「海の安全」の重要性

川島 真【Profile】

[2011.10.21] 他の言語で読む : ENGLISH | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

今年の11月に開催される東アジア首脳会議(EAS)にはアメリカ、ロシアの首脳も参加することが予定され、注目が集まっている。日本の野田総理は、就任早々東アジア共同体構想を棚上げにすると発表していたが、ここにきてその東アジアサミットにおいて南シナ「海の安全」について提案を行うと発表した。

野田総理が棚上げにした東アジア共同体構想というのは、鳩山総理が提唱した構想だと考えられる。それは2009年11月のAPEC総会で述べられた。ここで鳩山総理は、「欧州での和解と協力の経験こそが、私の構想の原型になっています」と、欧州モデルの東アジアへの適用を示唆した。また、「私の東アジア共同体構想は、『開かれた地域協力』の原則に基づきながら、関係国が様々な分野で協力を進めることにより、この地域に機能的な共同体の網を幾重にも張りめぐらせよう、という考え方です」と述べた。それまでの日本の既定方針であった、機能主義に基づく協力の網の積み重ねが、ASEAN+3を中心にした東アジア共同体の姿だとする方向性も踏襲した。野田総理は、この後者についても「棚上げ」にしたわけではないだろう。

主権問題やナショナリズムに阻害されない

野田総理が提唱しようとしている「海の安全」は、一面で中国を意識した「自由と繁栄の弧」や価値外交と親和性を持つようであるが、もう一面で極めて重要な経済貿易などの実質的な協力関係のひとつとなるとも考えられる。海の安全が確保され、海をめぐる突発的な事故などで主権問題やナショナリズムのために実質的な関係が阻害されないようにすることは、まさに経済を重視する東アジアの協力にとって重要なものである。

無論、中国の周辺諸国にとって、海の問題は極めて深刻だ。台頭する中国と周辺諸国との間で現在も、そして今後も生じる深刻な問題は、領土や主権、安全保障、資源問題、そして歴史問題が絡まる「海」に集約されつつある。大陸国家である中国は、領海からEEZ、大陸棚に至る海域を、まさに陸に見立てて認識しているようであり、周辺の海洋国家と認識の相違点があるのかもしれない。その意味では、海の安全を確保するために実質的な措置を講じるのと同時に、中国も含めた「海」をめぐるルールへなどについての認識の相違を相互に知り、共通認識を得ていく努力をしていくことが求められるだろう。

提案の4つの理由

11月の東アジアサミットへの提案も含め、この海の問題をめぐって行うべきは大きく分けて4点ある、と筆者は考える。第一は、海の安全が確保されるような警備力を持つなどといった実質的な措置を、周辺国で相互連携しながらとっていくことだ。第二は、突発的な事故に際しての問題処理枠組みを中国を含めて構築していくことだ。第三は、国連海洋法条約に依拠しながら、その法解釈などのルールについて対話をおこなうことだ。第四は、資源問題や主権問題解決へのプロセスとして、海難事故に際しての相互通知などといった地道な海の協力体制を、中国を含めて作っていくことだ。これらが蓄積されていってこそ、また日本がしっかりそこに関与してこそ、野田総理の提案が意味を持つものになっていくと考える。

(2011年10月14日 記)

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  • [2011.10.21]

nippon.com編集企画委員会委員長。東京大学総合文化研究科教授。専門はアジア政治外交史、中国外交史。1968年東京都生まれ。92年東京外国語大学中国語学科卒業。97年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学後、博士(文学)。北海道大学法学部助教授を経て現職。著書に『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会/2004年)、『近代国家への模索 1894-1925』(岩波新書 シリーズ中国近現代史2/2010年)など。

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