中国内の書画・骨董に投機熱、日本からの名品“里帰り”が加速

信太 謙三【Profile】

[2014.06.26] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 |

中国経済の成長スピードが一時期に比べてスローダウンしてきたとはいえ、同国に出現した並外れた金持ちたちの書画・骨董の収集が「(バブル崩壊にも強い)確実な資産」だとして異様なまでにヒートアップしている。このため、中国の名品が大量に眠っているとされる日本の書画・骨董市場に中国人バイヤーが殺到し、日本から中国への名品の“里帰り”が加速している。

小さな“チキンカップ”、37億円で上海の実業家夫婦が落札

「明成化 豆彩鶏文盃」(写真提供:Sotheby’s)

中国の美術品は、長期にわたる高度経済成長の中で、不動産などと共に投機の対象となり、今世紀に入ったころから価格が急騰。経済成長が鈍化してきた今も、価格は大きく落ちることはなく、名品については逆にアップし続けている。2014年4月8日には、世界最大のオークション会社であるサザビーズの香港オークションで、鶏(にわとり)一家を描いた中国・明代の小さな白い酒盃「明成化 豆彩鶏文盃」、通称「チキンカップ」に2億8124億香港ドル(約37億円)もの値段が付けられた。落札者は上海の実業家夫婦だった。

中国嘉徳国際拍賣有限公司日本事務所首席代表の馬忠仁さん

「かつては、確かに高ければ何でも手を出すといった状況でしたが、今は、本当にいい物を選んで買うようになっています。わが社は今年で創設21年目なのですが、当初の成約額は数千万円。それが昨年は1600億円にまできました。中国のマーケットにはまだ力があります」

こう語るのは中国最大級のオークション会社「中国嘉徳国際拍賣有限公司 (中国ガーディアンオークション)」日本事務所首席代表の馬忠仁さんで、日本に眠っていた中国の著名な現代画家、靳尚誼(きんしょうぎ)氏の油絵「タジク人の花嫁」が2013年秋のオークションで約14億円で落札されたりしているという。靳氏の名前は日本ではそれほど知られてはおらず、オークションに出品した日本人所有者は落札価格のあまりの高さに体が震えたそうだ。

中国は世界第2位の美術品市場、その規模は1兆6千億円

実は、書画・骨董など美術品の取引はほとんどが非公開で、世界全体や各国の取引額を把握するのは容易なことではない。しかし、世界中から超一流の美術品が集まるオランダのオークション「TEFAF(欧州ファインアートフェア)マーストリヒト」の主催団がまとめた報告書によると、香港を含む中国市場の取引額は2013年、推計115億ユーロ(約1兆6000億円)で、全世界の美術品市場の24%を占め、米国(38%)に次いで世界第2位となっている。

中国の「2ケタ成長時代」は確かに過去のものになった。しかし、2013年の国内総生産(GDP)伸び率は実質ベースで7.7%、今年も7%台を維持している。経済成長は鈍化しているが、貧富の格差が広がり、富裕層は一段と金持ちになり、資産防衛や趣味のため、書画・骨董を買い続けており、中国の美術品市場は今もホットな状況が続いているというわけだ。

このため、「中国に持っていけば高く売れる」とばかりに世界各国・地域から今も大量の美術品が中国に流入。「嘉徳」だけでなく、「北京保利国際拍賣有限公司(ポーリーインターナショナルオークション)」「北京匡時国際オークション(COUNCIL)」といった中国の大手オークション会社はいずれも東京に事務所を構え、中国の名品発掘に血眼となっている。中国の名品を探し出し、中国に持って行って高く売れば、莫大な手数料が入るからだ。とはいえ、ビジネスはそう簡単には進まない。

北京匡時国際オークション主催の2014年春季オークションの様子

名品をなかなか手放さない日本人

「日本の方は、投資目的で持っているのではなく、自らの観賞用として持っており、なかなか表に出てきません。でも、いい物がたくさんあると思います」

北京匡時国際オークション日本事務所代表の左明貴子さん

北京匡時国際オークション日本事務所代表の左明貴子さんはこう指摘し、「ある日本人が(数百万円から数千万円の値段がつくこともある)田黄石の印材を箱一杯持参しましたが、その方はそれを見せてくれただけで、『絶対に売らない』といって帰っていってしまったこともありました。ハイレベルな品物の多さに本当に驚きました」と振り返る。

「北京匡時」は日本での名品発掘のため、北京から鑑定士を招き、東京や京都で定期的に無料鑑定会を開催しているが、「突然、持ち込んで来る品物の中には偽物も少なくない」そうだ。それでも、「いい物が見つかれば、大体の価格を示し、納得してもらったうえでオークションにかけている」という。

こうした鑑定会には毎回平均数十人が集まり、左さんによると、「若い世代の人たちが(中国の)骨董の価値が分からないため、元の場所に戻してあげたいといって持ってくる日本人のお年寄りもいる」という。

名古屋のオークションに中国人150人が参加

しかし、中国の美術品が日本から大陸に流出するのは、基本的に「日本で売るよりずっと高く売れる」というのが理由。東京のある骨董店経営者は「結局は(美術品は)おカネのあるところに集まっていくんですよ。日本のバブル期もそうだったのではないですか」と指摘。「中国人の客がどんどん増えており、(彼らが買っていく)中国の骨董なら大歓迎。値段も上がっています」と教えてくれた。

事実、中国から直接日本に中国の書画・骨董を求めてやって来るバイヤーは後を絶たない。岐阜市に本社を置く「富士国際オークション」関係者によると、同社は年2回名古屋の一流ホテルでオークションを開催しているが、「昨年11月のオークションには団体も含め、約150人の中国人バイヤーが参加し、その数は年々増えてきている」という。

こうしたことなどからみて、日本から中国への書画・骨董の名品の“里帰り”が加速しているのは否定しようがない。馬さんによると、「嘉徳」の場合、オークションでは「世界中から中国の美術品5000~6000点が集まり、ざっくり言って、このうちの10分の1が日本から出て来ている」というのだから驚きだ。しかも、中国市場が求める美術品は、中国の書画・骨董から世界市場で通用する有名な西欧の油絵や彫刻にまで広がりつつあるという。バブルの末期症状だとしても、中国マネーは凄まじい。

 

 

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  • [2014.06.26]

ジャーナリスト(中国問題専門家)、元東洋大学社会学部教授、公益財団法人新聞通信調査会評議員、ニッポンドットコム理事。1948年静岡県生まれ。73年早稲田大学第一文学部卒業、時事通信社入社。香港特派員、北京特派員、北京支局長、解説委員、上海支局長などを歴任。優れた中国報道によって96年度ボーン・上田国際記者賞を受賞。著書に『巨竜のかたち 甦る大中華の遺伝子』(時事通信社)、『中国ビジネス 光と闇』(平凡社)などがある。

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