「ローカル経済」の成長なしに東北の復興はない:東日本大震災・復興フォーラム

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インフラ復旧も、いまだ24万人の避難者

東日本大震災発生から4年を前に、東北の被災4県(青森、岩手、宮城、福島)などが主催する「震災復興フォーラム」が2月12日、東京都内で開かれた。被災地では道路、住宅などの復旧が進んでいるものの、いまも24万人が避難者として、仮設住宅や民間住宅、親族・知人宅などで暮らしている。鉱工業の生産は震災以前の水準にほぼ回復したが、農業・水産業の復興は道半ば。福島県の農作物に対する“風評被害”問題など、粘り強い取り組みが求められる課題も多い。

フォーラムでは、傘下の子会社が福島県、岩手県などで地域バス会社を運営する(株)経営共創基盤の冨山和彦・代表取締役CEOが「震災復興と地方創生」と題して基調講演。また「多様な主体による復興に向けた取り組み」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

「復旧」とは違う「復興」の困難さ

講演する冨山和彦氏

冨山氏は、震災後の“復旧”は「スピードがあり、世界的にみてもまれにみる成果を挙げている」とする一方、東北地方は震災前から少子高齢化が進んでおり、地域経済の再生・活性化を目指す“復興”については「復旧とは違う困難さがある」と指摘。

日本全体を見ると、大企業を中心とした“グローバル経済圏”にいる人たちは2~3割に過ぎず、残りは地域に密着した中小企業、サービス産業中心の“ローカル経済圏”にいる。このローカル経済を対象にした成長戦略に「真正面から取り組まなければならない」と提言した。

生産性向上と“経営人材”還流がカギ

冨山氏によると、地方の“ローカル経済圏”は生産労働人口が大都市に先行して減少しており、人手不足が恒常化。決して仕事がないわけではないという。ただし「相応の賃金」、「安定した雇用形態」、「やりがいやプライド」を持って働ける「質の高い仕事」は不足しており、若者の流出が続いてしまう。

具体的な例として、日本を訪れる外国人旅行者が円安効果などで増えており、政府は東京五輪開催の2020年には年2000万人を受け入れる目標を立てているが、「このままでは(現在のサービス産業の質の問題から)2000万人の対応はできない」と述べた。

今後の対策として、冨山氏は「先進国で最低レベルの、非製造業の労働生産性引き上げが急務。せめて欧州並みにしなければ」と述べたほか、“ローカル経済圏”の経営課題は「ひと」だとし、大都市に偏っている経営人材を地域企業へ還流・循環する施策が必要だと提言した。

また、少子高齢化が先行する東北地方で起きている事象は、首都圏など他の地域にとっても「“他人事”ではない」と強調。「東北の未来は日本の未来だととらえ、復興の問題に寄り添ってほしい」と訴えた。

東日本大震災・復興の主な状況(2014年9月)

避難者 24万3040人
(うち避難指示区域からは約7万9000人)
復興住宅 14%完了、87%用地確保済み
防災集団移転 30%完了、95%着工
海岸対策 19%完了、73%着工
国道 99%本復旧
鉄道 91%で運行再開
復興道路整備 39%完了、93%着工
津波被災農地 70%で営農再開
水道施設 95%が本格復旧

※復興庁の資料より作成

風評問題、まだ解消に至らず

パネルディスカッションでは日本貿易振興機構(ジェトロ)の中村富安理事、福島大学経済経営学類の小山良太教授、一般社団法人RCF復興支援チームの藤沢烈代表理事、(株)久慈設計(盛岡市)の久慈達也社長の4氏が登壇。

福島県産農産物の安全対策に関わる小山氏は、全農地の放射性物質分布マップ作成や耕作時の放射性物質吸収抑制策など、最新の施策を紹介。「福島だけが高水準の検査を体系的に実施している」と指摘した。一方で「進んだ取り組みをしても、最近はなかなか報道で取り上げられることが少なく、風評問題はなかなか解消につながらない」とも。汚染された農地を“条件不利地域”として対策を進めるなど、国が法令を整備することが必要だと提言した。

福島大学の小山良太教授

被災地のコミュニティ・産業復興に携わる藤沢氏は、「震災後に近所付き合いが減っている人は、復興を実感する割合が低い」との調査結果を紹介。人や地域とのかかわりを増やす「場づくり」「組織づくり」が重要だとして、福島県双葉町や岩手県釜石市での取り組みを語った。

中村氏は、被災県の農産物、水産物の輸出支援の状況を紹介。青森産ホタテのEU向け輸出が再開された事例や、福島産モモのタイ・マレーシアでの販路拡大策などについて説明した。久慈氏は、農業・水産業・工業などを専門的に学ぶ被災地の公立高校で、国の補助金の対象にならない実習機材、装置類を整備している経済同友会の活動を紹介した。

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