税と社会保障の一体改革を目指して

経済・ビジネス

日本の財政事情は、数字的にはOECDの中で最も悪い。

平成24年度予算では、90.3兆円の予算に対し税収は42.3兆円しかないため税収を上回る44.2兆円の公債発行となっている。しかも、年金の国庫負担2.6兆円は交付国債という将来に支払いを約束するという例外的手法を講じているので、その分を加算した額が実質の国債発行といえる。4年連続して税収を上回る新規国債の発行という異例の状況が続いている。また、財政赤字の残高(2012年一般政府ベースOECD)でGDP比219%を超え、ギリシャはもちろん、G7では日本の次に悪いイタリアの128%を大きく上回っている。

この大きな要因は、高齢化による年金、医療、介護などの社会保障予算の増加によるものである。日本の平均寿命は、83歳で世界最長であり、しかも高齢者数も毎年増加し、2012年では65歳以上1人に対し20~64歳は2.4人であるが、2050年には65歳以上1人に対し1.3人すなわち「1人の若者が1人の高齢者を支える」という大変厳しい社会になると見込まれている。この結果、社会保障予算は毎年1兆円を上回る増加となっている。

社会保障予算は恒久制度による予算で、しかも今の世代が費消する予算であるので、恒久財源により賄うというのが財政の原則であり、公債により賄い、将来世代に負担を回すのはそもそもおかしい。しかし日本では、国債に依存し、財源の確保が先送りされてきた。

財政健全化が求められる日本

日本は、個人金融資産(2010年)が1481兆円あり国債の95%は日本人の保有である。しかも貿易収支・経常収支が黒字である。また、消費税率が5%と低く、税負担を引き上げる余地がある。さらに、ユーロ危機のためにとりあえず日本にお金を置いておこうとの流れから、日本の国債の金利は、現在10年物で1%を下回るという低水準にある。こうした点から、日本の財政状況は数字ほど悪くないという見方もある。

しかし、住宅ローンを差し引いたネットの個人金融資産は1100兆円、一方政府債務残高は1000兆円を超えつつある。また、2011年の貿易収支は東日本大震災があったこともあり31年ぶりの赤字となり、経常収支の黒字も縮小している。そして、高齢化が年々進行している。さらに、ギリシャより悪い財政状況。プライマリーバランスが黒字のイタリアさえも、市場から財政健全化を求められ、ベルルスコーニ首相が退陣し、付加価値税の引き上げなど緊縮策を採用せざるを得なくなった現実があるのだから、日本ももはや、安閑としていられない状況にある。社会保障制度の持続が危ぶまれ、IMF、OECD、格付け会社は、日本がすぐに財政健全化に取り組むように警告を発している。

自民党・公明党の連立政権であった麻生首相は、このような問題意識の下で、「税と社会保障の一体改革のための法的措置を平成23年度中に講ずるものとする」とする内容の法律(所得税法附則第104条)を成立させた。

野田内閣は、この法律の規定に従い、税と社会保障の一体改革の内容を決定。この内容を法案化し、3月に国会に法案を提出する予定である。なお、衆議院定数などの政治改革、公務員給与の引下げなどの行政改革も合わせて実施するとしている。

世論も一体改革が必要と判断

国民の多くも今のままでは社会保障制度の継続は困難で社会保障財源としての消費税引き上げは必要と判断している。

日本経済新聞の世論調査(2月20日公表)では、社会保障制度を維持するため、

1. 消費税の引き上げについて、59%が必要だ、29%が必要だと思わない

2. 2014年4月に8%、15年10月に10%引き上げる政府案について、賛成40%、反対49%

3. 自民党が消費増税を民主党の公約違反として関連法案提出前に与野党協議を拒否していることについて、納得できない61%、納得できる24%

である。

新聞・マスコミの多くは、これらの世論調査もあり、政府・与党と野党が協議を行い、その上で将来に先送りせず税と社会保障の一体改革に着手すべきとしている。

現状では、与党内にも反対論があり、また野党との協議は進展していない。

しかし、日本の社会保障が持続困難となり、財政も危機的状況になりつつある現在、将来の世代に負担を先送りせず、またギリシャのような事態になることを未然に防ぐことは、現在の世代の責務である。

国民に徹底的に説明、PRをしつつ、国会で十分な議論を行い、税と社会保障の一体改革を実現し、社会保障の安定・財政の健全化そして日本の信頼を回復すべきである。

(2012年2月20日記)

財政 論説