日本の対外広報力アップの3つの強化策―いずれもおカネがかかりません!

谷口 智彦【Profile】

[2012.12.12] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL |

日本外交に発信力がない。日本の主張を国際社会で理解させる努力が足りない。もうじき幕を下ろす2012年、何度この言葉を聞いたことだろうか。中国人や韓国人には、ニューヨークのタイムズスクエアに新華社のネオンサインを掲げたり、プリンストン大学ウッドロー・ウイルソン・スクールの講堂を李承晩(イ・スンマン)元大統領の冠をつけ改名させたりする財力や人脈がある。それに比べて日本の現状たるや、カネもなければメッセージを打ち出す努力にも乏しく、お寒い限りだ、と。

悲憤慷慨(こうがい)ばかりが得手になったところで広報力はつかない。その気になればできる広報パワー強化策を3つ、提案してみる。年の瀬ともなると翌年への抱負を考えたがる日本の風習にならい、2013年へ向けた提言だ。3つの策の間には何ひとつ体系性はないが、カネだけはさしてかからないプランである。

総理と外相の頻繁な外遊を可能にする国会拘束の緩和

企業でも国でも、チーフPRオフィサーは組織のトップだ。会社なら社長が、国なら総理大臣や大統領が最大の広告塔である。ところが日本の場合、この広告塔は街道筋の看板よろしく地面に根を張って動かない。議院内閣制をとる諸国と比べて例外的なまでに、国会審議に縛り付けられているからである。外国訪問はおろか東京を離れる日程すら、日本の総理は週末や連休を使わなくてはならない。

このことは、毎年春の大型連休期間中に、総理や閣僚のワシントンDC訪問ラッシュを引き起こし、同地の通訳産業に特需をもたらしはするけれど、日本の外交力を最も損なう悪弊である。社長や重役連が1度も訪ねてこない会社と、会長・社長が定期的にやってきて、平取締役など毎年訪ねてくる会社のどちらに仕事をやりたいか考えてみるまでもない。象徴的には、これが日本の外交力と中国のそれの違いになる。

一例を挙げると、日本の総理のブラジル訪問は、2004年の小泉純一郎氏の訪問をもって掉尾(ちょうび)とする。国会拘束が厳しい中では、週末に多国間の国際会議(近年増勢の一途)や重要で定例的な2国間会議(近年はインドとも)を入れていくと、すぐに年間日程が埋まる。1年やそこらで退任してしまうと、これらを一通りやるだけで時間切れだ。小泉氏のように5年以上在任した総理にして、ようやく地球の裏側まで行ける。

国会拘束をできるだけ緩め、総理と外相を頻繁に外遊させるべきだ。モバイル広告塔をカスタマーの近くへもっていくことは、会社全体のマーケティングに資す、比喩としていうならば。

尖閣諸島周辺での中国などとの洋上接触の動画公開

第2は喫緊の課題として狭い該当範囲の話だけれども、動画の収集と迅速なアップロードである。尖閣諸島周辺で、中国の法執行機関は執行管轄権の既成事実化を狙う。そのため中国は、自分たちの船が取り締まる側、日本の船が取り締ま「られる」側として見えるよう、現場の画像と音声を収録し、それを中国中央電視台(CCTV)を通じて世界に発信している。

日本はこれに対抗していない。責任と命令の系統が曖昧なままで、誰もリスクを取りたがらないところに主因があろう。この際アタマを柔らかくし、中国などの船舶との洋上接触を逐一動画に収録した上で、インターネットの誰でも見られる場所へアップロードすればよい。

実は、日本にも、つとに現場の動画を証拠として開示し、世間一般の閲覧を促してきた事業がある。南極海での調査捕鯨活動だ。悪名高いシー・シェパードとの洋上邂逅(かいこう)・衝突を、捕鯨船団は動画に記録し、アップしてきた。しかし、これは筆者からすると、褒められた話ではない。

“日本嫌い”を増やす遠洋調査捕鯨の無期停止

それが第3の、かつ最後の論点で、日本は沿岸でミンククジラを取れる見込みが立ち次第、遠洋調査捕鯨を無期停止すべきだ。捕鯨は産業としては売上高、雇用規模とも極めて小さい。停止によって影響を被る人々の数は、それらの人たちに職種転換の手助けを十分図ったとしても、大した負担にならないほど少ない。

それでいて、世界のセレブリティ(大抵は動物愛護家)を敵に回し、友邦どころか同盟相手となるべき豪州や英国、ニュージーランドやカナダを、日本嫌いにさせるのにこれほど効果的な事業もない。ついでにいうと、シー・シェパードの軍資金を潤してもいる。どうしてもクジラが食べたい向きには、沿岸モノが手に入るようにしておけばよいのである。

いま日本は、豪州側が国際司法裁判所(ICJ)に提訴した捕鯨禁止の法廷闘争を買った立場である。その帰趨(きすう)を見るのはよいが、日本が勝ったとしてもこれ見よがしに豪州辺りへ鯨を取りに行くべきだとは思わない。勝訴判決をもって、自発的に遠洋捕鯨をギブアップするのもスマートかなと思う。

総理・外相の外遊、動画の活用、調査捕鯨の停止。これで日本の対外広報力は少なくとも今よりマシになる。

(2012年12月4日 記)

  • [2012.12.12]

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。1957年香川県生まれ。1981年、東京大学法学部卒業。『日経ビジネス』記者、編集委員を経て外務省に入省。外務副報道官、広報文化交流部参事官を務める。米プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール国際研究センター・フルブライト客員研究員、ロンドン外国プレス協会会長、上海国際問題研究所客座研究員、慶應義塾大学特別招聘教授などを歴任。2011年4月から2013年1月までnippon.com編集委員。著書に『通貨燃ゆ 円、元、ドル、ユーロの同時代史』(日本経済新聞社/2005年)など。

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