韓国のMERS感染拡大、警戒続く

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死者20人超える規模に

韓国が中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスの感染拡大に苦悩している。初動対応のまずさもあり、死者は20人を超えて、中東以外では最大の感染規模となった。韓国社会で不安が広がる中、外出を控える動きも強まり、観光や消費が大きく落ち込んだ。

韓国銀行(中央銀行)は、景気をてこ入れするために政策金利を過去最低水準の1.5%にまで引き下げ。外交にも影響が及び、朴槿恵(パク・クネ)大統領は6月14〜18日に予定していた訪米を延期した。今回のMERS騒動は、2014年4月のセウォル号沈没事故に続き、韓国社会における「安全・安心」に再び大きな疑問符を付ける形となった。

感染した慢性疾患患者が重症化か

MERSウイルスの感染源は中東のヒトコブラクダとみられており、せきなどの飛沫(ひまつ)や直接の接触でヒトからヒトへと感染し、高齢者や乳幼児、心臓病や糖尿病など慢性疾患患者などは重症化しやすいとされる。症状はのどの痛みや38度以上の発熱、せきなどで、風邪とよく似ている。しかし致死率は約40%で、怖いのは予防のためのワクチンや治療薬がないことだ。

韓国からの報道によると、6月24日現在、死者27人(渡航先の中国で確認された韓国人1人を含む)、感染者は179人。隔離対象者は3109人で、1週間前の6000人台から大幅に減った。韓国政府は同15日の記者会見で、「感染はすべて医療機関に関連して起きており、地域社会には広がっていない。日常生活は全く問題ない」と訴えた。

今回のMERS騒動の発端は、サウジアラビアなど中東諸国に滞在した後、韓国に帰国した68歳の男性によってウイルスが持ち込まれたことだ。男性は帰国後に体調を崩し、いくつかの病院と診療所を訪れ、数十人の他の患者や医療関係者にうつしたとされる。

拡大の背景に、韓国流”ドクター・ショッピング“?

朴大統領がMERS感染について公言したのは6月1日で、最初の症例が確認されてから12日後だった。また、韓国保健省は当初、MERS患者を治療している病院名を公表せず、市民の不安をあおったと批判された。

韓国では、最初に診察された病院で患者が満足しなければ、次々に別の病院を訪れる“ドクター・ショッピング”と呼ばれる慣行がある。入院患者を家族や親族が泊まり込みで面倒をみるのも一般的で、これらの点が感染拡大の背景にあるとの見方もある。

2009年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が世界的な感染拡大を見せた際、韓国は徹底的な入国管理対策をとり、国内感染を阻止した実績がある。しかし、今回は初動対応で後手が目立ち、感染拡大は「人為的ミス」との指摘もある。

観光業を直撃、8月までに9億ドルの損失も

ソウル市内ではバス、地下鉄など公共交通機関の利用者が減り、タクシーで移動する人が増えたという。全国で2900もの学校が休校措置をとったが、世界保健機関(WHO)は「リスクの現実を反映していない」として、授業を再開するよう要請。韓国社会が、ちょっとしたパニック状態に陥っている。

外国からの観光客も激減。韓国観光公社によると、6月に入って11万人を超える外国人が韓国旅行を取りやめた。韓国政府は、今回の感染拡大で観光客が約25%減っており、このまま20%台の減少が8月まで続けば約9億ドルの観光収入が失われると試算している。

韓国の感染拡大を受け、日本もMERS対策に本腰を入れ始めた。厚生労働省や成田空港を抱える千葉県などの関係自治体は警戒態勢を敷いている。

日韓交流にも悪影響出る

日韓間の人的往来は毎日およそ14,000人。韓国保健福祉省は15日、隔離対象者に2人の日本人が含まれていることを明らかにした。2人は既に帰国し、保健所に毎日2回、体温を報告するなど異常がないかチェックしているという。

MERS騒動は日韓交流にも影響を及ぼし始めている。韓国観光公社は6月27、28の両日、東京で予定していた観光紹介イベントを中止。姉妹都市などの自治体間で行われる予定だった相互交流、文化交流の一時延期、キャンセルも相次いている。

一方、そうしたもやもやを吹き飛ばそうとする動きもある。日韓の超党派の国会議員ら計約40人は6月13日、ソウルのワールドカップ競技場でサッカーの親善試合を9年ぶりに行って交流を深めている。

日本の厚生労働省は、感染の疑いがある人に対して保健所に連絡するよう求めるとともに、感染者についてはその後、病原体を外に漏らさない設備のある感染症指定医療機関に入院させるという方針を取っている。

塩崎恭久厚生労働相は6月22日、日本医師会の横倉義武会長と面会し、国内で感染者が見つかった場合の対応について協力を求めた。横倉会長は面会後、記者団に対し、「日本で感染の広がりはないと思うが、国民に安心してもらうためには、第一線の医師がしっかりやらなければならない」と述べた。

文・村上 直久(編集部)

(編集部注:6月25日に、数字や状況を最新のものに差し替えました)

バナー写真:中東呼吸器症候群(MERS)患者らの隔離治療が行われているソウルの国立中央医療院を視察する朴槿恵韓国大領領(右)=2015年6月5日(韓国大統領府提供、時事)

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