日本は孤立へ向かうのか?
求められる和解への道

サーラ・スヴェン【Profile】

[2014.02.17] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

東アジアにおける“和解黄金期”

今から10年ほど前、『ニューズウィーク国際版』に『孤独すぎる日本(A Very Lonely Japan)』と題する記事が掲載された。表紙には、「日本にはなぜ友人がいないのか(Why Japan Has No Friends)を解き明かす」という目を引く見出しと、靖国神社を参拝する小泉純一郎首相の姿。記事の内容はやや一般論的すぎるきらいはあったものの、「小泉首相の度重なる靖国参拝によって日本が外交的に孤立しつつある」という指摘は核心を突いていた。実際、東アジアにおける“和解黄金期”は2000年代に入って幕を下ろし、中韓首脳との対話は減少、関係強化・地域協力に向けた歩みも止まっていた。

1990年代は違った。日本がアジア太平洋戦争(1931–45)への謝罪をたびたび表明したことで、東アジアには相互信頼のムードが生まれていた。82年の社会科教科書検定への近隣諸国条項(※1)の導入決定、93年の従軍慰安婦問題に関する河野談話と、細川護熙首相による「侵略戦争」への謝罪、95年の村山談話、さらに元従軍慰安婦への償い金を支給するためのアジア女性基金の設置などにより、日本と中国、韓国の関係改善は大きく進んだ。私はこの時期を東アジアの“和解黄金期”と呼んでいる。

和解から関係の強化へ

98年、小渕恵三首相と韓国の金大中大統領は日韓共同宣言(正式名称:日韓共同宣言―21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ―)に署名した。両首脳は、「日韓両国が21世紀の確固たる善隣友好協力関係を構築していくためには、両国が過去を直視し相互理解と信頼に基づいた関係を発展させていくことが重要である」という意見で一致。小渕首相は村山談話を踏まえ、日本の植民地支配について謝罪の言葉を述べた。同年、日本と中国は日中共同宣言(正式名称:平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言)を発表。99年には日中韓サミットの開催も提案された。

ところが小泉首相が靖国参拝を繰り返したことで、中国、韓国との間に外交摩擦が生じる。結局、99年から2007年までは東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に合わせて首脳会談が行われただけで、日中韓サミットが実現したのは2008年になってからだった。

小泉首相の靖国参拝がもたらした近隣諸国との緊張

小泉首相は、靖国神社が先の戦争を肯定している施設であることを承知のうえで、2006年8月までに6回参拝した。アジア太平洋戦争を「侵略戦争」ではなく「自衛のための戦争」「ヨーロッパの植民地支配からアジアを解放するための戦争」だったとするその歴史観は、境内にある博物館、遊就館の展示を見れば明らかだ。そうした歴史観が、戦争や植民地支配の被害を受けた国々の神経を逆なでするものであることは言うまでもない。

そもそも小泉首相の靖国参拝には論理的な矛盾があった。過去の戦争への「心からのおわびの気持ち」を表明した村山談話を踏襲すると表明しながら、正反対の歴史観を掲げる施設を参拝したからだ。2013年に来日したケリー米国務長官とヘーゲル米国防長官のように千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れて戦没者に敬意を表すとか、外交問題に発展する恐れが少ない他の追悼施設を訪れるなどの選択肢もあったはずだが、小泉首相はあえて靖国神社を参拝した。その理由についての説明はない。

日本は孤立へ向かうのか?

そして2013年12月26日、現職首相としては7年ぶりに、安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。安倍首相は、アジアの国々との関係改善を図るうえで重要な施策の1つであった近隣諸国条項の見直しにも着手。さらに戦前の軍国主義との決別を象徴する日本国憲法第9条の改正にも意欲を見せている。

しかし憲法9条の改正は日本だけの問題ではない。9条は、日本が他国を脅かす存在ではないというメッセージを伝える重要な役割を果たしてきたからだ。このメッセージを撤回することになれば、周囲の国々が違和感を持つことは間違いない。

かねてから中韓のメディアは「過去を歪曲(わいきょく)している」として日本を批判してきたが、安倍首相の歴史観には欧米も懸念を表明している。米政府は安倍首相の靖国参拝に対して、「失望した」という異例の声明を出した。米紙『ニューヨーク・タイムズ』は2012年後半以降の 社説で、安倍首相の歴史政策を「恥ずべき衝動」として再三非難。保守系シンクタンクのヘリテージ財団でさえ、「歴史問題をめぐって東アジアで緊張が高まることを避けるには、『安倍首相に私的な助言』を行う必要がある」と提言している。(※2)

日本と友好関係の深いドイツのメディアも、安倍首相の歴史観を「地域の安定に対する脅威」ととらえている。国際放送専門の公共放送機関ドイチェ・ヴェレは『かつてなく深まる日本の孤立(Japan’s Regional Isolation Higher than Ever)』と題する記事をウェブサイトに掲載し、東アジアでの日本の孤立化に警鐘を鳴らした。記事にあるとおり、安倍首相が「自らの目標の達成」に成功すれば、地域には「一層の対立が生じる」可能性がある。何とも皮肉なことだ。将来にわたって東アジアの平和と安定を維持するには、歴史認識の違いに起因する悪循環を脱し、東アジアに新たな“和解黄金期”を築く必要があるだろう。

(2014年1月9日 記、原文英語)

(※1)^ 社会科教科書の検定基準のひとつ。「教科書の記述では過去の戦争で被害を与えた近隣アジア諸国の感情に配慮をする」というもの。

(※2)^ ブルース・クリンガー『U.S. Should Use Japanese Political Change to Advance the Alliance』 (『Backgrounder』 第2743号/2012年11月14日発行)

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  • [2014.02.17]

上智大学准教授、フリードリヒ・エーベルト財団東京事務所日本代表。1968年ドイツ生まれ。マインツ大学、ケルン大学、ボン大学で歴史学、政治学を学ぶ。4年間の金沢大学での留学を経て、1999年ボン大学文学部日本研究科博士号取得。ドイツ日本研究所人文科学研究部部長、東京大学大学院総合文化研究科准教授などを歴任。共編著に『明治初期の日本―ドイツ外交官アイゼンデッヒャー公使の写真帖より』(OAGドイツ東洋文化研究協会・Iudicium/2007年/和独文)『Pan-Asianism: A Documentary History(史料で読むアジア主義)』(Rowman & Littlefield/2011年/英文/2 vols.)など。

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