日系2世の英雄・ダニエル・イノウエ氏の死を悼む

原野 城治【Profile】

[2013.02.01] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

日系2世であり、米連邦議会議上院議員のダニエル・K・イノウエ氏が2012年12月17日、88歳で死去された。オバマ大統領は「米国は、今日、真の英雄を失った」との心からの追悼声明を発表した。

日米の懸け橋となるもっとも重要な人物であるイノウエ議員の死は、両国にとっての大きな悲しみであり、大きな損失であることは言うまでもない。

巨星の「後継」不在

実は、イノウエ氏が亡くなられたその日、私はある会合で講演された藤崎一郎前駐米大使に「米国の日系人社会の現状」について質問をさせていただいた。藤崎氏は、「日系人は、米国内でアジア系の人と結婚し、アジアン・アメリカンとして広がりを見せている」としながらも、「ダニエル・イノウエ議員の後を継ぐ人が誰になるのだろうか」と、自問された。日米関係が揺らぎ、日米人脈も先細りしている時だけに、その存在はあまりにも大きかったといえる。現状では、巨星の「後継」は不在だ。

私も、2011年9月米国ワシントンで、そして2012年10月の国際交流基金賞授賞式に出席されたイノウエ上院議員と2度お会いしている。もちろん簡単なご挨拶しかしなかったが、夫人のアイリーン・イノウエさんには、2012年度国際交流基金金賞を受賞し訪日された際、1時間にわたりインタビューさせてもらった(日米の若い「トモダチ」世代に希望を託す)。当然だが、その中でハワイ生まれのダニエル氏が、第2次世界大戦の際、精強な日系人部隊「第422連隊」の一員として活躍したことが、話題となった。

米国のために戦った日系人部隊「第442連隊」

だが、日本人はダニエル氏が米国軍人としてどのような英雄であったかはほとんど知らない。日系二世であるビル・ホソカワ氏が著わした『二世、このおとなしいアメリカ人』(原題 Nisei: The Quiet Americans、1969年、時事通信社から1972年翻訳本刊行)という名著があるが、その中で、ダニエル・イノウエ議員の英雄ぶりが詳しく書かれている。後世のために、その概略を紹介しておきたい。

1944年6月、第442連隊戦闘部隊は、当時困難を極めてイタリア戦線に上陸。敵を撃破して、10月にはフランスのボージュ山岳地帯に進撃した。山岳地帯の密林の中で孤立し敵の猛烈な砲火にさらされていた友軍救出のための〝失われた大隊″作戦に従事する。3日間の戦闘の末、211人の兵士を救出したが、第442連隊は140人の戦死者を数えた。負傷者は上陸時から数えて3000人を超え、死者も累計で900人近くに上った。

壮絶な戦闘の末、右腕を失う

ダニエル氏が1万人のハワイ2世とともに第442連隊の兵役に志願したのは1943年、18歳の時だった。イタリア戦線での砲火を潜り抜け、イタリアでの戦争が終わる9日前、将校(大尉)に昇進していたダニエル氏は山岳地帯で再びドイツ陣地攻撃を指揮した。

ダニエル氏は、自身でドイツ軍のトーチカに手榴弾を投げつけたが、その際腹部に銃弾を受けた。負傷をものともせず、さらに第2のトーチカに手榴弾をくらわせた。しかし、ドイツ兵の発射した銃榴弾でダニエル氏の右腕は根元からもぎ取られてしまった。負傷して護送される前にさらに右脚に銃創を受けた。その姿は壮絶そのものだった。

腕を亡くしたダニエル氏は、殊勲十字勲章を受けた。だが、外科医になろうという希望は断たれ、法律に転向した。1959年ハワイが50番目の州になると、ダニエル氏はハワイ最初の下院議員に選出され、1962年には上院議員に当選した。その後、1964年にはリンドン・ジョンソンの指名を支持して、1968年の民主党大会では基調講演を行う有力議員になった。

日米人脈構築のために「全力を尽くせ」

第442連隊の標語は“Go for Broke”、ハワイのスラングの1つで「全力を尽くせ」「当たって砕けろ」という意味だ。2013年1月に発足する米国の新議会では、下院に4人上院に1人の日系議員が在籍するが、ダニエル・イノウエ上院議員のような経歴を持つ重鎮はいない。日米人脈構築に向けて、今こそ「全力を尽くさなければならない」といえる。

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  • [2013.02.01]

政治ジャーナリスト。1972年時事通信社入社。同社政治部記者、パリ特派員、解説委員、秘書部長、編集局次長、ジャパンエコー社代表取締役を経て、2011年から16年3月までニッポンドットコム代表理事。2006年より日本国際問題研究所評議員。2008年「イタリア連帯の星」カヴァリエーレ章受章。2009年TBS番組コメンテーター。

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