中国経済は現地で苦労する企業関係者に聴け!

信太 謙三【Profile】

[2013.02.06] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 |

中国経済の評価をめぐって日本のメディアはいつも大きく揺れる。「世界経済をけん引している」と持ち上げたかと思うと、今度は逆に「バブル崩壊が近い」と危機感をあおる。中国が巨大で全体像が捉えにくく、ニュースは一般的に重要な点にスポットを当てて報じられ、それ以外の多くの部分が抜け落ちてしまうからでもある。

激しく振れる日本メディアの報道

日本のメディア、特に、「見出しで売る」ともいわれる週刊誌はセンセーショナルで、中国の輸出が鈍って国内総生産(GDP)の伸びが低下すると、「中国経済崩壊の兆し」などと報じ、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の国有化をめぐって中国で反日デモが吹き荒れると、「日本企業の撤退、さらに加速」などと騒ぎたてる。これも読者獲得のためで、一面をみれば、確かに、そういうふうにみえないこともない。

2012年の中国の経済成長目標は8%前後だった。が、欧州連合(EU)の金融危機のあおりをまともに受けて輸出が伸びず、GDPの伸び率は第1四半期が8.1%だったものの、第2四半期は7.6%、第3四半期には7.4%にまで落ち込んだ。ただ、第4四半期は7.9%と持ち直し、通年では7.8%となるそうだ。これをどうみるかであるが、「1999年以来の低水準」と悲観的に捉え、高度成長時代の終焉と解釈する向きもある。が、この数字は、2%前後の日本などと比べれば、決して悪い数字とはいえない。一方だけから光をあててみているだけでは、真実から離れていく。

内需拡大への転換図る中国

中国も確かに苦しんでいる。経済がこれまで安くて豊富な労働力に依存した輸出主導型で、EU向けを中心に輸出が鈍化し、人件費がここ数年、急激に上昇。さらに、原材料価格の高騰が追い打ちをかけ、多くの企業の経営が悪化。輸出依存度の高い中小企業が集中する広東省の珠江デルタ地域や浙江省の温州地域では企業の倒産が相次いでいる。それだけではない。中国共産党・政府の指導者や幹部の腐敗は後を絶たず、貧富の差は拡大するばかりで、庶民の不満も高まり、インターネットの普及で情報の共有が比較的簡単にできるようになった結果、労働者の権利意識が高まり、各地で労働争議が頻発している。

また、中国は13億の人口を抱え、失業者の数は莫大(ばくだい)で、温家宝首相はその数について「2億人」といったことがある。事実、中国では毎年、約1500万人もの新たな労働力が生まれている。こうした中国の悪材料を積み上げていくときりがない。が、それゆえに、中国政府としては、経済成長路線をそう簡単に降ろすことはできず、中国は今年も比較的高いレベルの7.5%の成長を目指す。経済発展がなければ、失業者が増え、社会が不安定化すると、中国共産党政権の維持も難しくなってくるからだ。このため、中国政府は今年も、積極的な財政出動によって内需の拡大を図り、経済を輸出主導から脱却させるために全力を傾けることになる。

成長支える“農村都市”建設

湖南省邵陽市の市街地中心部。

この中で、“切り札”と考えられているのが「農村都市」の建設で、中国の農村地域には今、都市が次々に建設されていっている。中国は「9億人が農村部に住む巨大な農村国家」などといわれてきた。が、実は、人口13億で、都市部の人口は今や5億を突破し、農業で生計を立てている人(農村常住人口)は4億人しかいない。

内陸部にある湖南省の省都・長沙市は高層ビルが林立する人口700万の大都市で、そこから高速道路を車で飛ばして3時間のところにある邵陽はかつて小さな農村の街にすぎなかったが、邵陽市の市街化地域には約70万人が住んでおり、ビルが立ち並び、昨年8月に訪れたときは、市街地の周辺で住宅団地の建設が盛んに進められていた。

邵陽市市街地周辺に建設されている住宅団地。

邵陽市の新興住宅地域にあるスーパーマーケット。

中国政府のデータによると、人口1000万以上の都市は14あり、トップの重慶は2885万で、2位の上海は2302万、3位が北京で1061万。また、100万以上の都市は62もある。因みに、日本の100万人以上の都市は東京を含めて12。中国の大きさが分かろうというもので、この広い国土の農村地域のあちこちで都市の建設が進められている。即ち、中国のマーケットが農村地域にどんどん広がっていっているということでもある。

反日リスクでも撤退しない日本企業

反日リスク、パテント侵害、労賃や原材料価格のアップ、労働争議の頻発などによって、生産基地としての中国の“うま味”が少なくなってきているのも事実。このため、輸出を主体とする日系メーカーは数年も前から生産基地を中国から東南アジアに次々に移している。一部の週刊誌は今回の反日デモで「中国からの大撤退」と囃したてたが、実際には、「出ていくべき企業は既に出て行ってしまっている」そうで、メーカーでも、中国の国内市場をターゲットとしてところは反日デモで被害を受けても引き揚げず、流通やサービス関連企業は逆に増えている。日本市場の環境が改善せず、中国市場に活路を求めているということでもある。

彼らの判断は実際にカネがかかっているだけにシビアで、誤れば企業の存亡にもかかってくる。中国経済については、メディアのセンセーショナルな報道に左右されず、まずは、現地で苦労を重ねる日系企業関係者に聴けということだ。

(2013年1月18日 記)

写真提供=著者(2012年8月10日撮影)

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  • [2013.02.06]

ジャーナリスト(中国問題専門家)、元東洋大学社会学部教授、公益財団法人新聞通信調査会評議員、ニッポンドットコム理事。1948年静岡県生まれ。73年早稲田大学第一文学部卒業、時事通信社入社。香港特派員、北京特派員、北京支局長、解説委員、上海支局長などを歴任。優れた中国報道によって96年度ボーン・上田国際記者賞を受賞。著書に『巨竜のかたち 甦る大中華の遺伝子』(時事通信社)、『中国ビジネス 光と闇』(平凡社)などがある。

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