韓国で盛り上がる「中堅国家」論

小倉 和夫【Profile】

[2012.08.15] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

要因は中国の台頭

韓国で今、「中堅国家」(ミドルパワー)論議が盛んになっている。この背景にはいくつかの要因があるようだ。一つには、韓国は地政学的に言って、中国、日本、ロシアという「大国」に囲まれ、これにアメリカが加わって、ややもすると、大国のパワーゲームの「駒」になりかねないだけに、自分自身の立ち位置をはっきりと見極めておきたいとする意識がある。その意識が、近年ことさらに高まった裏には、中国の台頭がある。従来、韓国は、いわばアメリカという大樹の陰に身を寄せていたが、中国の大国化に伴い、米中の間で「股(また)裂き」状態に追い込まれる恐れを感じ始めたからである。

第二に、韓国の経済発展と民主主義政治の定着、それに「韓流」ブームに見られる韓国文化の国際的人気などによって、韓国の国民的自信が高まり、韓国の国家ブランドを国際的に確立しようとする意欲が強まったのであろう。

ではなぜ、そうした要因が、「中堅国家」といった概念に結び付くのであろうか。

“中堅”に込められた大国への牽制

「中堅国家」という言葉には、どことなく、誰でも、すなわち小国でも、努力すればそこに到達できるというニュアンスがある。事実、韓国はかつては貧しく、政治も権威主義的な軍人政権であり、北朝鮮の脅威を前に反共を貫き、社会主義国家との付き合いもままならなかった。しかし、今や韓国は豊かで、民主主義的で、かつ文化的にも魅力ある国に成長し、中国、ロシアを含め、多くの国と友好関係にある。こうした韓国の発展の軌跡は、多くの発展途上国にとってモデルとなり得るものである。

加えて、この「中堅国家」という概念は、世界の中堅国家が、連合または連携して、大国の「身勝手」を牽制(けんせい)する力ともなり得る。その場合には、韓国はカナダやオーストラリアなどとの協力をも視野に入れることができよう。

これまで述べたような要因は、次のようにまとめることもできる。すなわち韓国は、従来、政治、安全保障面ではアメリカの陰におり、経済的には日本の後ろにおり、歴史ないし文化的には中国の影響におされていたが、国際社会において自己主張を強めていくべき時代になった。その際、自らのブランドを「中堅国家」として売り出そうという戦略なのだ。

朝鮮半島の分断を前提とする現状維持論

この中堅国家戦略は、なかなか良く練られたものだ。しかし、この戦略には、語られざる影の部分がある。それは、朝鮮半島の統一との関連である。中堅国家戦略は、ある意味では、朝鮮半島の北半分のことを捨象(しゃしょう)している。北朝鮮の政治体制の変革や経済発展の促進、さらには、朝鮮民族全体としてのアイデンティティーといった面は、このビジョンには欠落している。言い換えれば、中堅国家戦略は、朝鮮半島の分断という条件維持を前提としている。むしろ、この戦略によって韓国は、現状の中で、みずからの立ち位置を今少し明確にし、自己主張を強めていこうとしているのである。(2012年7月24日 記)

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  • [2012.08.15]

青山学院大学特別招聘教授。東京2020オリンピック・パラオリンピック招致委員会評議会事務総長。1938年生まれ。東京大学法学部、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。1962年外務省入省。文化交流部長、経済局長、外務審議官、駐ベトナム大使、駐韓国大使、駐フランス大使などを歴任。2003年10月から 2011年9月まで独立行政法人国際交流基金理事長を務める。著書に『グローバリズムへの叛逆』(中央公論新社/2004年)など。

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