電力システム改革の行方

伊藤 元重【Profile】

[2012.09.04] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS |

新しい日本のエネルギー基本計画策定の一環として、筆者が委員長を務める経済産業省総合資源エネルギー調査会の電力システム改革専門委員会は、今後の日本の電力システムのあり方を検討している。今回はこの電力システム改革の方向性について解説したい。

求められる電力システム改革

福島第一原子力発電所の事故は、日本の電力システムを本格的に見直す重要な転機となった。それまでの日本は10の地域に分かれた電力会社が、それぞれの地域でほぼ独占に近い状況で、しかも発電から送電、配電、そして小売りと、電力供給機能のすべてを垂直統合していた。

電力における規制緩和は世界の潮流である。その鍵となるのは発電と送電の分離(発送電分離)であり、小売りや卸レベルでの自由化政策である。日本もこうした規制緩和策をとってきたが、改革の踏み込みが十分でなく、結果的に電力会社がそれぞれの地域をほぼ独占するという状況が続いてきた。

電力システム改革を実行することで期待される効果には次のようなものがある。

(1) 地域の電力会社や新規参入の企業の間でより広域での競争が起き、料金引き下げやサービス向上が見込まれる。

(2) 発電ビジネスを行う各社に対して中立的な送電網が広域に形成されることで、再生可能エネルギーなどの利用拡大を目指す。

(3) 小売りレベルでの自由化を進めることで、省エネや分散電源の利用拡大を目指すとともに、供給の変動に応じて柔軟に対応する需要調整(デマンドレスポンス=demand response)のメカニズムを強化する。

こうした改革の方向を理解するためには、これまでの日本の電力システムのどこに問題があるのか知る必要がある。

出所:経済産業省 総合資源エネルギー調査会 総合部会 電力システム改革専門委員会 「電力システム改革の基本方針-国民に開かれた電力システムを目指して-」(2012年7月)

広域連系が貧弱だった日本の送電網

福島第一原発事故が起こるまで、日本は原子力発電への依存度を高めてきた。エネルギーの安全保障という意味でも、温暖化ガス排出抑制という意味でも、原発は都合が良かったのである。沖縄電力を除く各地域の電力会社は原発建設を進めてきた。電力需要の増加に応じた安定供給を実現するため、原発が建設され、原発から消費地に向けて太い送電網が整備されてきたのだ。

ただし、前述のとおり、各電力会社は地域独占の下で電力供給機能のすべてを統合していたから、送電網も電力会社ごとに整備されてきた。こうした地域ごとの安定供給モデルを実現する上で、地域を越えた広域の電力ネットワークを構築することはそれほど重要なことではない。結果的に日本の送電網は地域間をつなげる連系線が非常に貧弱になった。東日本と西日本がサイクルの違う電力を供給しており、その間の連系が貧弱であることに加え、北海道と本州の間などの連系線も貧弱であった。

地域間で広域に電力をやり取りする必要がなかったことが、こうした状況を放置させたとも言える。その結果として、それぞれの地域での独占が維持され、電力会社間での競争も起きなければ、新規業者が参入することも難しかった。

安定供給から需要調整へ

原子力発電への依存度を下げていく。これが今後の日本のエネルギー政策の基本的な方向である。どのようなスピードで下げていくかについては、まだ議論が続いている。しかし、詳細の計画がどのようなものになるとしても、日本で原発依存度が下がっていくことは確かだ。

原発依存は、日本の電力の安定供給を支えてきた。伸びていく需要を原発の能力アップや新規建設で賄ってきたのだ。今後は、この安定供給という考え方を修正する必要がある。すなわち、需要に応じて供給を確保するという視点だけでなく、供給の変動に需要をどう対応させるのかという需要調整の考え方である。

特にピークの需要を抑える仕組み、省エネをさらに進めていく努力、そして再生可能エネルギーが持っている供給の不安定性に対応する手法の整備などが鍵となる。

小売りを全面自由化し、スマートメーターの設置を加速化することは、こうした需要サイドの対応を進めるために重要である。スマートメーターを活用したきめ細やかな料金設定、さまざまな業者の参入による需要調整プログラムの導入などが期待される。

新規業者の参入に期待

発送電が分離され、中立的かつ透明性の高い料金設定をする送配電網が発電ビジネスから独立することで、さまざまな新規業者の参入を促すことになるだろう。

これまで原発利用を拡大してきたため、日本の火力発電の設備は老朽化している。火力発電に十分な投資をしてこなかったのだ。発送電分離によって発電ビジネスにさまざまな企業が参入することで、より効率的な発電への投資が進むことも期待したい。

発電ビジネスへの参入は、大規模型の投資だけでなく、消費地でのコジェネ(コージェネレーション=発電時に発生した排熱を冷暖房や給湯などに利用するシステム)などの分散型電源への投資も含む。また、ガス会社や石油会社など、他のエネルギー企業も電力ビジネスに積極的に関わることで、総合的なエネルギー産業の中に電力を位置づけることが可能となる。

政府が進めようとしている発送電分離の改革のもう一つの狙いは、送電網の広域化を進めることだ。地域間の連系線が貧弱であることが日本の電力システムの弱点であると言ったが、この問題を解消することが電力システム改革の第1歩となる。

送電網の広域化が進めば、地域を超えて電力会社間の競争が進むことが期待される。また、再生可能エネルギーの活用を拡大するためには、電力供給・利用の広域化がどうしても必要になる。広域での電力のやり取りによって、再生可能エネルギーの欠点である供給の不安定性を緩和できるし、北海道などの風力を首都圏などでも利用できる可能性が開けてくるのだ。

(2012年8月19日 記)

 

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  • [2012.09.04]

東京大学大学院経済学研究科教授。1951年静岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。米ロチェスター大学大学院経済学Ph.D。1993年から東京大学経済学部教授(1996年から大学院経済学研究科教授)。2006年から14年に総合研究開発機構(NIRA)理事長。税制調査会委員、復興推進委員会委員長、経済財政諮問会議議員、社会保障制度改革推進会議委員、公正取引委員会独占禁止諮問会会長などを務める。著書に『産業政策の経済分析』(東京大学出版会/1988年/日経・経済図書文化賞受賞)、『経済危機は世界に何をもたらしたか』(東洋経済新報社/2009年)、『ゼミナール現代経済学入門』(日本経済新聞社/2011年)など。

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