「民泊」でトラブル急増—政府、ルール作りに着手

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訪日外国人客が増加の一途をたどる中、個人宅の一部やマンションの空き部屋などを宿泊施設として無許可で貸し出す「民泊」のトラブルが急増している。現状は旅館業法に違反し、安全・衛生面に加え、防犯上も問題がある“闇ホテル”。だが、2020年の東京五輪開催を控え、「ホテル・旅館の収容力不足を補う有効な手段」との見方もあり、政府は民泊容認に向けたルール作りに乗り出した。

中国からの観光客約300人を賃貸マンションに

京都府警は11月4日、無許可で中国人向けの「民泊」を営んだとして、旅館業法違反(無許可)の疑いで、東京都千代田区の旅行会社顧問(52)と山形市の旅館業者役員(48)を事情聴取、容疑が固まりしだい書類送検する方針だ。

短期賃貸マンションを利用して大規模に営業しており、同府警は悪質とみて摘発に踏み切った。捜査関係者によると、2人は京都市右京区のマンション(5階建て、全44室)の36室を7月から3カ月間借り上げ、上海の旅行会社が募集したツアー客の宿泊施設にしていた。1日の利用者は約30-70人で、宿泊料は1泊7000円だった。

京都府旅館ホテル生活衛生同業組合の関係者は、「許可を受けた宿泊施設と同じ地域での違法営業は問題だ」と憤っている。

ネットで仲介、マンションの「ゲストルーム使用」も

東京、大阪などの大都市にあるタワーマンションでも、民泊をめぐるトラブルが多く指摘されている。投資目的で購入された賃貸物件を借主が“闇ホテル”として旅行者に提供したり、共用施設として居住者が有料で使用できる「ゲストルーム」をまた貸しするケースもある。いずれも宿泊者のマナーの悪さなどから闇営業が発覚し、居住者が悲鳴を上げて保健所や警察に通報している。

「民泊」急増の背景には、マンションなど宿泊物件を持つ「貸し手」と旅行者などの「借り手」がインターネットを使って簡単に“つながる”ことができるようになったことが挙げられる。米国の仲介サービス会社Airbnb(エアビーアンドビー)によると、同社の運営サイトに登録された日本国内の民泊物件はこの1年間で5倍増え、1万6000件に達している。

しかし、そもそも「民泊」という無許可ビジネスは、日本では法律で認められていない。ホテルや旅館などの宿泊施設は旅館業法でフロントの設置や宿帳への記入義務、部屋数、安全に泊まるための防火設備の設置などが細かく規定されている。民宿でさえも、開業には自治体の許可が必要だ。

訪日客増加で、ホテル客室が不足

2015年8月の宿泊施設稼働率は東京都が83.6%、大阪府が90.4%に達し、予約が困難になるとされる80%を大幅に上回った。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、ホテル・旅館不足が懸念されている。

みずほ総研は、現在の増加ペースが続けば2020年の訪日外国人観光客数は2500万人に達し、東京、大阪、京都、福岡など11都道府県で約1万室が不足すると予想している。その不足分を埋めるための切り札として、“民泊解禁”を求める声もある。東京都内では今後の規制緩和を期待して、民泊を事業として手がけようと物件探しを進めている旅行会社も多い。

「民泊特区」

こうした中で政府も動き出した。10月に開いた「国家戦略特区に関する諮問会議」で、羽田空港に近い東京都大田区で25平方メートル以上の部屋など一定の条件で民泊を認めることを決めた。「民泊特区」の設置だ。

安倍晋三首相は同会議で、「国家戦略特区は規制改革の突破口だ。日本を訪れる外国の方々が滞在経験をより便利で快適なものとなるようにしていかなければならない」と述べた。

大阪府も特区に指定されており、10月に条件付きで民泊を認める条例を成立させた。条件は、①パスポートの確認、②部屋が25平方メートル以上で台所と冷暖房設備があること、③7日以上の滞在客に限ること、を挙げた。ただ、パスポートの確認をだれが行うのか、7日以上の宿泊提供に対する需要がどれほどあるのかなど、問題は多々ある。

民泊を認めた場合のトラブルを減らすために、厚生労働省と国土交通省は11月、安全面、衛生面などのルール作りを話し合う有識者会議を立ち上げた。2016年中に報告書をまとめる。

訪日外国人客予想 2015年  2000万人
2020年  2500万人
宿泊施設稼働率2015年8月 全国平均 70.2%
東京都  83.6%
大阪府  90.4%
インターネットサービス会社Airbnbに登録された日本国内の民泊物件 ここ1年間で5倍増え1万6000件
大阪府の民泊条例の条件 ①パスポートの確認、②部屋が25平方メートル以上で台所と冷暖房設備賀あること、③7日以上の滞在客に限ること

取材・文: 村上 直久(編集部)

バナー写真:免税店で日本製の家電を大量に購入(爆買い)した外国人観光客。政府は2015年版観光白書で、訪日外国人が支払う買物代や宿泊費などの旅行消費額が急拡大し、ショッピング目的で訪日する中国人が増えているとした=2015年6月14日、東京都中央区銀座(時事)

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