国会議員が離党、新党結成に動く事情

政治・外交

小沢グループの離党で政局が緊迫化

野田内閣の消費税増税方針に反発して、小沢一郎氏をリーダーとする集団が民主党から離党し、2012年7月11日に「国民の生活が第一」という名の政党を結成した。その後も、民主党から離党する議員が五月雨式に続いており、民主党は崩壊の危機に瀕している。小沢氏個人には国民的な支持は集まってはいないが、先の総選挙の際に国民に約束した公約(マニフェスト)に忠実であろうとする点では、新党のほうが政策的な一貫性がある。

野田首相は消費税増税について、小沢氏に代表される党内の根強い反対論を退けたが、その代償は党の分裂であった。そこで、小沢グループが抜けた穴を自民党と公明党の協力で埋め合わせようとした。これが税と社会保障の一体改革に関する三党合意である。消費税増税については三党による大連立が成立したと言ってもよい。

しかし、三党の協力はそこまでで、予算の約半分をまかなう国債を発行するための公債特例法案や選挙制度改革法案については、野田首相は自民党や公明党の支持を得るには至っていない。野田首相は一日も長く政権を維持しようとするであろうし、自公両党は一日も早く解散総選挙を行いたい意向である。そこで、両党がいつ内閣不信任案や問責決議案を提出するかという問題が出てくる。日本の政治は緊迫した局面になっている。

新党設立の厳しい制約

ところで、新しい政党を創るには様々な法的制約があるし、また議員個人についても政党間の移動には一定の制約がある。

政党には、年間約320億円の政党交付金が支払われる。配分は各政党に所属する議員数と直近の国政選挙の得票数に応じて行われる。長引く不況の影響により、企業・団体や個人からの献金があまり期待できない状況で、政党の収入に占める政党交付金の割合は大きい。また、政党交付金を管理する党の執行部が人事と経理を独占するので、党首や幹事長のポストにどのグループが就くのかが大きな意味を持つことになる。小沢氏離党の背景は、執行部を握れず、権力闘争に敗北したことがある。

政党を結成するには、国会議員が5人以上いるか、もしくは国政選挙での得票率が2%以上である必要がある。仮に2%以上の得票があっても、国会議員が最低一人は存在していなければならない。実は、この条件を満たすのは容易ではないのである。小選挙区制の下で、自民党や民主党といった大政党から離れると、次期選挙で落選する確率が高まる。そこで、5人もの離党者を集めるのは簡単な作業ではない。消費税増税法案に反対票を投じながらも、民主党から離党しようとしない議員が多いことを見ても、そのことがよく理解できるであろう。

さらには、国会議員、とりわけ比例区で当選した議員が政党所属を変更するのにも制限がある。自らが選挙で戦った相手の政党への移動はできない。その点で既成政党ではない新党を結成することは、参入議員数を増やすためには、最適な方法である。

その他、政党結成については、様々な技術的問題がある。政党交付金の算出の基準日が1月1日なので、新党は12月末に創るのがよいなどといった計算も働く。その点で、小沢氏が7月に新党結成したことについては、よほど追い詰められたからではないかという観測すら流れることになる。

政界再編で過小評価できない小沢氏の存在

しかしながら、国政選挙があれば、すべて選挙結果が基準となって政党要件や政党交付金の配分が新たになる。つまりリセットされる。そこで、政党の離合集散や政界再編成は、総選挙がきっかけとなる可能性が高い。小沢一郎氏の強みは、選挙制度や政党交付金の制度などを熟知し、また選挙における有権者の動きを適確に掴む能力に長けていることである。国民的人気がないからといって、小沢氏の能力を過小評価するのもまた間違いであろう。

(2012年7月22日 記)

民主党 自由民主党 自民党 小沢一郎