日本のTPP交渉参加承認とアウンサンスーチー氏訪日

白石 隆【Profile】

[2013.04.24] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

7月に日本がTPP交渉参加へ

日本政府は4月12日、日本の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加をめぐる事前協議で、米国政府と正式合意に達した。その概要はすでに広く報道されているが、日米は他の交渉参加国とともに、「TPPの輪郭」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことを確認するとともに、経済成長促進、二国間貿易の拡大、法の支配のさらなる強化のために、共に取り組んでいくこととした。

また、この目的達成のために、TPP交渉と並行して、保険、規格・基準などを対象分野として非関税措置に取り組むこと、懸案となっていた自動車分野の貿易について、基準、流通、インセンティブなどを対象とする交渉を行うこと、米国の自動車関税の撤廃を最大限、先送りすることで日米は合意した。4月20日には、日本のTPP交渉参加に必要な交渉参加11カ国すべての承認も得られ、日本は7月にもTPP交渉に参加できる見通しとなった。

各国・地域と相次いでFTA/EPA交渉開始

これに先立つ3月25日には、折からのキプロス危機で電話会談となった、日本と欧州連合(EU)の首脳会談で、日EU経済連携協定(EPA)交渉立ち上げが決定された。また、3月26~28日には、昨年11月20日の日中韓経済貿易大臣会合における日中韓自由貿易協定(FTA)交渉開始宣言を受けて、第1回交渉会合がソウルで開催された。この会合では、物品貿易、サービス貿易、投資について、作業部会が開催されるとともに、原産地規則、税関手続き・貿易円滑化、競争などについても次回会合から交渉を始めることが決められた。さらに、日中韓経済貿易大臣会合と同日に開催されたASEAN+6(東南アジア諸国連合10カ国と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)首脳会談でその立ち上げが合意された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も、2015年末までの交渉完了を目指し、5月に第1回交渉会合をブルネイで、9月に第2回会合をオーストラリアで開催する予定である。

こうした広域・多国間のFTA/EPA交渉と並行して、二国間のFTA/EPA交渉も動き始めた。2007年4月、第1次安倍晋三内閣の時代に始まった日豪EPA交渉は、小麦、牛肉、乳製品、砂糖の関税撤廃をめぐって行き詰まっていたが、昨年12月28日の電話会談で両国首脳が交渉の早期妥結を目指して協力していくことで一致。これを受けて、4月上旬には、牛肉など農産品の一部について、日本が高関税を原則として残した上で、一定量を低関税で受け入れる枠を設けることで合意が成立した。この結果、日豪FTA/EPAは、自動車関税の扱いについて最終調整ができれば、この夏にも妥結の見込みという。

さらに、昨年11月に始まった日加EPA交渉については、4月11日、茂木敏充経済産業相とカナダのファスト国際貿易相の会談で、交渉本格化が合意され、また、昨年6月に始まった日本・モンゴルEPA交渉についても、3月の安倍首相のモンゴル訪問に際し、早期妥結に向けて精力的に交渉を進めることで合意された。

広域・多国間のFTA/EPAの重要性

つまり、まとめて言えば、第2次安倍内閣が成立して、やっと、広域・多国間のFTA/EPA、二国間FTA/EPA交渉が本格的に動くようになった。2001年に始まった世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉ドーハ・ラウンドが、米国・EUと中国、インドをはじめとする新興国・発展途上国の対立によって行き詰まっている中、21世紀の貿易ルール作りは、TPP、今年2月13日の米EU首脳共同声明で交渉入りの手続きが始まった環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)、日本とEUのEPA、RCEP、日中韓FTAといった広域・多国間のFTA/EPA交渉のかたちで進んでいる。

それらがどれほど重要であるかを理解するには、こうした広域・多国間のFTA/EPAの交渉参加国数と世界経済に占めるそのシェアを見ればよい。TPPの交渉参加国は日本を含めて12カ国、世界経済に占めるシェアは38%に達する。RCEPは交渉参加国28カ国、世界経済に占めるシェアは28%、日EU・EPAは交渉参加国34カ国、世界経済に占めるシェアは34%である。こうした交渉がすべてまとまれば、日本は世界の主要貿易相手国の大半とFTA/EPAを締結し、いままで以上に、また他国との競争で不利にならないかたちで、自由貿易の利益を享受できることになる。

同時に、われわれとしては、広域・多国間のFTA/EPAといっても、そこに大きく二つのタイプがあることはよく理解しておく必要がある。TPP、TTIP、日EU・EPAは先進国を中心とした21世紀の通商ルール作りに最大の意義がある。これはTPPの狙いとしてつとに指摘されていることであるが、同じことは、例えば、米EU首脳共同声明に、米国とEUはTTIP交渉によって、米EU間のみならず、多国間貿易システムを強化するグローバルなルールの発展にも貢献する、とあることに見てとれる。

一方、RCEP、さらに日中韓FTA―わたしとしては後者の交渉妥結は当分期待できないと考えるが―は、この30年、東アジア経済の事実上の統合のエンジンとなってきた地域的な生産ネットワークを支え、さらにその拡大を促すルール作りを狙いとする。その意味で、これは企業が使いやすいEPAの実現が眼目である。日本はこの二つのタイプの広域・多国間のFTA/EPAのルール作りに参加することで、21世紀世界経済の成長センターであるアジアに位置するメリットを最大限に享受することができる。

スーチー氏にとっての日本の重要度の低さ 

ミャンマーの民主化運動のシンボル、アウンサンスーチー氏が4月中旬に訪日し、大変な歓迎を受けた。16日には岸田文雄外相と意見を交換し、18日には安倍首相と会談したばかりか、16日には皇太子殿下とも面談した。まさに国家元首並みである。

わたしは、常々、スーチー氏にとって日本の重要度は相当低いと考えてきた。それを見るには、2011年の民政移管以降、スーチー氏が外遊を許されるようになって、どこを訪問したかを想起すればよい。彼女はまず欧州を訪問し、そのあと米国、タイ、インド、韓国を訪問して、今回やっと訪日となった。(なお、彼女はタイ以外のASEAN諸国をまだ訪問していないが、ミャンマーにとってのASEANの重要性を考えれば、これはおよそ理解できないことである。)

また、スーチー氏と日本政府要人の会談内容を側聞するにつけ、おそらくミャンマーの軍事政権(国家平和発展評議会)時代、日本とASEANが軍事政権を支持したとはいわないまでも、黙認した、そう批判的に見ているし、そのこともあって、日本のミャンマー延滞債務問題解消措置について極めて批判的であり、民政移管後の日本の援助についてもおそらく好意的に受け止めてはいない、と考えてきた。

さらにまた、ミャンマー政府と少数民族の和平達成のため、日本の政府と民間団体がどのような活動をしているか、彼女はおそらく知らないし、関心もないだろう、とも考えてきた。日本政府としては、こういうことはすべて承知の上で、彼女を歓待したはずである。ミャンマーが重要だからである。今回の訪日をきっかけに、スーチー氏が日本・ミャンマー関係、さらにはミャンマーにおける日本の協力について、少しは理解を深めることをぜひとも期待したい。

(2013年4月20日 記)

  • [2013.04.24]

nippon.com編集企画委員会顧問。政策研究大学院大学学長、ジェトロ・アジア経済研究所所長。1950年愛媛県生まれ。1974年東京大学大学院国際関係論修士課程、1977年米コーネル大大学院博士課程修了。コーネル大歴史学科・アジア研究学科教授、京都大学東南ア ジア研究センター教授を経て2005年から政策研究大学院大学教授。2007年、紫綬褒章を受章。2009年1月から2013年1月まで内閣府総合科学技術会議議員。2011年10月から2014年3月までnippon.com編集長。著書に『海の帝国―アジアをどう考えるか』(中央公論新社/2000年/吉野作造賞受賞)、『帝国と その限界―アメリカ・東アジア・日本』(NTT出版/2004年)など。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告