初戦敗退の今こそ求められる日本の攻撃サッカー
ブラジルW杯現地レポート1

矢内 由美子【Profile】

[2014.06.16] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL |

2014年6月14日、午後10時。日本から見れば地球の裏側にあるブラジル・レシフェのペルナンブコ・アリーナに、大勢の日本人サポーターが詰め掛けていた。日本からの渡航者は約7,000人とされていたが、見た目はそれ以上だった。人数の多さに感動を覚えた。

ホーム戦のように響いた「君が代」

驚きすら感じたのは国歌斉唱のときだ。まるで日本のスタジアムにいるかのように、生声の「君が代」が耳に心地よく響いてきたのだ。海外での試合でこれほどまで「君が代」がはっきり聞こえてきたことはかつてなかった。さながら日本の「ホーム」だった。

それだけ多くの日本人がサッカー日本代表を応援し、期待を抱いているということだ。厳かながらも温かく響く「君が代」の歌声は、その象徴と言えた。

コートジボワール戦で本田圭佑が先制ゴールを決める。(写真提供=時事)

Jリーグがスタートしてから21年、ワールドカップ初出場から16年。日本にとって5大会連続5度目のワールドカップは、アフリカの雄・コートジボワールとの戦いでスタートした。指揮を執るのはイタリア人のアルベルト・ザッケローニ監督。就任から4年の月日が経過している。

日本の先発メンバーには、キャプテンの長谷部誠(ニュルンベルク)をはじめ、本田圭佑(ミラン)、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)、長友佑都(インテル)、岡崎慎司(マインツ)といった、ザックジャパンで長らく中核メンバーとして活躍してきた選手が名を連ねていた。長谷部は故障上がりだが、どうにか初戦に間に合わせた。

対するコートジボワールは、2011〜13年まで3年連続でアフリカ最優秀選手に選ばれているヤヤ・トゥーレ、成長著しいジェルビーニョらが先発。カリスマストライカーのドログバはベンチスタートとなった。

「日本のサッカー」を見せつけるという大きな野望

今大会、日本選手には大きな野望がある。日本サッカーの未来へつながる「日本サッカー固有のスタイル」を確立することだ。今季ブンデスリーガ(2013/2014シーズン)で15得点を挙げる活躍を見せた岡崎は、大会前こう話していた。

「2010年以降のこの4年間で、各国リーグで目立つ日本選手、結果を出す日本選手が出てきた。海外から見て、日本人選手の良いところは分かってもらえているのではないか」

その言葉通り、香川は2011/2012シーズンにドルトムントでブンデスリーガ優勝を果たし、現在はイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・Uでプレーしている。長友佑都はセリエAの名門インテルで中心選手として活躍し、本田圭佑はミランの背番号10。そして岡崎自身は今季ブンデスリーガの得点王ランキング7位タイ。岡崎が指摘するように、日本人選手という「個人」の部分ではすでに一定の評価を得ていると言えるだろう。

しかし、選手個々を離れて「日本代表」というチームで見た場合はどうか。

岡崎は「国として戦ったときはさほど認められていない」という認識を持っているという。香川も「“日本のサッカー”はまったく知られていない」と即答した。長谷部や内田、酒井宏樹(ハノーファー)も、所属クラブのチームメイトと話していると「日本は下に見られている」と感じている。

小柄で俊敏、規律を守る日本人だからこそ到達するスタイル

それはなぜか。サッカーの歴史の浅い日本には「日本のサッカー」と呼べるべき確固たるスタイルがまだないからだ。

故障明けにもかかわらず長谷部誠はキャプテンとして先発出場した。(写真提供=時事)

イングランドならフィジカル重視でボディコンタクトの多いファイタースタイル。ドイツならハードワークと最後まで諦めないゲルマン魂スタイル。近年は影を潜めているものの、フランスにはシャンパン・サッカーと呼ばれる華麗で奔放なパスサッカーのスタイルがある。スペインはショートパスでつなぐスタイル。イタリアはカテナチオと呼ばれる堅牢な守備をベースに持つスタイル。ブラジルは陽気で個人技にすぐれたサッカー。アルゼンチンは個人技と泥臭さをミックスしたスタイル…。

日本サッカーにも「日本のスタイル」がほしい。選手の思いを長谷部が代弁する。

「この4年間、僕らは日本人らしい戦い方で世界に勝とうと思いながら、“日本のサッカースタイル”を追求してきた。今回のワールドカップで、日本のサッカーの未来を自分たちがつくり上げていきたい」

小柄で俊敏。運動量豊富で全員がハードワークする。規律を守り、複数の選手の連動した動きで相手を崩していく。ザックジャパンで4年間取り組んできたサッカーで最高峰の舞台に挑み、勝利し、このスタイルを世界に認めさせること。これこそが、今回の日本選手たちのテーマなのである。

敗戦でも貫くべきは攻撃的姿勢—守りは後退を意味する

果たして、ザックジャパンはコートジボワールとの初戦で1-2の逆転負けを喫した。

前半16分、長友のクロスを受けた本田が見事なトラップから左足を振り抜き、豪快なシュートを決めて先制したものの、日本が輝いたのはその一瞬だけ。試合全般を通じて常に劣勢を強いられ、後半15分にドログバがピッチに立ってからは必要以上にドログバを警戒してしまい、他の選手へのマークが薄くなった。

勝ち越しゴールを決められ、倒れ込む日本代表の選手たち。(写真提供=時事)

その結果、わずか2分間で立て続けに2失点するという失態を演じた。ヤヤ・トゥーレもジェルビーニョも一枚上手。個々の1対1も、戦術面でも完敗だった。

逆転負けし、黒星発進となったことで、次のギリシャ戦に向けての戦い方も議論されるようになった。攻撃的な戦い方では通用しない、現実を見て守備的路線に再シフトすべきではないかという声もあった。ザッケローニ監督も揺れている様子だった。

ただ、今回のワールドカップが「日本サッカーの未来をつかむための試合」であるのなら、ここに来ての路線変更は得策ではない。大会前ならいざ知らず、タイミングが遅い。結果が悪ければ単なる迷走になってしまう。たとえ勝利を得られたとしても、それでは4年前と変わらなくなってしまうからだ。

若い世代の勇気と希望となる指針を見せるべき大会。もちろん修正は必要だが、ここまで来たら、攻撃的なスタイルを貫いていくことが重要だろう。

レシフェのスタジアムにあれほど多くのサポーターが足を運んだのは、日本サッカーに未来や希望を感じているからにほかならない。「守り」に入ることは後退を意味する。とことん「攻める」スタイルが未来をつくっていく。

(2014年6月16日 記)

タイトル写真はコートジボワールに敗れ、険しい表情のアルベルト・ザッケローニ監督。(写真提供=時事)

  • [2014.06.16]

スポーツライター。1966年6月23日、北海道生まれ。北海道大学卒業後にスポーツニッポン新聞社に入社し、テニス、五輪、サッカーなどを担当。2006年に退社、以後フリーランス。著作は『Jリーグ15年の物語 カズ&ゴンたちの時代』(講談社/2009)、『ザック・ジャパンの流儀』(学研新書/2011)など。

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