日本が直面する領土問題の行方——地域統合の中の平和

渡邊 啓貴【Profile】

[2012.10.31]

欧州連合(EU)がノーベル平和賞を受賞した。この決定には賛否両論がある。平和賞の授与主体であるノルウェー自体EU加盟国ではないし、この時期の受賞には国内でも反発がある。ユーロ・財務危機の折から、EU経済の浮揚が世界経済再生への好機となる可能性を狙ったものであるという解釈も聞かれる。

ノーベル平和賞の選考のあり方そのものに対する疑問については前々からいろいろな意見がある。政治的な意味合いを持つのは今に始まったことではない。昨年の中国反体制派知識人への同賞の授与は中国政府にとっては「内政干渉」であろう。その意味ではこの賞は米欧中心的な価値観とその普及を狙ったものである。そう思ってみれば今回のEUへの平和賞授与は極端に不思議なものではない。

「二国間」から「多国間」の調停へ

今の時期にEUの受賞が決まったいきさつはともかくとして、欧州地域統合がこれまでに果たしてきた歴史的役割と功績については評価してしかるべきであろう。戦後の欧州統合は周知のように独仏の領土問題の克服を直接の契機とする。そして冷戦下のアメリカの支援もあって、米軍中心の防衛体制としてのNATOに対して、欧州における西側経済の拠点として発展していった。

アジア・太平洋地域においてその役割を果たしたのが日本と韓国であった。しかしそのあり方と国際構造は異なっていた。欧州および米欧大西洋関係が多国間協調の枠組みを取って発展してきたのに対して、アジア・太平洋各国の発展はアメリカ中心のハブ構造の中で促された。この20年、グローバリゼーションと経済相互依存は、日中韓の緊密な関係を急速に進化させていったが、冷戦が終結した後も政治・軍事の次元ではアメリカ中心の二国間同盟の集積という形の国際関係構造が残されていたのである。

領土問題はまさにこうした冷戦以来のアジアの国際政治構造の中で、あえて棚上げされてきた問題であった。しかし冷戦が終結して20年がたち、アジア・太平洋各国がより自由に活動できるようになり、国力が接近していく中で領土問題が再浮上してきたのである。

これに対する日本の当面の対応が、日本の領土主権の正当性の主張と沿岸域での防衛・警備体制の強化にあることは間違いない。しかし同時に対話のチャンネルをさらに拡大していくことが喫緊の課題であるのも確かである。トラック2などで日韓、日中、また日中韓3カ国の間で対話・フォーラムが新たに行われ始めているとも聞く。それはそれでよいのだが、いずれ落としどころを模索する段階がくるはずである。コミュニケーションを深め、意見交換を通して合意を得ることは新しい価値観とそれに伴う国際秩序の構築に結びつくはずである。

紛争解決に不可欠な主体的スタンス

その目標をどこに置くのか。今般の議論に欠けているのはその着地点についてである。各国のナショナリズムの機運が高まっている現在の国内事情からすれば言いにくいのは確かだし、本来の議論から言えば、竹島も尖閣諸島も歴史的・国際法的に日本の領地であるから、議論の余地はないという立場も日本人としてはよく分かる。

しかし二国間で妥協が成立しないとなると、結局は多国間の調停ということになる。国際社会の裁きを受けることになる。政府は竹島をめぐって国際司法裁判所に訴えているが、韓国が応じないので裁判が成立するとは考えにくい。尖閣諸島の場合には偶発的な武力衝突の可能性もある。そのときにはどうするのか。

いずれにせよ、問題解決のプロセスにおいて、日本は第三者まかせにならないようにしなければならないと思う。国際司法裁判所への付託にせよ、日米安保の枠組みによる米軍の出動にせよ、あまり日本にとって好ましいことではない。EUへのノーベル賞授与と同じ、米欧優位の世界基準を受け入れる論法である。そうした事態よりも、解決の糸口やプロセスにおいてわが国がイニシアティブを握っていくというスタンスこそが重要なのではないか。解決の方向性とともに、そのような国際紛争解決への主体的スタンスをどれだけ国際社会に示すことができるのか、という点も重要であるように思われる。

最終的に米欧、米中の大国間の力関係や裁定を日本が呑むことになるという事態は極力回避すべきであろう。やはり中国や韓国に対して、日本が民主大国としてアジアをリードする国だという威信を示す解決方法がよいと思う。その政治的メリットは大きい。米欧を中心とする国際社会へのインパクトはそのほうがあるであろう。

“地域統合の中での解決”というビジョン提示を

そのためのひとつの方法として、タイミングを見て、地域統合の方向性の中で解決していこうというビジョンを日本側から率先して提示することである。多国間の枠組みでの解決である。現在の国内のナショナリスティックな雰囲気からすれば勇気のいることである。しかしそれは交渉・会議の中で有利に対話を進めていくことにもつながる。そのことは米欧、ASEAN諸国を味方につける意味があり、また私なりの言葉で言えば、日本がグローバルプレイヤーとしての存在感を示すことにつながる。一歩譲って世界に受け入れられるスタンスを示しつつ、「先をとる」意味もある。

最終的に第三者調停のようなことになり、それを呑むということでは日本の国際的地位や、その見識に対する評価は上がらないであろう。その意味では中朝がまだ混乱しているときに仕込みをするべきである。地域統合という広い枠組みで、政治と経済を切り離し、具体的な協力提案をする中で実を取り、評価を高め、支持者を増やしていくこと。つまりは妥協の中で利益を得る方法を模索していくことである。ゼロサムゲームではなく、冷戦後の価値と文化が重視される時代には、ノン・ゼロサムゲームの中で相対的な利をとるほうが良策であろう。

(2012年10月24日 記)

  • [2012.10.31]

nippon.com分科会委員。東京外国語大学国際関係研究所所長。1978年東京外大フランス語学科卒、80年同大大学院地域文化研究科修了、83年慶大大学院法学研究科博士課程修了、88年パリ第一大学大学院博士課程修了、99年から東京外大教授。2008~10年在仏日本大使館公使(広報・文化担当)。『Cahiers du Japon』『外交』各誌の編集委員長を歴任。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房、1990年=渋沢・クローデル賞受賞)、『フランス現代史』(中央公論新書、1998年)、『ポスト帝国』(駿河台出版、2006年)、『米欧関係の協調と対立』(有斐閣、2008年)、『フランスの文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店、2013年)、『シャルル・ドゴール』(慶応義塾大学出版会、2013年)、『現代フランス—栄光の時代の終焉、欧州への活路』(岩波書店、2015年)、『アジア共同体を考える』(編著、芦書房、2015年)など多数。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告