NHK Worldは北朝鮮危機を伝えきれるか【Part 3】
日本発英語国際放送の野心と挫折

谷口 智彦【Profile】

[2011.12.29] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

アル・ジャジーラ・イングリッシュとの違い

果たしてNHK Worldはアジア地域で起きるあれこれのイベントを世界へ伝える主たるソースとなり得るかとの問いに、遺憾ながら否と応じるよりない。

アル・ジャジーラ・イングリッシュのしたことは、よい範例となる。

始まったのは、2006年11月。アラビア語放送とは独立の編成部門とし、CNNやBBCから、単にアンカーキャスターやプレゼンター、記者に留まらず、プロデューサー、リサーチャーまでごっそり引き抜いた。それが証拠に、クアラルンプールに彼らが置いたアジア取材の拠点からかかってくる電話は、いつも典型的な英国アクセントの英語である。

このようなことをしてこそ磨かれるニュース・センスは、NHKには望めない。この場合のセンスとは、どんなストーリーをいつどう打ち出せば、英国や米国、シンガポールや香港で視聴率を取れるかに関する感覚である。それは英国人や米国人、シンガポール人の記者、プロデューサーを抱えてこそ十全に発揮することができる何ものかであろう。

話される英語の質やスピード、画面の洗練度など、見る者が一見して指摘できる内外の差も大きい。アル・ジャジーラの画面には、CNNに発祥・由来する、五感の刺激を狙ったビートと展開の速さがある。もしジャズに喩えるなら、NHK Worldにはスウィングの昂揚がない。落ち着き払っているさまは、ジャンルの中の異端をなす。

それら問題の多くは、人材を外に求める勇断をNHKとしてついになし得なかったところに起因するというのが筆者の見立てである。

中国CCTV-NEWSの戦略投資

NHK Worldの強敵と目されるCCTV-NEWSは、この点で好対照をなす。ノン・チャイニーズがもっぱら画面に現れるから、一見しただけでこれが北京のプロパガンダ放送だとは判別できない。共産党中央の定めた範囲を逸脱できないという意味でこそ歴然たるプロパガンダ放送ではあるけれど、普段の報道はその洗練度を増し、違和感なく眺められる番組が増えつつある。

極めつけは、彼らが2011年になした決断であろう。ワシントンに拠点を設け、恐らくは高給を提示しアメリカ人のテレビ関係者を雇って、番組制作の本格的現地化に乗り出したのである。いわば敵本丸に陣地を構築するにも等しい。北京の全面的バックアップが如実な動きである。

中国にとってパブリック・ディプロマシーのターゲットは一に米国、二に米国、三、四がなくて五に米国である。中国語教授機関の孔子学院を、中国は重要な国に2ケタ台で設立させているが、米国でだけはケタが違う。200を超える孔子学院が既に存在する。CCTV-NEWSの番組づくりをワシントンでという策も、同じ文脈上の戦略的投資と考えるべきだ。

NHK Worldの市場シェアを検証する

以上を数字で実証する手立てはないものだろうか。NHK Worldが中途半端なままに終わっているさまと、CCTV-NEWSの攻勢とを証明できる材料はと考えて、YouTubeでの検索を試みることにした。

これはというビデオクリップを世界中の個人や機関がアップする場としてのYouTubeは、映像コンテントの人気投票所とみなすことができる。そこで、YouTubeのインターナショナル・サイトで言語の選択をUS-Englishとし、国際放送局の名前をキーワードとして検索してみた。

結果は、CNNでサーチした場合、およそ774,000の投稿数が確認できた。他を圧する分量であるが、CCTV- NEWSは144,000と健闘を示している。既に Al Jazeera Englishの91,500に大きく差をつけているのは驚きだ。

それに引き換え、NHK Worldについて同様に調べ、判明した投稿数は3,790でしかない(以上、2011年12月19日未明現在)。この数字は、3月11日の地震と津波、引き続く原発事故とで世界の眼が一斉に日本へ向き、NHK Worldにとっては海外各局に転用・引用される稀な機会を経験した上での数字である。

NHKの体力が仮に現状の継続を許すとして、NHK Worldが生き残るのだとしても、もはやそれは人畜無害、大人しい羊のごとき存在となろう。日本のビジビリティを増すための手段になってほしいなど高望みをすることは、溜息とともにあきらめなければならない。

(2011年12月20日 記)

この記事につけられたタグ:
  • [2011.12.29]

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。1957年香川県生まれ。1981年、東京大学法学部卒業。『日経ビジネス』記者、編集委員を経て外務省に入省。外務副報道官、広報文化交流部参事官を務める。米プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール国際研究センター・フルブライト客員研究員、ロンドン外国プレス協会会長、上海国際問題研究所客座研究員、慶應義塾大学特別招聘教授などを歴任。2011年4月から2013年1月までnippon.com編集委員。著書に『通貨燃ゆ 円、元、ドル、ユーロの同時代史』(日本経済新聞社/2005年)など。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告