日豪パートナーシップの将来

小倉 和夫【Profile】

[2013.03.08] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

豪州白書の根底にある「中国の台頭」

2012年10月、オーストラリア政府が、アジア政策についての白書“Australia in the Asian Century White Paper”を発表した。白書は、21世紀をアジアの世紀として捉え、豪州が躍進するアジア経済から最大限の利益を得られるよう、どのような政策を展開すべきかを論じたものだ。

こうした白書が公表されたこと自体、白書がその中でいみじくも明言しているように、豪州がもっとアジアに近づき、アジアを理解しなければならないという真摯(しんし)な意図の表れである。この中で、豪州はアジア通で、アジア力のある国(More Asia-literate and Asia-capable nation)にならなければならないと明確に述べられている。

しかし、白書の全編に流れているトーンは、見方によってはいささか偏っているといえる。底流に流れているものは、中国の台頭に豪州はどう対応すべきか、とりわけ、中国経済の躍進から豪州が最大限の利益を上げるためにはどうしたらよいか、という問題意識である。この白書は、極端な言い方をすれば、アジアについての白書というより、中国についての白書である。しかしそれには、深い理由がある。

戦略的利害、政治的理念を共有しない中国

中国の台頭は、豪州にとって、史上初めてともいえる「戦略的ジレンマ」を提起しているからだ。それは、次のようなジレンマである。歴史的に言えば、豪州はかつては英国、その後は米国および日本が、政治的にもっとも重要であり、かつ経済的にも依存度の高いパートナーであった。そうしたパートナーと豪州は、市場原理や民主主義といった共通の政治上、経済上の理念を共有してきた。言い換えれば、豪州とその経済的パートナーは、経済的利害を共有するのみならず、政治的戦略をも共有してきた。ところが、豪州と中国との経済関係は飛躍的に拡大しているが、両国は戦略的利害や政治的理念を必ずしも共有していない。そうしたパートナーとどのように付き合っていくかは、豪州にとって新しい、そして、複雑な問題なのだ。

強化しなければならない日豪パートナーシップ

豪州と似たようなジレンマは日本も直面している。中国との経済関係の深化と米国との安全保障面での関係の深化のバランスをどのように保っていくかは、日本にとっても難しい問題だ。しかし、豪州と日本は決定的に違うところがある。それは、豪州は地理的、歴史的理由から、中国との間で、(理念や考え方の違いはあっても)深刻な政治的な対立に至る可能性は少ないことだ。従って、豪州はある種の「政経分離」政策をとって、中国に接近するであろう。

そうした豪州の政策は、日本と豪州とのパートナーシップに微妙な影響を及ぼしかねない。最近、安全保障面での日本と豪州の協力強化が謳(うた)われ、中東での協力といった平和構築面での協力を越えて、軍事技術面での協力の可能性も模索されている。日豪双方が、経済的に中国市場への依存を深めながら、それと並行して安全保障面での協力を拡充するのであれば、日豪両国はお互いの対中認識や対中政策について、いままで以上に対話を深めなければならない。その時、米国の対中認識と政策も勘案されなければならないが、もっとも重要なポイントは、中国の明日についての、中国自身の見方の政策が何かであろう。なぜなら、中国の明日を決めるのは、中国自身にほかならないからである。

中長期的に言って、中国が、市場原理と民主主義の社会にソフトランディングすることが、日、豪、米、そして中国自身にとっても良いことだという前提に立てば、そのために日豪両国が、米国と協力して何ができるのか、どういう態度で中国と向き合うべきかが問われなければならない。

このように、日豪パートナーシップの中心に隠れているものは中国である。豪州のアジア白書が中国に焦点をあてていることは、日本とのパートナーシップを軽視しているのではなく、逆に日豪パートナーシップをどのように強化すべきかを、ひそかに示唆しているように見える。

 (2013年3月4日 記)

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  • [2013.03.08]

青山学院大学特別招聘教授。東京2020オリンピック・パラオリンピック招致委員会評議会事務総長。1938年生まれ。東京大学法学部、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。1962年外務省入省。文化交流部長、経済局長、外務審議官、駐ベトナム大使、駐韓国大使、駐フランス大使などを歴任。2003年10月から 2011年9月まで独立行政法人国際交流基金理事長を務める。著書に『グローバリズムへの叛逆』(中央公論新社/2004年)など。

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