エネルギー基本計画には原発「ベース電源」明記を

白石 隆【Profile】

[2014.02.20] 他の言語で読む : ENGLISH | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

東京都知事選:否定された「即原発ゼロ」

2014年2月9日、東京都知事選挙が実施され、元厚生労働大臣の舛添要一氏が自民、公明両党の全面的支援を受けて都知事に選出された。投票率は46.14%、舛添氏は 211万2979票を得て、有効投票数の43.4%を占めた。次点は宇都宮健児・前日本弁護士連合会会長の98万2594票(20.2%)、3位の細川護煕元首相は95万6063票(19.6%)、4位の田母神俊雄・元航空幕僚長は61万865票(12.5%)だった。

今回の選挙で「即原発ゼロ」を掲げ、小泉純一郎元首相の支持を受けた細川元首相が勝利していれば「事件」になるところだった。しかし、幸い、そうはならなかった。「即原発ゼロ」を訴えた宇都宮候補、細川候補の得票を合わせても193万8657票、舛添氏の得票に及ばない。そもそも原子力発電所の立地しない東京都の知事選でこの問題が争点化されるのも妙な話だが、今回の選挙で「即原発ゼロ」はひとまず否定されたといえるだろう。

舛添氏はエネルギー政策について「原発に依存する体制を少しずつ減らしていくのは重要だが、東京は電力の最大の消費地であり、供給地のことも考えないといけない。国全体との調整も必要だ」と語った。これは、都知事として、なかなかバランスの取れた立場といえる。なお、舛添氏は、かつて、nippon.comの前身の英文誌Japan Echoの編集委員を長く務めたことがある。都知事として活躍を期待したい。

今回の都知事選ではまた、田母神元航空幕僚長が予想外に健闘した。インターネットで極めて内向きの排外主義的ナショナリズムを鼓吹する「ネット右翼(ネトウヨ)」などの支持を得たためで、共同通信社の出口調査では20代の支持は24%で、舛添氏の34%に次いで2位、自民党の石破茂幹事長も2月10日の記者会見で「自民党支持者の1割が(田母神氏に)投票したようだ」と述べた。田母神氏は「組織票がない中でこれだけ(票を)取れたことに満足している。次の機会をうかがいたい」とフェイスブックに書き込んでいるというが、新党結成は大いに歓迎である。それで初めて「右翼」が「保守」から差別化され、国民的にどれほどの支持を得ているか分かるようになる。

エネルギー基本計画:早期の閣議決定で速やかな原発再稼働へ

日本経済新聞(2月10日)によれば、政府は都知事選挙の結果を受けて、2月中にエネルギー基本計画の閣議決定を目指すという。1月27日に財務省が発表した2013年の貿易統計(速報)によれば、貿易収支は11兆4745億円の赤字、赤字幅は2012年の貿易赤字6兆9410億円を上回り過去最大となった。震災後の原発停止で火力発電への依存度が増加し、そのための燃料輸入が拡大したためで、輸入額81兆2622億円の2割超を占める原油の輸入は16.3%増となった。

貿易赤字の拡大を止めるには、原子力発電所をできるだけ早く再稼働させるほかない。今回の都知事選で「即原発ゼロ」の選択肢は否定された。政府としては2月中、遅くとも年度内には、エネルギー基本計画を閣議決定し、原子力規制委員会が安全性を確認した原発の再稼働を明記することが望ましい。原子力規制委員会はすでに昨年7月に新規制基準を施行し、7つの電力会社の9原発16基が再稼働に向けた審査を申請している。再稼働において、各電力会社は原発立地自治体と協議し、原発を稼働するための同意を得る必要がある。これも時間がかかる。このプロセスを速やかに実施するためにも、エネルギー基本計画の閣議決定はできるだけ早く行う必要がある。

極めて低いエネルギー自給率改善に多様な選択肢を

これに関連し、基本計画のポイントを2点、指摘しておきたい。エネルギー基本計画の目的は、エネルギーを経済性のある価格でいかに安定的に確保するか、その大方針を明示することにある。第一に、これから3-5年程度の期間、電力を安定的かつ経済性ある価格で確保するため、政府として確固たる工程表をできるだけ早く提示し、実行する必要がある。そのためには、安全性の確保を前提としつつ、原発再稼働のプロセスをできるだけ加速しなければならない。これについては、政府の政治的意志が明示されて初めて、原子力規制委による効率的な安全審査と地元自治体の理解も期待できる。

第二に、日本はエネルギー自給率が極めて低く、しかも原油の約8割を中東に依存しており、大きな地政学的リスクを抱えている。このリスクをヘッジするには、石炭・原油・天然ガスなどの化石燃料、原子力、再生可能エネルギーなど、多様なエネルギー源を選択肢として維持することが非常に重要である。また、中長期的観点から、環境・エネルギー分野における研究開発に投資することも重要である。その意味で、エネルギー基本計画では、日本のエネルギー供給構造の強化とエネルギー需要構造の高効率化を共に実現するとともに、技術革新促進のための具体的取り組みが求められる。

特に、原子力については、国として、安全性の確保を前提に、これをベース電源として活用していくことをエネルギー基本計画に明記する必要がある。これがあって初めて、原子力の安全を支える人材の確保、技術の維持・強化も可能となる。

(2014年2月17日 記)

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  • [2014.02.20]

nippon.com編集企画委員会顧問。政策研究大学院大学学長、ジェトロ・アジア経済研究所所長。1950年愛媛県生まれ。1974年東京大学大学院国際関係論修士課程、1977年米コーネル大大学院博士課程修了。コーネル大歴史学科・アジア研究学科教授、京都大学東南ア ジア研究センター教授を経て2005年から政策研究大学院大学教授。2007年、紫綬褒章を受章。2009年1月から2013年1月まで内閣府総合科学技術会議議員。2011年10月から2014年3月までnippon.com編集長。著書に『海の帝国―アジアをどう考えるか』(中央公論新社/2000年/吉野作造賞受賞)、『帝国と その限界―アメリカ・東アジア・日本』(NTT出版/2004年)など。

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