日本とドイツのエネルギー政策

サーラ・スヴェン【Profile】

[2012.11.09] 他の言語で読む : ENGLISH | ESPAÑOL |

エネルギー政策でドイツに学ぶ

日本の将来的なエネルギー政策をめぐる論議がここ数ヵ月に激化している。この問題に関しては、日本の参照すべき対象としてしばしばドイツが取り上げられる。2012年10月、「国民の生活が第一」の小沢一郎代表はドイツの例を引き合いに出し、日本の原子力エネルギーを、今後10年間で段階的に廃止するという同党の目標は、同量の再生可能エネルギーを生み出すことができれば「非現実的ではない」と主張し、その実情を視察しにドイツを訪問した。

2012年10月15日に開かれたシンポジウム「転換迫られる世界のエネルギー政策」で発表する梶山恵司氏(写真下)。

また、このほど、ドイツのエネルギー政策に関する研究論文を発表した富士通総研の梶山恵司氏は(梶山氏は、財団法人ニッポンドットコムと独フリードリヒ・エーベルト財団の主催で10月に開催されたエネルギー問題に関するシンポジウムのパネリストの一人である)、論文の中で、「エネルギーシフト」によってドイツの経済競争力はすでに大幅に強化されており、この先も強まり続ける可能性が高いと指摘している。

ドイツでは、2000年の「再生可能エネルギー法(Renewable Energy Law)」が可決されてから10年余りの間に、再生可能エネルギーの利用が急増してきた。ドイツのエネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの比率は最近25%を突破し、2020年には40%に達する見通しだ。これによってドイツは2022年までに原子力を段階的に廃止するだけでなく、石炭および他の化石燃料の輸入への依存を低減できる見込みである。

再生可能エネルギーの多くの利点

ドイツでは、この政策の是非をめぐって一連の論議が交わされた後、良い点が悪い点を大幅に上回るという広範なコンセンサスが形成された。まず第一に、再生可能エネルギーを拡大すれば原子力の段階的な廃止が可能となり、大規模災害のリスクを低減できる。これはまた、放射性廃棄物の蓄積に終止符を打つための唯一の方法でもある。日本と同様、ドイツでも、放射性廃棄物の最終処理という問題はいまだ解決していない。

第二に、再生可能エネルギーによって燃料輸入の必要性が低下し、エネルギー安全保障が強化される。それによって、政情の不安定な地域に多い石油・ガス生産諸国に対する依存が低減する。

第三に、再生可能エネルギーの拡大は技術革新を刺激し、雇用を創出する。ドイツでは、過去10年において、再生可能エネルギーの拡大が経済の安定化に寄与しており、関連産業によって40万人近い雇用が創出されている。

第四に、再生可能エネルギーはCO2排出削減に結びつき、積極的な環境政策に貢献する。これについては説明の必要はあるまい。

第五の、そしておそらく最も重要な点は、再生可能エネルギーが基本的に「タダ」だということだ。さらに無尽蔵でもある。太陽光および風力エネルギーには初期投資が必要だが、太陽と風は提供するエネルギーに対して対価を求めない。しかも太陽光および風力発電のリスクは、とくに原子力に比較した場合、はるかに低い。長い目で見れば、これらの要因は明らかに電力価格の引き下げにつながるだろう。目下のところ、初期投資にはいわゆるフィード・イン・タリフ(固定価格買取制度、FIT)が義務づけられる。しかしドイツでは、FITと再生可能エネルギーへの補助金によって平均的な世帯が負担する追加コストは月に約5~6ユーロ(500~600円)、年間で60~70ユーロにすぎない。

東京の電気料金が最近8.46%引き上げられたことと比較すると(これは再生可能エネルギーの拡大促進とは無関係)このコストはごく小さく、原子力の段階的廃止と再生可能エネルギーへの転換を強く求める世論の説得も容易と考えられる。ドイツ再生可能エネルギー庁(Agentur für Erneuerbare Energien)によると、ドイツの世帯の月々の支出に占める電気料金の比率はわずか2~3%にすぎない(下図参照)。したがって、月5~6ユーロの追加支出はほとんどの世帯にとって家計の大きな負担とはならないだろう。

出所:独再生可能エネルギー庁のデータに基づき作図

ドイツと日本にとっての絶好のチャンス

最後に、ドイツが唯一の例でないことも念頭に置くべきだろう。再生可能エネルギーは世界的に大きな流れとなっている。2011年には、世界で新設された発電設備のうち再生可能エネルギーが半分近くを占めた。EUでは3分の2以上を占めている。再生可能エネルギーは、広く政府、投資家、電力会社、さらに軍隊でも、最も信頼性が高く有望な未来のエネルギー資源と見なされている。

ドイツと日本にとっては、提供されているチャンスを見逃さないことが重要である。両国を「資源の乏しい国」と形容する見方がある。化石燃料についてはたしかにその通りだが、両国とも再生可能エネルギー資源は豊富に有している。化石燃料は19世紀から20世紀の初頭にかけて人間社会の発展に重要な貢献を果たしてきた。21世紀に入り化石燃料の時代は終わりに近づきつつある。日本とドイツは自らの利点に目を向けなければならない。両国とも資源不足に悩む代わりに、再生可能エネルギーの豊富な資源を活用し、先頭に立って新技術開発をリードすべきである。そうすることで両国は燃料輸入への依存を低減し、国家安全保障を強化できよう。

(2012年10月26日、原文英語掲載)

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  • [2012.11.09]

上智大学准教授、フリードリヒ・エーベルト財団東京事務所日本代表。1968年ドイツ生まれ。マインツ大学、ケルン大学、ボン大学で歴史学、政治学を学ぶ。4年間の金沢大学での留学を経て、1999年ボン大学文学部日本研究科博士号取得。ドイツ日本研究所人文科学研究部部長、東京大学大学院総合文化研究科准教授などを歴任。共編著に『明治初期の日本―ドイツ外交官アイゼンデッヒャー公使の写真帖より』(OAGドイツ東洋文化研究協会・Iudicium/2007年/和独文)『Pan-Asianism: A Documentary History(史料で読むアジア主義)』(Rowman & Littlefield/2011年/英文/2 vols.)など。

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