五輪エンブレム、使用中止で白紙に

政治・外交 経済・ビジネス 社会

2020年東京オリンピック(五輪)の大会組織委員会(会長・森喜朗元首相)は1日、五輪公式エンブレムの使用を中止し、今後新たなデザインを公募して制定し直すと発表した。エンブレムは7月24日に発表されたが、デザインがベルギーの劇場のロゴと似ているなどとして訴訟が起こされているほか、作者が手がけたこれまでの仕事に「引き写し」「模倣」があるとの指摘が相次ぎ、組織委は「このままでは国民の理解が得られない」(武藤敏郎事務総長)と判断した。

いったん発表した五輪の公式エンブレムが使用中止となるのは極めて異例。すでに組織委のスポンサー企業はエンブレムを広告などに使用しており、大きな混乱も予想される。

東京五輪をめぐっては、メーンスタジアムとなる新国立競技場の建設費用、規模などが大きな批判を受け、計画見直しが決まったばかり。エンブレム使用中止というさらなる“不祥事”で、大会のイメージダウンが懸念される。

バッグのデザイン「模倣」認め謝罪

五輪エンブレムをデザインしたのは、多摩美術大学教授のグラフィックデザイナー、佐野研二郎氏(43)。発表直後からデザインがベルギー・リエージュ劇場のロゴに似ているとの指摘が主にネット上で話題となり、ベルギーのデザイナーがエンブレムの使用差し止めを国際オリンピック委員会(IOC)に求める訴訟を起こす事態になっていた。

佐野氏は8月5日、記者会見してデザインの盗用を完全否定。しかし、同月中旬には自らが手がけたサントリービールの販促景品(トートバッグ)のデザインに、海外の作品などと酷似したもののあることが発覚。サントリーは、一部のバッグを発送停止する措置を取り、佐野氏もデザインに「模倣があった」として謝罪した。

組織委がオリジナルとしたデザイン「原案」も火種に

その後も、佐野氏の過去の作品の数々をめぐり、似ている作品があるなどとして「オリジナルか否か」の議論が噴出した。組織委は28日に記者会見を開き、五輪公式エンブレムの詳細な選考経過を説明。佐野氏が当初提出した「原案」のデザインは、ベルギーの劇場ロゴとは「似ていなかったこと」ことなどを明らかにし、オリジナルであるとの見解をあらためて示した。

8月28日に五輪大会組織委が明らかにした、佐野研二郎氏のデザイン原案(左)と修正案(中央)、完成形(右)(時事)

しかし、このデザイン「原案」についても、すぐに「2013年に東京で開かれた『ヤン・チョヒルト展』のポスターに似ている」との指摘があった。さらに、佐野氏が五輪エンブレムの使用例として組織委に出したイメージ画像が、他人のインターネット・サイトから無断転用したことも明るみに出て、組織委は一転エンブレムの使用中止にかじを切った。

佐野氏はイメージ画像の転用は認めたものの、エンブレムの「模倣や盗作は断じてしていない」とコメント。一方で、「もうこれ以上今の状況を続けることは難しいと判断」してデザイン取り下げに同意したという。

組織委は、五輪エンブレムとセットでつくられたパラリンピックのエンブレムも使用中止とした。

東京五輪エンブレムをめぐる動き

7月24日 エンブレムのデザインを発表
29日ごろ デザインがベルギー・リエージュ劇場のロゴに似ているとネット上で話題に
8月3日 リエージュ劇場のロゴデザイナーの代理人がエンブレムの使用差し止めを求める文書をJOCに送っていたことが明らかに
8月5日 エンブレムのデザイナー、佐野研二郎氏が記者会見し、盗用を否定
8月13日 佐野氏がデザインしたトートバッグ(サントリービールの販促キャンペーン景品)に著作権上の疑義が指摘され、30種類中8種類が発送停止に
8月14日 ベルギーのデザイナーがIOCに対し、五輪エンブレムの使用差し止めを求める訴訟を現地の裁判所に起こす
8月28日 大会組織委が記者会見し、佐野氏のエンブレム「原案」はリエージュ劇場のロゴに似ていなかったなどと経緯を説明
30日ごろ 佐野氏の「原案」が、2013年に東京で開かれた展覧会のポスターデザインに似ているとの指摘がネット上で話題に。応募資料で使われたイメージ画像も無断転用を指摘される
9月1日 組織委がエンブレムの使用中止を決定

バナー写真:エンブレム使用中止を受け、東京都庁に掲示された2020年東京五輪・パラリンピックのポスターをはがす職員=2015年9月1日夜、東京都新宿区(時事)

東京五輪 新国立競技場