント(抜粋)。

「長期ビジョン」の趣旨

50年後に1億人程度の人口維持をめざし、日本の人口動向を分析し、将来展望を示す

<論点>

Ⅰ 人口の現状と将来展望

1、日本は2008年をピークに人口減少時代へ突入し、今後一貫して人口が減少し続けると推計されている。地域によって状況が異なり、地方では本格的な人口減少に直面している市町村が多い。

2、人口減少により、経済規模の縮小や国民生活の水準が低下する恐れがある。

3、 地方から東京圏への人口流入(東京一極集中)は続いており、特に若い世代が東京圏に流入している。

4、出生率の改善が早期であるほど、人口減少に歯止めをかける効果は大きい。

Ⅱ 目指すべき将来方向と今後の基本戦略

1、目指すべき「将来方向」…将来にわたり活力ある日本社会を維持することが基本方向。国民の地方移住や結婚・出産・子育てといった希望を実現する。

2、中長期的な政策目標…①若い世代の就労・結婚・子育ての希望実現、②東京圏への人口の過度の集中是正、③地域の特性に即した地域課題の解決

3、これらの問題への対応姿勢…▽国民的論議を喚起し、人口減少は国家の根本にかかわる問題であるとの基本認識を共有し、中長期的な目標を掲げ継続的に取り組む ▽地方の発意と自主的な取り組みを基本に、国がそれを支援していく。

「総合戦略」の趣旨

長期ビジョンを基に、今後5カ年の政府の施策の方向性を提示する

<論点>

Ⅰ 取り組みの基本姿勢

▽中長期を含めた政策目標を設定し、効果検証を厳格に実施 ▽「縦割り」を排除し、ワンストップ型の政策を展開 ▽地方の自主的な取り組みを基本とし、国はこれを支援

Ⅱ 政策分野ごとの取り組みの例

1、地方への新しい人の流れを作る…▽地方移住希望者の支援 ▽企業等の地方移転・地方債用・遠隔勤務 ▽地方大学等の活性化

2、地方に仕事をつくり、安心して働けるようにする…▽地域産業基盤の強化(人材、雇用事業基盤等) ▽個別産業の基盤強化(サービス業、製造業、農林漁業、観光、医療福祉等)

3、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる…▽多子世帯・三世代同居の支援▽育児拡充など「働き方」の改革 ▽企業・業界の取り組み支援

4、時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守る…▽中山間地域等の地域の絆の中で、小さな拠点の生活サービス支援 ▽地方中枢拠点都市および近隣市町村、定住自立圏における地域インフラ・サービスの集約・活性化 ▽大都市圏における高齢者医療・介護対策、国土形成計画の見直し

5、地域と地域の連携…地方中枢拠点都市および近隣市町村、定住自立圏における「地域連携」の推進

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