ITには、あまり効果を感じられない?

大野 隆司【Profile】

[2013.06.07] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL |

「ITで競争優位を創出」「ITでイノベーションを」という勇ましい掛け声は、日本のIT業界で、この20年間、口にされ続けてきたし、今も口にされている。

「それって本当?」「リアリティはあるの?」 

IT業界に属していない多くのビジネスマンは、疑問を呈したくなるのではないだろうか。IT業界に身を置いている私も同じだ。

効果を感じられないIT

若干の弁明をしておけば、ITが一定の効果を出してきたことは間違いない。10年前の職場をイメージしてもらいたい。月次の締め業務は、翌月の半ばまでかかり、四半期決算処理などはとても間に合わない状態だったのではないだろうか。

ERP(企業資源計画)をはじめとしたシステム処理の高度化、業務や部門ごとに構築・運用されていたシステムの統合化が、業務処理の効率化・省力化に貢献してきたことは間違いないだろう。例えば、売上管理システムに入力した売上情報が、売掛金データとして自動的に会計システムに登録される。しかし、これらの効果・貢献を考慮したうえでも、「効果があるのか」と問いかけたい方が多いのではなかろうか。

正確に問い掛けるのならば「あれだけIT予算をかけておいて、それに見合った効果があるのか」となる。

意外に知らないIT市場…どこに消費されているのか?

日本のIT市場の規模をご存知だろうか。実に、約14兆円という巨大な市場なのである。これにはEC(電子商取引)における取引額や、オンラインゲーム業界の売上げは含まれていない。ちなみに、世界では、米国市場が断トツのトップで、日本の約2倍。あとはEU、中国、日本がほぼ同規模の市場となっている。国別でいけば、米国、中国そして日本の順番だ。

これだけの巨大市場で、企業が巨額の予算を消費しているにもかかわらず、それに見合った効果が出ているのか。「競争優位の創出やイノベーションの加速」が実現できているかというと、どうにもその実感は持てないようだ。

なぜだろうか?

「競争優位の創出」よりも「競争劣位の阻止」

日常の仕事はIT無しで回らなくなっている。問題は、業務を直接的に支援するシステムだ。いまでは、会計システムをはじめ、受注管理システム、在庫管理システム、生産管理システムなど企業のバリューチェーンをすべてカバーするかのように、システムが存在している。情報システムが無ければ、顧客の注文の登録ひとつできない。つまり情報システムが業務に深く「組み込まれて」しまっている状態だ。

普通の業務のために、高額な情報システムを抱えなければならなくなってきていることにこそ大きな問題がある。情報システムが、業務効率化やエラー防止などに一定の効果を出してきたことには間違いないが、競争優位の創出やイノベーションには、ほど遠いのが実態だろう。  

しかし、これをいまさら手作業に戻すことは、ナンセンスでもある。注文から発送までを1日で処理できるところを、手作業で3日かかるということは許されにくい。1日での処理は競争優位にはならないが、手作業では明らかに競争劣位を産み出してしまう。つまり、企業は「競争劣位の阻止」のための情報システムに多くの予算をかけているのが実態といえる。

新しい試みに予算は使われていない

日本企業のIT予算は、業界により差もあるが、だいたい売上げの1%から3%。多額の予算を使いながら、それが「競争劣位の阻止」に使われていることは理解しがたいかもしれない。しかし、予算の7割近くが既存システムの維持管理に消費されている。しかも、予算は、なかなか減らせず、しばしば「根雪」のようだと言われている。

つまり、新しい取り組みに使われる予算は3割程度ということだ(新しいからといって、競争優位の創出につながるものだとは限らないが)。この事実は、IT予算が「競争劣位の阻止」を中心に消費されていることの蓋然性の高さを示している。

3つの根深い問題点

なぜ、維持管理のコストを減らすことが難しいのだろうか。その理由は次の3点だといえる。

第1の「ブラックボックス化」とは、システムの中味がわからないということだ。歴史の古いシステムでは、設計書が残されていない場合も珍しくないし、設計書が残っていても、それとシステムが一致しない場合も多い。改造が加えられていく過程で、設計書がきちんと更新されていないことが多いからだ。つまり、維持運用の一部である改造を行う場合にも、いちいち既存システムの解析作業が必要となってくる。しかも、解析作業は、かなりの人手を要する。

第2は「複雑化」だ。“部分最適化”した多くのシステムの集合体となっている企業システムは、相互にデータの連携を行うことが必要となっている。(システム間でインターフェースをとる、と言う)。このことが、複雑化を増幅させている。ひとつのシステムを改造したい場合でも、同時に改造を加えなければいけないシステムが多数存在しているということになる。

第3の「属人化」とは、特定の人にしかシステムの中味がわからず、特定のエンジニアの頭の中にのみ設計書が存在している状態のことだ。属人化は、エンジニアらの仕事の固定化につながる。雇用を保証している面もあるが、彼らのキャリア・技術的な新たな挑戦の機会を奪っているといえるだろう。

なかなかできない「見える化」

3つの問題点の「コスト高への影響と対策」については、あらためて解説をしたい。ただ、「システムを『見える化 』すればよいのではないか?」とシンプルな疑問を持たれる方も多いだろう。しかし、長年にわたり「見える化」には手がつけられてこなかったのが実態だ。

そこで、次の疑問が出てくる。

「CIO(最高情報責任者)はなにをやってきたのか?」「CIOは本当に必要なのか?」

センシティブな問いかけではあるが、次回はこの点から考えてみることとしたい。 

(2013年6月7日 記)

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  • [2013.06.07]

株式会社ローランド・ベルガー パートナー。早稲田大学政治経済学部卒業後、米国系戦略コンサルティング・ファーム、米国系ITコンサルティング・ファームを経て現職。製造業、流通業、システム業界を中心とした内外トップ企業において、新規事業創出、サプライチェーンやマーケティングをはじめとした幅広い領域のオペレーション戦略、IT戦略、BPR(企業活動・業務プロセス最適化)、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)など数多くのプロジェクトをてがける。

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