中国はアジアの光か、それとも影か

小倉 和夫【Profile】

[2013.12.06] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL |

忘れてはならない中国の近代史

昨今、国際社会では経済発展と軍事力の増大から、中国に対して「脅威」あるいは「抑止」という二つの言葉がしばしば用いられる。これらの言葉は中国の隣国、あるいは拡張を懸念し、あるいは中国の大国的で一方的な振る舞いに辟易(へきえき)する国々によって使用されてきた。しかしながら、これらの国々は一つ重要なことを忘れている。それは近代史において、中国が度々外国より侵略され、占領されたという歴史的事実である。こうした過去のため、中国は常に周辺からの「脅威」に敏感になり、自国の安全に気をもむことになりがちである。

仮に我々がこの点を考慮すれば、「中国を脅威とみなして抑止力を語るのではなく、中国の不安を取り除く努力を行い、安心感を与えることが重要だ」と述べることもできよう。中国は、ほとんどすべての隣国と領土紛争を抱えている。そのため、これらの隣国が「不可侵条約、あるいは類似の協約を結び、平和裏に紛争を解決すると宣言する」ことは、中国にとって極めて重要なこととなる。中国とその隣国の間で軍事衝突が発生し、それによって引き起こされかねない連鎖反応を考慮すると、アジア地域の安全保障の枠組み作りを話し合うことは大変意味があり、日本はこの枠組み作りでリーダーシップを発揮することができよう。

「中国は大国か、否か」という自問

また、我々は基本的な問題として自ら問わなければならない点がある。それは、「中国は大国か、否か。現行の国際秩序を変えようとしているのか否か」である。第二次大戦後、中国は一貫して「第三世界」のリーダーとして、西洋主導の政治や経済体制と対峙し、また旧ソ連が率いた社会主義陣営に対してもある種の挑戦者として行動してきた。

北京当局が、仮に「全方位」外交を継続するなら、我々は、中国が国際秩序に挑戦する国ではなく、その秩序の維持を図る者として行動しようとしているとみなすことができるだろう。

北京当局が、東アジアにおける国際秩序建設作業を独占する立場をとるという誘惑にかられても不思議ではない。しかしながら、アジアのいくつかの隣国の不安を軽減する意味でも、中国は、貿易、環境、防災、伝染病、人権、福祉、食の安全などの分野で、より厳格にアジアや国際社会の既存秩序や慣例を順守するとの姿勢を打ち出すべきである。

そして、中国自身の文明や政治文化の中に、こうした人権や民主の概念はすでに含まれているということを強調したい。我々は、中国がこれらの価値観を他国と共有することこそが、中国自身の尊厳を保つことに他ならないことを指摘すべきである。

中国と共有すべき「アジアの責任」

また、アジア全体の立場から見る場合、我々は、中国と、あるキーワードを共有しなければなれないことを忘れてはなるまい。それは「アジアの責任」である。アジアの急速な経済発展の背後に存在する、人口動態の変化、環境問題、食糧危機、エネルギー供給問題などは、世界全体に関わる問題についてのアジアの責任である。アジア各国は、国の大小にかかわらず、一部の主権行使に制限を設けてでも共同行動を推進せねばならない。そうしてこそ、アジアの国々は、国際社会での共通の利益を広く享受することが可能となるのである。このような精神のもとで、中国のこうした活動へのさらなる参加を働きかけ、国際社会での行動例をともに増やしていかなければならない。

このような責務を担うことで、中国を含めたアジアは、グローバル化にともなって、自分自身を調整しなければならないことに気づくだろう。同時にアジア以外の世界の他の国も、中国とアジアの台頭を受けて、機動的に自身を変えていかなければならない。

これら各国の調整努力を行っていく上でも、我々は中国に関しての重要な問題について自問しなければならない。それは、「中国は最終的にどこに向かうのか」である。日本とアジアの各国が知りたいのは、現代化を実現した後、中国が世界各国との関係をどのように想定するのかという点である。将来、衝突を避けたいのであれば、アジアの各国は共同で地域の青写真を構築し、その過程で互いに協力し合わなければならない。

(2013年11月6日 記、原文英語)

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  • [2013.12.06]

青山学院大学特別招聘教授。東京2020オリンピック・パラオリンピック招致委員会評議会事務総長。1938年生まれ。東京大学法学部、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。1962年外務省入省。文化交流部長、経済局長、外務審議官、駐ベトナム大使、駐韓国大使、駐フランス大使などを歴任。2003年10月から 2011年9月まで独立行政法人国際交流基金理事長を務める。著書に『グローバリズムへの叛逆』(中央公論新社/2004年)など。

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