デモに揺れる世界とたたずむ日本

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世界一の経済大国米国で、若者を中心とするデモが広がっている。2008年9月のリーマンショック以降の経済の落ち込みと、その後の回復の状況が米国経済の大きなひずみを作ってきたことがその原因である。

米国の実質GDPは、2009年第2四半期から11年第2四半期までの2年間で4.8%増加した。しかし、この間非農業部門での雇用の増加率はわずか0.8%に過ぎない。若年失業率は20%程度である。

2001年のノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ教授は、「いま米国では上位1%の富裕層が所得全体の4分の1を稼ぎ、富の40%を占めている」と言う。25年前には、これは12%と33%だった。こうしたひずみがウォール街のデモとなった。

ユーロ誕生10年後の危機

ユーロ圏の危機は、第二次大戦以降、いやさらにさかのぼって第一次世界大戦からの欧州の国家の枠組みに関わる根底的な課題によるものだと理解すべきである。欧州共同体の原点は、ルールやロレーヌ地方をめぐるドイツとフランスの争いを食い止め、ドイツとフランスの利害調整を図ることにあった。欧州共同体の父といわれたジャン・モネはその伝記のなかで独仏の利害調整に奔走したことを記している。いまや、ユーロ誕生10年を経て、ドイツがその最大の恩恵を得ていたことは明白である。しかし、ドイツ国民は自分たちが怠惰な国を救済しなければならない正当性を、政治のリーダーに求めている。リーダーは回答できていない。

一方ギリシャなどではポピュリスト政治の下で緩んだ国民は、給与引き下げなどに反発してゼネストを打った。米国におけるデモと異質のように見えるが、その根本には政治が国民をスポイルしてきたこと、政治が一部の利益を守ることが国民全体にも利益を与えると幻想を与えてきたことがあったとみられる。

さらに、北アフリカのデモは、長期独裁政権に対する不満と不信が原因である。政変の後の政治体制づくりなど不安定要素は大きい。エジプトが、リビアがどんな国づくりをするか注目だ。

財政危機は対岸の火事ではない

欧米各国は政治の隙間を狙って石油の利権獲得競争にしのぎを削っている。わが日本は、政治の決断の遅さと甘さが国益を損なう事態が進んでいる。財政危機を欧州の対岸の火事と高をくくっている場合でない。すばやい対応が求められる。たたずんではいられない。

(2011年10月29日 記)

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