消費増税法案に反対した民主党議員に断固たる処分を

白石 隆【Profile】

[2012.07.10] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

消費増税をめぐる民主党の分裂

6月26日、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる消費増税関連8法案が衆院本会議でやっと可決された。法案の採決では民主党の小沢一郎(元代表)、鳩山由紀夫(元首相)ほか、57人が反対、16人が棄権・欠席した。

これを受けて小沢一郎氏は7月2日、消費税増税方針に反対した衆院議員38人、参院議員12人とともに離党届を提出した。一方、民主党は野田佳彦首相も出席した役員会で、小沢氏ほかを慰留しない方針を確認。除籍処分とする見通しである。

小沢氏ほかの離党により野田首相の政権基盤が大きく揺らいだことは、広く指摘されている。その通りだろう。しかし、日本の財政の現状を考えれば、民主党の党内融和のために消費増税を先伸ばしするという選択はありえない。民主党ではこれまでTPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加についても、消費増税についても、原子力発電所再稼働についても、常に党内を二分する対立があり、これが政府・与党の政策決定・国家運営の大きな障害となってきた。

この対立の基底には、政策の基本原則を生産性向上に置くか、再分配(ばらまき)に置くかの対立がある。小沢氏ほか50人の離党によって、民主党内における再分配派の勢力が低下し、政策決定がやりやすくなるのであれば、大いに歓迎である。政府・与党としては、これを機会にTPP交渉参加、衆院における一票の格差の是正、補正予算案の編成、来年度予算案作りに向けた概算要求、社会保障分野の抜本改革等について、自民党、公明党との政策協議を推進してほしい。

もう1つ注目すべきは、消費増税法案に反対したにも関わらず、離党届を出さなかった鳩山由紀夫元首相、山田正彦元農水相ほか17人の処遇である。読売新聞(7月3日)によれば、離党届けを提出した議員は除籍、衆院採決で反対したものの離党届けを提出しなかった議員は党員資格停止、棄権・欠席の議員はさらに軽い処分とする方向だという。しかし、消費増税法案は、野田首相がくりかえし「政治生命をかける」と言った法案であり、これに反対あるいは棄権することは首相不信任を表明するに等しい。そういう人たちの離党を怖れ、軽い処分で済まそうとすれば、民主党は党としての存在そのものを問われかねない。

野村証券の不祥事と投資家の信頼

野村ホールディングス(HD)傘下の野村証券が3件のインサイダー取引に関与した問題で、6月29日、調査報告書が公表された。調査委員会は社外弁護士から構成され、報告書では、情報漏洩は機関投資家営業部が主導し、投資銀行部門などから情報を入手していたことが明らかにされた。報告書は機関投資家営業部について「収益の数値目標を達成するためには、手段を選ばない営業姿勢だった」と指摘し、調査委員の1人は「部を挙げてやっていた」と述べている。また、渡部賢一グループ最高経営責任者(CEO)も、「投資銀行部門」と「機関投資家営業部」の間の情報の流通を遮断するしくみが「一部で機能していなかった」と情報管理の不備を認めている。

野村証券は再発防止策として、機関投資家向け営業を監視する「エクイティ管理部」を新設し、通話録音機能付携帯電話使用の義務化、研修強化等の措置を取ると発表した。また、野村HDは社内処分を発表し、CEOは半年間50%の減給、機関投資家営業部は5日間、営業を自粛するとした。

日本の株式市場が長期にわたって低迷していることは誰もがよく知っている。それも1つの理由であろう。証券会社の中には、証券税制の10%軽減税率再延長を求める署名活動を実施しているところもある。しかし、今回、明らかにされた野村証券の不祥事のような事案は決して例外ではなく、これまでもしばしば、また他の証券会社でも起こっている。国内外の投資家の信頼なしに、株式市場の繁栄はありえない。短期的な業績目標達成のために、投資家の信頼をしばしば裏切っているのでは、野村証券はじめ証券会社のガバナンスに深刻な問題があると言わざるをえない。CEO給与の半年間50%減給、関連部門の5日間営業停止程度で「みそぎ」ができると考えているのであれば、問題は相当、深刻である。

大飯原子力発電所の再稼働

7月1日、関西電力は、大飯原子力発電所3号機(福井県おおい町、出力118万kW)の原子炉を起動した。昨年3月の東京電力福島第一原発事故以降、定期検査を終えた原子力発電所が再稼働するのはこれが初めてである。関西電力によれば、大飯原子力発電所の再稼働によって、この夏の節電目標は15%から10%に下がるという。大いに歓迎である。

しかし、それにしても大飯原発再稼働までの経緯を見るにつけ、山田啓二京都府知事、嘉田由紀子滋賀県知事、松井一郎大阪府知事、橋下徹大阪市長などが、安全確保を理由に再稼働にどれほど反対したか、ぜひ忘れないようにしたい。この夏、どれほどの猛暑になるかによって計画停電の可能性はまだある。しかし、大飯原発の稼働によって関西における計画停電の可能性はかなり小さくなった。その結果、計画停電が企業経営とわれわれの日常生活にどれほど深刻な影響を与えるか。そんな体験はしない方がよいに決まっているが、その可能性も小さくなった。

停電になれば、もちろんエアコンは使えない。熱中症にかかる人は間違いなく増える。家庭では冷蔵庫が使えず、生鮮食料品の保存が難しくなる。食中毒も増える。外食産業も冷蔵庫、冷凍庫が使えず、生鮮食品の作り置きもできない。廃業に追い込まれるところも出るだろう。こういう極めて具体的なリスクを、山田知事、嘉田知事、松井知事、橋下市長ほか、大飯原発の電力消費地の首長がどれほど考慮したのか。原子力発電所の安全性についての住民の漠とした不安を理由に大飯原発再稼働に反対したとすれば、脱原発のムードにフリーライドしたと批判されても仕方ないだろう。

(2012年7月3日記)

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nippon.com編集企画委員会顧問。政策研究大学院大学学長、ジェトロ・アジア経済研究所所長。1950年愛媛県生まれ。1974年東京大学大学院国際関係論修士課程、1977年米コーネル大大学院博士課程修了。コーネル大歴史学科・アジア研究学科教授、京都大学東南ア ジア研究センター教授を経て2005年から政策研究大学院大学教授。2007年、紫綬褒章を受章。2009年1月から2013年1月まで内閣府総合科学技術会議議員。2011年10月から2014年3月までnippon.com編集長。著書に『海の帝国―アジアをどう考えるか』(中央公論新社/2000年/吉野作造賞受賞)、『帝国と その限界―アメリカ・東アジア・日本』(NTT出版/2004年)など。

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