TPPで前進した日米首脳会談と原発活断層問題

白石 隆【Profile】

[2013.02.26] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

TPP、安倍首相はさらなるリーダーシップを

2月22日、安倍晋三首相は、ワシントンでバラク・オバマ大統領と会談し、環太平洋パートナーシップ(TPP)に関する日米共同声明において、「すべての物品が交渉の対象とされる」とした上で、日本、米国ともに2国間貿易上のセンシティビティが存在すること、最終的な結果は交渉の中で決まっていくこと、「交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」ことの3点を確認した。

予想されたことではあるが、これによって、自民党が2012年12月の総選挙で公約した「聖域なき関税撤廃が前提ではない」ことが確認されたとして、政府はTPP交渉参加を表明することができるようになった。世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドが行き詰まる中、アジア太平洋における自由貿易圏構築のルール作りに日本が参加しないという選択肢はなかっただけに、これは大いに歓迎である。

共同声明にもある通り、交渉の結果、いくつかのセンシティブな品目がTPPの例外項目となる可能性は十分ある。しかし、「聖域なき関税撤廃が前提ではない」と言って、交渉の中で次々と「聖域」を設定されるのは困る。TPPの目的は、アジア太平洋において、例外品目のできるだけ少ない、質の高い自由貿易圏を作ることにある。そのために安倍首相のさらなるリーダーシップが期待される。

原発における活断層問題への疑義

原子力規制委員会の専門家チームは、1月28日、日本原子力発電敦賀原子力発電所(福井県敦賀市)2号機の原子炉建屋直下を走る破砕帯(断層)「D-1」について、敷地北部で見つかった新たな断層は「約13万年前以降の活動を否定できず、活断層の可能性が高い」と指摘し、「(敷地内の活断層の)浦底断層と同時に活動し、(2号機の)重要施設に影響を与える恐れがある」と結論した。

また、原子力規制委員会有識者会合は、2月18日には、東北電力の東通原子力発電所(青森県東通村)の敷地内断層についても「活断層である可能性を否定できない」とする報告書案を大筋で了承した。その結果、敦賀原発と東通原発の再稼働は認められないのではないかという懸念が高まっている。

わたしは、敦賀原発についても、東通原発についても、敷地内の断層が「活断層である可能性を否定できない」とする原子力規制委員会の専門家チームの判断に疑義をはさむつもりはない。しかし、国が現在見直し中の「原子炉立地審査指針」において、原子炉などの設置は「活断層の上」にある場合には認められないとするのであれば、これは大いに疑問であると言わざるをえない。

活断層上の原発「再稼働させず」の合理性に疑問

誤解のないよう、あらかじめ確認しておけば、このことは、原子炉立地審査指針の見直しは不要である、ということではない。

第169回国会(2008年1月18日~6月21日)における、原子炉立地審査指針に関する近藤正道参議院議員提出の質問主意書に対する政府の答弁(答弁書第82号)に見るように、これまでの政府の指針は、「発電用原子炉施設が『活断層の上』にあることのみをもって立地指針に不適合となるものではない。なお、発電用原子炉施設の耐震安全性については、新耐震指針等に基づいて、活断層が発電用原子炉施設にどのような影響を及ぼすか、また、それに対してどのような耐震安全設計を講じるかを厳格に評価した上で、判断するものである。」というものだった。

この指針では、福島第1原発の事故を経験した現在、広範な国民的信頼はおそらく得られないだろう。その意味で、原子力規制委員会が、2012年11月、原子炉立地審査指針を見直し、国際基準並みに厳しくするとともに、建設済みの原子力発電所にも適用することにしたのは十分理解できる。

問題はその中身である。原子力規制委員会の2月6日付「新安全基準(地震・津波)骨子案」によれば、地震および津波に対する設計の基本方針の要求事項として、「重要な安全機能を有する施設は、将来活動する可能性のある断層等の露頭が無いことを確認した地盤に設置すること」とされた。また、要求事項の詳細では、「将来活動する可能性のある断層等」として、「後期更新世以降(約12~13万年前以降)の活動が否定できないものとする」、さらに「その認定に当たって、後期更新世の複数の地形面又は連続的な地層が欠如する等、後期更新世の活動性が明確に判断できない場合には、中期更新世以降(約40万年前以降)まで遡って地形、地質・地質構造及び応力場等を総合的に検討した上で活動性を評価すること」とされた。

一般に、現生人類のホモ・サピエンスは14~20万年前に地球に現れた、と考えられている。文明が生まれたのは5~6千年前(チグリス、ユーフラテス川流域にメソポタミア文明が生まれたのは紀元前3500年ごろ、ナイル川流域に古代エジプト文明が生まれたのは紀元前3000年ごろ)のことである。日本では、『魏志倭人伝』に記される倭国の王、卑弥呼が生きたのが3世紀半ば、1750年前ごろである。つまり、別言すれば、原子力規制委員会の立地審査指針案では、人類誕生以来、規模を問わず、一度でも活動した可能性のある地層の上には原発は作らせないし、すでにあるものも再稼働させない、ということになる。これが果たして国の政策としてどれほど合理的か。極めて疑問である。

(2013年2月25日 記)

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  • [2013.02.26]

nippon.com編集企画委員会顧問。政策研究大学院大学学長、ジェトロ・アジア経済研究所所長。1950年愛媛県生まれ。1974年東京大学大学院国際関係論修士課程、1977年米コーネル大大学院博士課程修了。コーネル大歴史学科・アジア研究学科教授、京都大学東南ア ジア研究センター教授を経て2005年から政策研究大学院大学教授。2007年、紫綬褒章を受章。2009年1月から2013年1月まで内閣府総合科学技術会議議員。2011年10月から2014年3月までnippon.com編集長。著書に『海の帝国―アジアをどう考えるか』(中央公論新社/2000年/吉野作造賞受賞)、『帝国と その限界―アメリカ・東アジア・日本』(NTT出版/2004年)など。

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