批判だけでは若者は海外に行かない

ホルバート・アンドリュー【Profile】

[2013.01.31] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

海外への関心は今でも強い

2012年初め、米国の大学に在籍する日本人留学生の数が25年ぶりに2万人を割り込んだという記事が出て話題になった。それを機に、日本の若者は海外への関心を失っていると嘆く声が多方面で聞かれるようになった。

ある新聞は「日本から出たがらない学生」と題した記事を掲載し、専門家はこの現象について、「日本の若者は海外に行くことに興味がない」と書いた。

しかし、これはまったく的を射ていない。数年前、欧州旅行で9人の日本人大学生を引率したが、そのうち4人は海外に留学していたか、さらに上の教育をめざして1年以上の期間、海外の大学などに戻る予定の学生だった。ただし、この4人の留学先がいずれも米国でなかったことは注目に値する。ひとりは現在、2年間のワーキングホリデー・ビザを利用してカナダのウィニペグにいる。もうひとりはトロントで1年間を過ごしていた。さらに別の学生たちは英国に留学した。

日本の若者が米国の大学に行かないことを理由に、彼らがカウチポテトだと決めつけるのは誤りである。なぜなら、最近の日本人学生は、米国以外の教育機関で学ぶチャンスを広げているからだ。1997年時点では、米国における日本人留学生は4万7000人で、日本人留学生全体の4分の3を占めていた。しかし現在、日本人留学生は、中国、英国、オーストラリア、ドイツ、台湾、カナダ、フランス、韓国、ニュージーランドの順で各国の大学に広く分散している。実際、これらの国々の日本人留学生の数を集計すると、米国の日本人留学生数を上回っている。

米国において日本人留学生が減少している背景には多くの理由がある。特に米国の大学で授業料が大幅に増加したことが大きい。また、留学先としてオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国の人気が高まっているひとつの理由は、日本の若者が利用できるワーキングホリデー・ビザである。米国留学を望む外国人学生には、こうした就労、休暇、勉学をひとまとめにした同様のビザは用意されていない。現在、この4カ国に長期滞在している日本の若者は2万人前後おり、彼らが海外に無関心であるとは到底思えない。

米国の大学では、今や日本より中国からの留学生の方が存在感を増しており、今後日米の絆が弱まっていくのではと心配する有識者もいる。確かに米国では、1994年から1997年にかけて外国人留学生に占める日本人の比率が最も高かったが、今では中国人学生が首位に立っている。2011年現在、米国の外国人留学生の4分の1強が中国人であり、日本人は3%に満たない。

今は学生の選択肢が増えている

しかし、この数字は全体像を示していない。手元の統計をざっと見ただけでも、これまでにないほど多くの日本の若者が海外に出ていることがわかる。日本の大学生年齢人口が過去15年間で30%減少したことを考えると、比率でみて、今の若者はむしろ語学留学や外国での生活を体験するため、どの時代よりもはるかに海外に飛び出しているといえる。

米国の大学には20万人の中国人留学生が在籍している。しかし、彼らの多くは、中国国内の2000の大学が学位取得をめざす3000万人の若者に対応できないため、やむなく留学している。しかも、この数字は近々4000万人に増える見通しだ。中国人学生が置かれている現状は、日本人のそれとはまったく異なるのである。

また、日本の大学生は現在、海外に行かなければ国際教育交流に参加できない状況とは言えない。例えば、京都の同志社大学では、学生は海外留学生と共に英語で学ぶ大学独自のプログラムか、同大が主催する諸外国の大学海外プログラムの聴講生として、外国人教授が行う英語の学科を履修することができる。また、主に米国など海外からの留学生との交流についても、実際に米国に行けば年間5万ドルの授業料を支払うべきところを、そうせずに実現できる。日本の一部の有名大学の平均的な年間コストは、その4分の1程度で済む。

他にも、日本人学生を米国の大学に呼び戻すためにできることは多い。例えば、米国の一流大学院への入学競争で中国人や韓国人の学生が勝ち残るのは、日本人学生の国際試験の英語の成績が振るわないからだと言われている。それが本当なら、夏休みの期間中、日本人学生が米国をはじめとする英語圏の英語学校に行けるようにすればいいのではないだろうか。しかし、日本の文部科学省は大学側に学期を延長するよう圧力をかけ、春学期が7月末から8月初めまでずれ込むことになった。結果、学生たちは英語学校に行くチャンスを狭められてしまっている。

学期の延長という判断は善意の官僚が下したものだが、明確に予測できたはずの海外留学プログラムへの悪影響は考慮されなかった。日本人学生の海外留学、特に米国への留学を奨励、支援するための政策はいくらでも存在する。日本の学期制を諸外国に合わせることは、望ましい方向への一歩となるだろう。米国留学にかかる高額な費用の一部を支援してもよい。また、他の国が日本人学生に認めているワーキングホリデー制度に倣い、米国も同様のビザを発給すれば、かなり有利になるはずだ。こうした制度的側面は若者自身にはどうしようもない部分であり、それを理由に彼らを批判しても何の役にも立たないのである。

(2013年1月8日、原文英語掲載)

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  • [2013.01.31]

東京在住のジャーナリスト。AP通信、ロサンゼルスタイムズ紙、英インディペンデント紙の元特派員。1999年から2005年までアジア財団の日本代表として、日本と近隣諸国との未解決の歴史問題に関する公共政策について話し合うことを目的としたフォーラムを創設。それが『Sharing the Burden of the Past: Legacies of War in Europe, America and Asia』(歴史の共有に向けて:戦後ヨーロッパ・アメリカ・アジアの取り組み)の刊行につながった。『Japanese Beyond Words』『開国の勧め』など9冊の著書、訳書がある。

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