CIO(最高情報責任者)は本当に企業に必要なのか?

大野 隆司【Profile】

[2013.07.17] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

日本の上場企業の半分以上は、CIOという職を置いているといわれている。しかし、最高情報責任者とはいうものの、前回のコラムで述べたように、経営者や非IT部門からの要求に、十分には応えきれていないのが現状だろう。大規模なIT予算を管理・執行するという権限が大きいわりに、その遂行が十分ではないようなCIO。今回はCIOが本当に企業に必要なのかについて考えてみる。

妙に高すぎるCIOへの期待

IT業界で仕事をしている限り、CIOの要・不要を議論する余地はまったくない。ハードウエアやソフトウエアを提供するITベンダーをはじめ、IT業界をターゲットとする雑誌やウェブサイトなどのメディアや学究の世界を含め、「業界」のお気に入りのテーマは、CIOの“地位向上”だ。IT業界では「CIOこそが企業改革を推進すべし」「CIOこそがCEO(最高経営責任者)の片腕に」といった勇ましいテーマが、しばしば取り上げられ、真面目に議論をされている。CIOの地位向上は、IT業界のビジネス・市場拡大につながっていくというわけだ。

ただ、経営コンサルティングを通じて、私は多くのCIOの方々を間近に見てきたが―そして、そのうちのいくつかは、彼らにとって厳しい意見を突き付けたケースも少なくはなかったが―どうもこの勇ましい掛け声には違和感を持ってしまう。実際には「そこまで手が回らないよ」「勘弁してくれよ」と思われているCIOの方も多いのではないだろうか。

CIOは保守的で新しいことが苦手

基本的にCIOは保守的だ。ビジネスにおいてITが重要になればなるほど、この保守性は高くなっていく。システムを安定稼働させることが、最重要なミッションとなってくるからだ。安定稼働は大切なことであることに間違いはないが、これのみに優先度が置かれてしまっては、新しい取り組みには意識が回らなくなる。「新しいことをやって、万一、既存のシステムにトラブルが発生したらどうする?」といったリスクに過度に慎重なスタイルが形成され、さらには「リスクをとってまで、新しいことをするのは無駄、損」という考え方が定着してしまう。ITの重要性の高まりが、チャレンジの回避につながるとは、ある意味皮肉ではある。

もうひとつ重要な事実がある。新しいことへの取り組み、すなわち新規プロジェクトの経験が少ないということだ。これは企業内のシステム・エンジニアに共通する宿命である。

大型の新規システム構築プロジェクトは10年に1度あれば良い方だ。このため企業内のシステム・エンジニアは、新規プロジェクトの経験を積む機会が少ない。ITに限らないが、新しくものを作る・立ち上げるという経験と、既存のものを維持・管理していくという経験は、まったく異なるものだ。必要なスキルも異なってくる。

経験を積まなければ、スキルは身に付かないし、磨かれない。スキルがなければ、始めることもできない、というわけだ。保守的な性分とあわせて、新規プロジェクトの経験・スキル不足が、新しい取り組みへの躊躇(ちゅうちょ)あるいは回避につながっている。

新しい取り組みへの意志も薄く、着手したにしてもスキル・経験不足のため迷走してしまうことが多い。プロジェクト開始早々、ITベンダーに丸投げ状態になってしまい、ガバナンスを喪失しているケースもよく見る光景である。

CIOの位置づけは?

それでは、CIOはどうすればいいのだろうか?新規プロジェクトについては、それを「せざるを得ない状況」に置くことが早道だろう。ひとつの策としては、COO(最高執行責任者)の下に位置づけることがあげられる。COOが戦略やビジネスの観点からITの取り組みの必要性を導出し、実行を指示。CIOはそれの遂行のリーダーとして働くというかたちが望ましい。

もちろん、ここではCOOの役割・権限、そして専門性などのあり方についての見直しは必要となってくるが、企業として必要なITの取り組みが「放置されたまま」という状態は回避することが可能となる。

「知らないこと」を知る、知っているつもりにならない

スキル・経験については、新規プロジェクトに関して「経験劣位にある」ことと真摯(しんし)に向き合うことが必要だ。大企業の大規模システムを抱えるシステム部門のヘッドだからと言って、技術力はもとより、新規プロジェクトのマネジメント力に長(た)けているとは限らないということを強く認識することが必要だ。こういうことをわざわざ言うのは、意外に「知っているつもり」になってしまっているCIOが多いからだ。

当たり前のことだが、立場や企業規模がそのまま実力と整合しているわけではない。また、企業内ではITに最も詳しいとしても、それが世間レベルでみたときに、高い水準にあるとは限らない。自分が知らないこと・苦手なことを正確に把握したうえで、それを補強する作戦を考えるという当たり前の行動が必要となってくるわけだ。

今回はCIOについて考えてみたが、翻って経営者のITリテラシーはどうだろうか。もはや「ITはまったく分からない」では、済まされなくなってきている。とはいうものの、経営者にとってITは妙に専門性が高そうである。「ITを語る」ための心理面も含めたハードルが高いのも事実だろう。そこで次回は、「経営者がITを語る」「ITをマネジメントする」ことについて考えてみることとしたい。

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  • [2013.07.17]

株式会社ローランド・ベルガー パートナー。早稲田大学政治経済学部卒業後、米国系戦略コンサルティング・ファーム、米国系ITコンサルティング・ファームを経て現職。製造業、流通業、システム業界を中心とした内外トップ企業において、新規事業創出、サプライチェーンやマーケティングをはじめとした幅広い領域のオペレーション戦略、IT戦略、BPR(企業活動・業務プロセス最適化)、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)など数多くのプロジェクトをてがける。

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