絵空事の「脱原発」「卒原発」

早川 正也【Profile】

[2013.02.07] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

福島を覆う不満と冷めた雰囲気

滋賀県の嘉田由紀子知事が1月13日に開かれた後援会の新年会で、日本未来の党の結党に踏み切った経緯を明らかにした。小沢一郎衆院議員から「あなたが出てくれたら(衆院選で候補者が)100人通る」と説得されて決断したのだという。日本未来の党といえば、「卒原発」を掲げて衆院選に参戦し、公示日には代表の嘉田氏自らが東京電力福島第1原発事故の被災地である福島県に入り、第一声を上げた新党だった。

衆院選公示日に福島県内で第一声を上げた嘉田氏だったが…。(福島民報社提供)

ところが、選挙後の内部対立によって昨年暮れ、結党からわずか1カ月で分裂し、嘉田氏は離党、名称も「生活の党」に変わった。嘉田氏も、「卒原発」もしょせん、票集めに利用されただけだったのか。日本未来の党を見ていて、あらためてため息が出た。

衆院選は東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後、初の国政選挙であり、被災地にとっては今後の復旧・復興を担う政権を選ぶ重要な機会だった。事故から1年9カ月、野田佳彦前首相が事故の「収束」を宣言してから1年。依然として原発は不安定な状態にあり、15万人余りが不自由な避難生活を強いられている。

中間貯蔵施設の整備は遅々として進まず、除染の停滞で県民は健康への不安を抱え、風評被害も収まる気配がない。国や政治は劣化し、非常時だというのに平時の対応しかできず、県民の間には不満がうっ積している。何とか今の状況を打破し、復旧・復興を加速させてほしい。それが選挙に向けた県民の切なる願いだった。

しかし、「第三極」の離合集散も加わって熱気を帯びた中央政界とは対照的に、福島県の有権者の間には終始、冷めた雰囲気が漂っていた。解散・総選挙が決まると、日本未来の党をはじめ各党は競うように震災と原発事故からの早期復興や原発政策の見直しを公約に掲げた。しかし、総じて具体性に乏しく、実現に向けた明確な道筋が書き込まれていなかったからだ。

各党、被災地の思いに応えられず

事故の収束作業が続く東京電力福島第一原発。今も状況は不安定なままだ。(福島民報社提供)

原発を廃炉にするにしても、再稼動させるにしても、放射性廃棄物の処理・処分施設がなければ、いずれ行き詰まるのは分かりきっている。たとえ、運転が止まっていても原子炉や使用済み燃料プールに大量の燃料集合体がある限り、周辺地域が危険にさらされたままであることに変わりはない。既に原発事故に見舞われた福島県にとって中間貯蔵施設や最終処分場の整備が目の前の課題になっているのに、今後、どのように取り組むかがさっぱり分からなかった。

バックエンド対策は福島県だけの問題ではない。今回の事故を受け、全国の原発立地地域をはじめ首都圏などの電力消費地でも考えねばならないはずだ。原子力政策の根幹であるにもかかわらず、一連の原発論議では棚上げされたまま。各党の主張の底の浅さにあきれ、違和感を抱いていた県民は少なくない。原発問題が衆院選の争点の1つとされたが、被災地の有権者には、現実を見ずに夢を語っているような印象だった。

「脱原発」も「卒原発」も票集めのスローガンにすぎず、結局は「絵空事」や「空手形」に終わるのではないか。そんな懸念が有権者の選挙への関心を失わせ、県内小選挙区の投票率が戦後最低の58.86%に大幅に落ち込む要因の一つになったことは否定できまい。

参院選で問われる自民党

県内5つの選挙区では結果的に原発政策の見直しに最も消極的だった自民党の公認候補が比例復活を含め全員当選を果たした。「なぜ、原発事故の被災地で」と思われるかもしれないが、もちろん、戦後の原子力政策を推進してきた自民党が信任されたわけではない。県内選挙区の党派別得票率は自民党がトップだったが、43.6%と過半数は確保できなかった。自民党県連の役員も「民主党が負けただけで、決して勝ったとは思っていない」との受け止めだ。

ただ、負けたのは民主党だけではない。県内比例代表の党派別得票率は自民党26.0%、民主党20.2%、日本維新の会17.8%と小選挙区ほどの差はつかず、「第三極」を含め各党とも被災地の有権者の思いに応えきれなかったとみるべきだろう。

衆院選後に発足した安倍晋三内閣には根本匠復興相と森雅子少子化担当相の福島県選出国会議員2人が入閣した。根本氏は福島原発事故再生総括、森氏は子育てや食品安全、風評被害対策なども兼務する。県内の実情を知っている地元国会議員が政権に入れば、遅々として進まぬ復旧・復興が前進するのではないかとの期待感はある。ただ、県民のまなざしは厳しく、「まずは結果を出してもらわないと」との声が少なくない。自民党は民主党政権の震災・原発事故対応を「実態に即していない」「スピード感がない」と散々、批判してきた。それだけに、国や東電の復旧・復興業務を早急に改善し、その結果を県民が実感できるようにしないと民主党政権以上に風当たりが強くなるのは確実だ。福島県内での自民党に対する真の評価は、定数減になり、改選1議席で行われる今夏の参院選で問われる。

(2013年1月18日 記)

  • [2013.02.07]

福島民報社編集局報道部長。明治大学法学部卒。1984年福島民報社入社。社会部、遊軍、県政の各キャップ、報道部デスクを務め、いわき支社報道部長、編集局社会部長を経て東日本大震災直後の2011年4月から現職。

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