日本の音楽業界:低落基調に逆戻り

イアン・マーティン【Profile】

[2014.04.11] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية | Русский |

2013年2月、世界の音楽ビジネス関係者は、国際レコード産業連盟(IFPI)がまとめた2012年の年次報告書『Digital Music Report』の内容に目を丸くした。業界の長期低落傾向が続く中、日本の音楽市場が売り上げを伸ばしたからだ。それも売り上げ増の主役は、先がないと思われていたメディアの音楽CDだった。いったいどういう錬金術を使ったのか? この躍進には世界のマーケットが学ぶべき教訓が隠されているのだろうか? ——など、業界で大きな話題になった。

2014年3月18日に発表された最新の2013年報告では、全く逆の結果になった。日本以外の市場は多かれ少なかれ安定した売り上げを確保したのに比べ、日本の音楽マーケットは前年比16.7%も縮小した。いったい何が起きたのか?

AKBとベスト盤頼みの業界

日本レコード協会の統計を見てみると、2013年の落ち込みは突然のことというよりも、これまで通りの長期低落傾向に戻ったにすぎないと考えた方がよさそうだ。日本の音楽業界は1998年に売上高がピークを迎えた後、一貫して右肩下がりの傾向をたどってきた。2012年の市場拡大こそ特異なケースで、それは2つの要因が重なったことで起きた。

第1の要因はAKB48に代表されるアイドルグループによる、ニッチ市場向けCD販売の増加だ。

アイドルグループの基本的なビジネスモデルは、これまでのメジャーな音楽業界のそれとは大きく異なる。その音楽はアイドルにちなんだ「キャラクターグッズ」という位置づけで、それを派手なマーケティングを通じて強引に売り込んでいく。AKB48はグループ・メンバーとファンが触れ合うチャンスをつくり、「総選挙」と称する選抜メンバーのファン投票を行い、(1人のファンが何枚も同じCDを買うことで)売り上げを何倍にも増やしている。AKB48やその姉妹グループはシングル・チャートを独占し、他のアーティストと比べ桁違いの売り上げをはじき出しているが、それらCDの多くは聴かれないままに終わる。つまり彼女らのCDはキャラクターグッズであり、本当の意味での「音楽の売り上げ」とは言えなくなっている。

2番目の要因はMr. Childrenや山下達郎、松任谷由美など、一つ前の世代の人気アーティストがカムバック盤やベスト盤を発表し、2012年末のアルバム・チャートの上位に食い込んだことだ。レコード会社は2013年もこの仕掛けで売上増を図ろうとしたが、残念ながらヒットを見込めるアーティストがいなかった。

音楽市場半減の原因はデジタル化の拡大

日本のレコード音楽市場は2009年に900億円を超える規模だったが、2013年にはその半分以下にまで縮小。主な理由は、購入した楽曲を端末間で転送することを禁じていたモバイル・ダウンロード・システムから、スマートフォンやパソコン、家庭用ステレオで再生できる、よりポータブルなデジタル・フォーマットへの転換が進んだためのようだ。

これまで日本の音楽業界は、より多くのファンを獲得して市場の拡大を目指すのではなく、既存ファン層の深掘りによる売り上げ増を狙ってきた。その結果、かわいい顔・お笑い・ノスタルジーといった分野のアピールは得意となったが、いつの間にか音楽そのもののマーケティングの仕方は忘れてしまったようだ。

スポティファイ進出で環境激変?

「VMAJ2013」で歌うももいろクローバーZ(提供=時事通信フォト)

では今後の見通しはどうか? Googleトレンドによると、AKB48の検索インタレストは減少に向かっているといい、アイドル・バブルはこれ以上期待できない。一方で、明るい兆しもある。ももいろクローバーZやBABYMETAL、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅなどのシンガーらは前山田健一、奈良崎伸毅、中田ヤスタカなど、メジャーでない作曲家やプロデューサーと組み、大きな成功を収めている。これは才能あるミュージシャンに自由とお金をもう一度与え、その豊かな発想力を開花させれば、息の長い成果が得られることを示している。

また、日本のレコード音楽業界は幸いにも、世界の音楽ビジネス最前線から一歩引いた立場にある。フロントランナーは未知の領域を必死に進もうとしてあらゆるミスを犯してしまうが、日本の業界はそれらを教訓にしてバランスのとれたビジネスモデルを再構築できるはずだ。2013年の不振がニュースになってから数日後、欧米で音楽のストリーミング配信を手がけるスポティファイは雑誌の取材に対して2014年夏に日本に進出することを示唆している。業界内では今後急速に日本の音楽市場が変わるとの見方が強まっている。

その変化が、今後の息の長い成功が期待できる才能豊かな同時代のアーティストに向かうのか、大手レーベルの既存の楽曲コンテンツ再活用による増収路線へと傾くのか、それともその両方が組み合わさったものになるのか。それはともかく、業界が将来の市場拡大を望むなら、特にマーケティング面で愛好者の多種多様なニーズにこたえていく必要がある。日本の音楽業界の販売モデルは急速に衰退しており、そこでの改革がないままでは、いくら楽曲やアーティストを世に出そうとしても期待通りの結果は生まれないだろう。

(原文英語、2014年3月26日執筆。バナー写真=2013年のAKB48選抜総選挙のライブパフォーマンス。時事提供)

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  • [2014.04.11]

ジャパンタイムズ紙の音楽コラムニストで、東京に拠点を置くインディーズ音楽レーベル、Call And Response Recordsのオーナー。2004年から東京を中心に日本各地で音楽イベントを開催している。連絡先はツイッターの@ianfmartin

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