ITに関して、経営者ができること

大野 隆司【Profile】

[2013.08.28] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

前回はCIO(最高情報責任者)の抱える問題点・課題について考えてみたが、CIOが機能しないのは、能力の問題だけではない。経営者も悪いからだ。

経営者の方々は、どうもITの議題になると沈黙してしまうか、「価格がもっと安くならないのか?」といった問いかけに終始してしまうことが多いようだ。

苦手なことは理解できるが・・・・・・

このような経営陣の無関心なスタンスにも、大きな問題があることを強く認識し反省するべきだろう。前回も触れたが、CIOにあれもこれもと大きな期待をするのには無理があるし、企業が狙う効果が担保されにくい。経営者が「出張る」ことが必要なのだ。

とは言うものの、この無関心さや、ITに関して意見が言い難い理由も理解できる。

ITというのは、妙に専門性が高そうであるし、よくわからない横文字も頻出する。ITが企業運営に入ってきたのは、この20年。いまの経営陣の方々が、ITの経験を積む機会は、皆無に近かったという面もある。ただ、ちょっと考えてみてもらいたい。

あなたが、製造のエキスパートでなかったにしても、工場建設には意見を言うのではないか。人事マンで無くても、育成については一家言あるのではないか。なぜITだけが例外になるのだろう。きちんとITに向き合わないのは、経営者として怠慢である。そういう時代だと言えるだろう。

常識で考えて対処する

企業のITに関わる多くのことについては-感覚的には7割程度は-、「常識」で対応していけば問題はない。もう少し正確に言えば、ITに関する「疑問・問いかけ」を、常識で考えて提示していけば良いということだ。いままでのビジネスで培われた「何か足りない」「どこかおかしい」という感覚を大事にすればいい。

「今回のIT化で、どれだけの効果がでるのか?」「その効果は、どの業務に影響するのか?」「効果はいつから出るのか?」「もし今回のIT投資を3割減らしたら、効果はどれほど減るのか?」「そして、ビジネス上のリスクは、何が、どの程度懸念されるのか?」「開発期間を半分にしたら、どこまで(IT化)が可能なのか?」「そのベンダーを調達した理由はなぜか?」等々。いずれも難しいものではないだろう。

多くの経営陣の方が「ITの人間の言うことは、いくら説明を聞いても良く分からない」とこぼされる。これは悩むようなことではない。他の業務と同様に「分かるように説明しなさい」という指示をだせばいいだけだ。

ただ、ITの人間による説明は、しばしばとても分かりにくい。「分かってもらうために説明する」という意識がそもそも欠如しているような人も多い。ここは粘り強く問いかけを続けていくことが必要となってくる。この粘りが経営者には求められる。

経営者こその出番―プロジェクト中止決定

そして、ITに関しては、経営者にしかできないことがある。

それはプロジェクトの中止の意思決定だ。

ITに限った話ではないが、いったん動き出したプロジェクトを止めることは難しい。特に、既に大量の人や時間、そして金を消費してしまっているプロジェクトではなおさらだ。

世の中には、大幅な進捗の遅れやコスト超過、環境の変化による要件のズレなどにも関わらず、最初に決めた内容で、何とか完成させようとしているプロジェクトは少なくない。

システム構築のプロジェクトでは、よく見られる光景だ。

システムの構築は、効果発現の“手段”であるにもかかわらず、いつのまにかシステムをつくることが“目的”となってしまっている。つまり “手段”の“目的化”が非常に多い。

言うまでもなく、このようなトラブルプロジェクトは、仮に完遂したとしても、狙った効果、投資対効果が保証される可能性は低い。適切なタイミングで、中止を含めた見直しをすることが必要なのだ。

既に消費してしまった投資を“サンクコスト”とする意思決定は、プロジェクト・リーダーには-たとえそれがCIOであっても-かなりハードルが高い。そもそも、サンクコスト化するという選択肢すら、念頭に無い場合がほとんどだろう。

この局面こそ、経営者が出張るところなのだ。

外部によき相談者をつくる

とはいうものの、「本当にサンクコスト化して良いのか?」という踏ん切りはつけにくいだろう。いつ、どのように、何を基準に、意思決定をするのが適当なのかは、不安だろう。

社内に聞いても、誰からも適切な答えが出てこないことが多いのではないだろうか。

特に、投資額や完成までの期間の妥当性、候補のシステムベンダーや製品の実態、プロジェクトの進め方の巧拙など、いわゆるIT業界における“相場”“評判”などについては、なおさらだろう。

これらに対応するためには、経営者は良き相談者、つまり外部のプロフェッショナルなアドバイザーを、もっておくことが現実的な解と言えるだろう。

弁護士や会計士を社員として恒常的に雇わないのと同様に、必要なときに相談できるような準備をしておくということだ。

経営者のITに関する仕事は、まずこのアドバイザー探しから-報酬は弁護士と同程度と思っておけばよいだろう-始めてみてはどうだろう。

この記事につけられたタグ:
  • [2013.08.28]

株式会社ローランド・ベルガー パートナー。早稲田大学政治経済学部卒業後、米国系戦略コンサルティング・ファーム、米国系ITコンサルティング・ファームを経て現職。製造業、流通業、システム業界を中心とした内外トップ企業において、新規事業創出、サプライチェーンやマーケティングをはじめとした幅広い領域のオペレーション戦略、IT戦略、BPR(企業活動・業務プロセス最適化)、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)など数多くのプロジェクトをてがける。

関連記事
その他のコラム

ピックアップ動画

最新の特集

バナーエリア2
  • nippon.comコラム
  • in the news
  • シンポジウム報告