中国台頭への東アジアと世界の「温度差」
アジアと世界の変化に日本はどう対応すべきか

白石 隆【Profile】

[2014.01.09] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

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世界経済の変化

年頭に当たり、長期の大きな課題について記しておきたい。

まずは表を見ていただきたい。これは世界経済における主要国・グループのシェアを示したものである。

世界経済における主要国・グループの国内総生産(GDP)シェア

単位:%

  1990年 2000年 2010年 2018年
(予測)
世界全体 100 100 100 100
先進国(Advanced economies) 80 79.9 65.7 58.5
先進7カ国(G7) 65.4 66 50.5 44.7
米国 26.7 31.4 23.4 22.2
日本 13.9 14.5 8.6 6.1
欧州連合(EU) 31.5 26.1 25.6 22.1
新興国・途上国(Emerging market and developing economies) 20 20.1 34.3 41.5
アジア新興国(Developing Asia) 4.8 6.8 14.9 20.4
中国 1.7 3.7 9.3 14.2
東南アジア諸国連合 主要5カ国(ASEAN-5) 1.3 1.5 2.5 3
インド 1.5 1.5 2.7 2.6

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」(2013年10月)における各国・グループの名目GDP(米ドル)数値を基に筆者作成

この表についてはもちろん、いろいろな読み方ができる。例えば、アジア新興国のシェアが1990年の4.8%から、2000年の6.8%、2010年の14.9%と伸長し、国際通貨基金(IMF)の予測では2018年に20.4%に達する。これに注目し、世界経済における「アジアの台頭」について語ることもできる。また、日本のシェアが1990年の13.9%、2000年の14.5%から2010年の8.6%、2018年の6.1%へ急落していることに注目し、日本の力の相対的下落を指摘することもできる。しかし、近年の議論を想起すると、大きく二つの読み方が一般的であったように思う。

新興国台頭に対応する世界システムの再構築

その一つは、世界経済に占める先進7カ国(G7=日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)のシェアが1990年の65.4%、2000年の66%から、2010年の50.5%、2018年の44.7%へ下落する一方、新興国のシェアが1990年の20%、2000年の20.1%から2010年の34.3%、2018年の41.5%と伸長することに注目して、新興国の台頭が世界の政治経済秩序をどのように変えつつあるかを問うものである。

この10年、ほとんど普通名詞となったBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、イアン・ブレマー(米調査会社ユーラシア・グループ社長)の言う「Gゼロの世界」などは、基本的にここに注目した議論である。昨年以来、新興国経済にはかつてほどの勢いはない。しかし、それでも、新興国の台頭はこれからも続き、2020年代にはおそらく、世界経済に占めるG7と新興国のシェアが逆転し、先進国と新興国のシェアも拮抗(きっこう)するようになる。これを考えれば、新興国の台頭に応じて、グローバルガバナンスのシステムをいかに再構築していくかは、これから大きな世界的課題となる。

東アジアの課題は中国の台頭

もう一つの見方は、世界経済に占める米国のシェアが2000年の31.4%から2010年の23.4%、2018年の22.2%と緩やかに下落する一方、中国のシェアが1990年の1.7%、2000年の3.7%から2010年の9.3%、2018年の14.2%へ急速に伸長することに注目する。かつて1970年代、周恩来が日本についてキッシンジャーに述べたように、(※1) 経済の拡大は「必然的に」軍事の拡大をもたらす。中国がこれからも引き続き、経済成長と軍事力増強と政治的影響力の拡大を追求すれば、2020年代には米中の力が拮抗するようになる。

これがどれほど深刻な脅威と受け止められるか、これは地域によってずいぶん違う。当たり前のことであるが、東アジアでは中国の台頭を脅威と受け止める見方が次第に強くなっている。煩雑を避けるため、統計データは掲げないが、東アジア(日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合[ASEAN]10カ国、インド)経済に占める中国のシェアはすでに2010年に38%となっており、2018年には51%に達すると予想される。経済規模(GDP)と国力が同義でないことはよく分かっているが、東アジア経済の半分を中国一国で占める時代がすぐそこまで来ていることを考えれば、東アジアにおいて中国の台頭が深刻に受け止められ、この地域最大の政治経済的課題が、新興国の台頭にどう対応するかではなく、中国の台頭にどう対応するかであるとされても、特段、驚くに当たらない。

しかし、これはあくまで東アジアにおいてのことであって、世界的にはまだしばらく、グローバルガバナンスの課題は新興国の台頭にどう対応するかにあると受け止められる可能性が大きい。東アジアと世界一般のこうした「温度差」はいずれ小さくなる。しかし、それはまだしばらく先、おそらく2020年代に入ってのことになる。

中国を“脅威”と見る国々は世界的にも増加へ

第2次世界大戦後、米国は、カール・ポラニーの言う「19世紀文明」の廃虚の上に、米国主導の「20世紀システム」を再建した。このシステムは、バランス・オブ・パワー・システム、国際金本位制、自己調整的市場(市場経済)、自由主義国家の上に成立した「19世紀文明」とは違い、「アメリカの平和(パックス・アメリカーナ)」、ドル本位制、市場経済、自由民主主義国家の上につくられている。

中国は1978年の改革・開放以来、鄧小平の「韜光養晦(才能を隠して時期を待つ)」を政策の基本方針としつつ、党国家体制を維持し、社会主義経済を社会主義市場経済に転換する一方、国際的には「アメリカの平和」とドル本位制を受け入れて「20世紀文明」に参加し、その中で驚異的な経済成長と軍事力の増強と政治的影響力の拡大を達成してきた。世界経済に占める中国のシェアが小さいときには、それで大きな問題は何も起きなかった。

しかし、世界経済に占める中国のシェアはすでに10%を超え、2020年代には20%を超える。そうした中、中国がこれからもその経済規模に「ふさわしい」軍事力の増強、政治的影響力の拡大を求めれば、いますでに東アジアで起こっているように、世界的にも、中国の台頭を脅威と受け止める国々が多くなるだろう。

いま日本がなすべきこと

では、日本はこうした世界的・地域的変化にどう対応すればよいのか。最も重要なことは、東アジア/アジア太平洋における力の均衡の維持、それを踏まえた21世紀国際秩序のルール作りへの貢献である。そのためには、日本経済の再生、外交・安全保障における日米同盟強化、パートナー国との政治的連携・安全保障協力が極めて重要である。

安倍晋三首相はこの1年、こうした課題に精力的に取り組み、やるべきことをやってきた。それだけに昨年末の首相の靖国神社参拝は極めて残念である。この結果、欧米諸国でも、(中国、韓国以外の)アジア諸国でも、日本の「右傾化」を批判する中韓両国の立場に同調する人たちが増えている。日本がこれで外交的に得るものは何もない。いま、日本としてなすべきことは、世界的および地域的に日本が「市場経済」と「自由民主主義」を原則とする国々と連携し、米国主導の国際政治経済秩序の強化に資することである。

(2014年1月6日 記)

(※1)^ 『周恩来・キッシンジャー機密会談録』毛里和子・増田弘 監訳、岩波書店、2004年、46ページ

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  • [2014.01.09]

nippon.com編集企画委員会顧問。政策研究大学院大学学長、ジェトロ・アジア経済研究所所長。1950年愛媛県生まれ。1974年東京大学大学院国際関係論修士課程、1977年米コーネル大大学院博士課程修了。コーネル大歴史学科・アジア研究学科教授、京都大学東南ア ジア研究センター教授を経て2005年から政策研究大学院大学教授。2007年、紫綬褒章を受章。2009年1月から2013年1月まで内閣府総合科学技術会議議員。2011年10月から2014年3月までnippon.com編集長。著書に『海の帝国―アジアをどう考えるか』(中央公論新社/2000年/吉野作造賞受賞)、『帝国と その限界―アメリカ・東アジア・日本』(NTT出版/2004年)など。

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