日欧関係強化で日本外交の選択肢拡大を

坂井 一成【Profile】

[2012.05.09] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

日本外交は、初の『外交青書』(1957年)で、「自由主義諸国との協調」「国連中心主義」「アジアの一員としての立場の堅持」がその三本柱として掲げられ、以後、歴代内閣はこれらに基づいて外交を進めてきた。「自由主義諸国との協調」とはすなわち日米同盟の重視、「アジアの一員としての立場の堅持」ではとりわけ日中関係がその軸となっている。

ところがこれらの外交の柱は、いずれも少なからぬ課題を抱え込んでいる。日米関係では、普天間基地の移転問題の行き詰まりがある。鳩山元首相の「国外、最低でも県外」への移転を実現するとの発言で混乱が生じて以来、沖縄の反発の高まりとともに、解決には至っていない。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加についても、早期参加を求める米国に対して、日本は国内の農業団体等の反対と、それを背景にした与党内での意見対立が収まらず参加には至っていない。中国との関係では、中国によるレアアース(希土類元素)の輸出の制限問題、尖閣諸島の領有をめぐる対立、東シナ海ガス田開発問題など、多くの問題を抱えている。

日本への好意的イメージ育むEU

日米関係と日中関係はどちらも日本外交にとって不可欠な要素であり、懸案事項を克服して各々の関係を強化していかなくてはならない。しかし、逆に、日本の外交の選択肢はこの二つだけに依存していては行き詰まりを見せかねない。もちろん三つの柱のもう一つである国連外交にてこ入れすることも重要であり、それによって得ることもあろう。しかし、安全保障理事会の常任理事国入りを目指す動きは、米国の支持は得られても中国の支持を得ることは容易ではないという事実は見逃せない。そこで目を向けるべきは、新たな選択肢を手にすることで、外交の閉塞状況を打開していくことではないだろうか。

その選択肢として考えられるのは第一にヨーロッパであろう。今日の日欧関係は、1991年の日欧共同宣言(ハーグ宣言)において、日本とEC/EU双方が経済大国としての世界的な地位を互いに確認し合い、経済のみならず政治・安全保障に至る協力関係の構築を謳って以来、その強化に向けて進んできている。しかしながら、日本のバブル経済の崩壊とその後の停滞、1990年代の旧ユーゴ紛争など冷戦直後の混乱の中で、必ずしもその関係強化は明示的にはなされてこなかった。とはいえ、民主主義、法の支配、人権擁護という価値観を共有するアクターとして相互の認識は培われており、ヨーロッパ側から日本への好意的イメージ・信頼感も着実に育まれ、国際的な連携を進める礎は築かれている。

北アフリカ、中東で一致する政治的関心

ここで着目できるのが、北アフリカ・中東情勢である。この地域は、パレスチナ問題をはじめとして幾多の紛争の種を抱えながら、日本がその石油の多くを依存しており(経済産業省の統計によると2010年度の原油輸入の中東依存度は約87%)、加えてアフリカまでを含めて親日的な国が多い。一方でヨーロッパにとって、この地域は地政学的に隣接する地域であり、地域の不安定化はヨーロッパにとって死活的な問題となる。まさに日欧の政治的関心が一致する重要地域ということが言える。実際、この地域への船舶の入り口となるソマリア沖で深刻化する海賊対策では、経済・資源の観点、および飢餓救済のための世界食糧計画(WFP)の船舶を守るという観点から、2008年以降、EUによる「アタランタ作戦」が遂行され海上保安措置がとられている。この件で日本も、2009年から海上保安官を乗せた護衛艦と哨戒機を派遣し、2011年には自衛隊独自の派遣航空隊のための拠点をジブチに開設して対策に当たっている。

ここで重要な点は、中東地域にパワーポリティクスの観点から関与を深める意図を強く持つ米国に対し、日本もEUも経済の安定化や資源確保、そして人道的観点からの関与であり、地域の安定・発展に関わる主たる意図が異なることである。さらに言えば、軍事力による問題解決を志向する米国に対し、基本的には文民的手段による解決を志向する日欧という構図が顕著に現れている。地域の安定に関する施策の目的と手段において、日欧はこれらを共有し、実際の活動を展開しているのである。(※1)

バイラテラルからマルチラテラルな枠組みへ

「無関心」が日欧関係を表す言葉としてしばしば用いられてきたが、国際環境の変化とそれに伴う戦略の見直しが必要な中で、もはや日本もヨーロッパも互いを地理的に遠いからといって関係を希薄なままで置いておくことは望ましくない。とりわけ「アラブの春」を経験し、多くの国で政治変動を体験した北アフリカから中東にかけての地中海地域では、政治・経済の安定が目指されていて、日欧が連携を深める好機である。(※2) しかしながら、ただ、やみくもに連携を図ろうとしても効果は大きくない。日本にとっては、日本からのグローバルな視野に立ったビジョンの発信があってこそ、その連携は大きな効果をもたらす。そしてそのためには日米、日中、さらには日欧というバイラテラルな関係だけでなく、例えば環境問題などさまざまなイシューでのマルチラテラルな枠組みを用いてのビジョンの発信が欠かせないだろう。(2012年5月1日 記)

 

(※1)^ Noemi Lanna, “Japan and Europe in the Mena (Middle East and North Africa) area: Towards a New Bilateral Agenda? “ 坂本千代(編)『ヨーロッパにおける多民族共存とEU――言語、文化、ジェンダーをめぐって―― および日欧関係の歴史・文化・政治』神戸大学大学院国際文化学研究科・異文化研究交流センター、2012年3月、pp.116-119。

(※2)^ 坂井一成「『アラブの春』と日本外交」(2011年11月)も参照されたい。

この記事につけられたタグ:
  • [2012.05.09]

神戸大学大学院国際文化学研究科教授。1992年東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業。同大学大学院地域文化研究科博士前期課程、一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程を経て1996年文部省入省(外国調査担当)。パリ政治学院客員研究員、パリ西ナンテール大学客員教授、パリ・パンテオン・アサス大学客員教授などを経て現職。博士(学術)。主著に『ヨーロッパの民族対立と共生』[増補版]』(芦書房/2014年)。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告