AKB48、ももクロ、橋本環奈―ライブアイドル・ブームが映し出す消費の「世代格差」

宇野 常寛【Profile】

[2014.07.23] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية | Русский |

「ローカルアイドル」ブームの象徴・橋本環奈

今回ニッポンドットコム編集部から依頼されたのは、“1000年に一度のアイドル”橋本環奈と「アイドルが好きな40代」を結びつけて解説することだったが、正直ピンとこなかった。なぜ橋本環奈なのか。なぜ40代なのか。

私はアイドルファンのひとりだが、橋本環奈がアイドルシーンを象徴する存在だとは思わない。仮に象徴しているとすれば、いわゆる「ローカルアイドル・ブーム」の象徴ということになるのだろう。2000年代後半から、インターネット上のファンコミュニティー形成が容易になったことを背景に、いわゆるマスメディアへの露出ではなく現場でのライブ活動(コンサート、握手会など)を活動の中心に置く「ライブアイドル」が台頭し、2000年代末のAKB48の社会現象化にけん引されるかたちでライブアイドル・ブームを形成している。

そんな中で、東京以外の地方都市に活動の拠点をおく地域密着型のライブアイドル=ローカルアイドルが大きな盛り上がりを見せている。その象徴として、昨年ネット上にアップされたたった一枚の写真をきっかけにインターネット上で大ブレイクし、有名女性誌の表紙まで飾った橋本はローカルアイドル・ブームの象徴とはいえるだろう(橋本環奈は福岡で結成されたRev. from DVLのメンバー)。

ネットを介してメンバーの「人生劇場」を鑑賞

しかし、ライブアイドル・ブーム全体の象徴に彼女を持ってくるのはさすがに無理があるように思える。その最大の理由は、現代のライブアイドル・ブームとはすなわち同時にグループアイドル・ブームだからだ。AKB48にせよ、ももいろクローバーZにせよ、現代のライブアイドル・ブームの主役は数名〜数百名で構成されるグループアイドルであり、ファンはそこに所属するメンバー一人一人を応援するのと同時に、グループ内の人間関係を主としたドラマを消費する。現代におけるアイドルブームとは、かつてはテレビや雑誌でしか見ることのできなかったメンバーの人生劇場を、ライブやインターネットを介してより直接的に鑑賞できることの面白さに支えられている。

こうして考えたとき、その所属グループがまったく話題にならない橋本にシーンを代表させるのは非常に無理があるといえる。例えば、橋本のTwitterのフォロアー数は約7万人。これはAKB48の選抜総選挙に当選しない(つまり80位以下の)メンバーにもフォロアー数10万人以上がごろごろいることを考えると、彼女を一躍有名にしたあの「奇跡の一枚」(上述のように、2013年のイベントで、制服姿で踊っている写真がネットで拡散)の効果は実質的な人気に思ったほど結びついていないように思われる。

「在宅」追っかけ派と「ディープな」行動追っかけ派の世代格差

さて、もうひとつのお題である「40代」だ。編集部からの要望は、できればファン層の世代間格差(アイドル好きで追っかけをするのは、経済的に余裕のある40代、ワーキングプアの20代は追っかけもままならなくなっているのでは?)について触れ、「日本社会の一面を映し出す面白い考察」をすることだ。20代と40代という数字はイメージ的なもので、根拠らしいものは思いつかないが、アイドルファンとしてはそれなりに実感の持てる問題設定だ。結論から述べれば、可処分所得の低いファン(相対的に若者が多い)たちは可処分所得が低いなりの「追っかけ」をしているというのが私の見解だ。

メンバーの出演する動画配信を見て、ソーシャルメディア上の発信を楽しみ、ライブや握手会を最小限に抑えれば、月平均数千円の出費でも十分にファン活動は可能だ。こうしたスタイルをいわゆる「在宅」という。これに対して、熱心な追っかけを行う、例えば地方のコンサートに遠征したり、握手会を1日何週もするといったディープな追っかけをするファンには比較的中高年層が多いように思う。

この辺はライブや握手会に通っていない人間にニュアンスを説明するのは難しいのだが、例えばAKB48の握手会に来ているファンは、大体握手券を1~3枚程度予約しているファン(ちなみに握手会に来ている時点でファンとしては「中級」である)と、10枚以上予約して、時間を無駄にしないように計画的に複数のメンバーのレーンを回っている層とに二分されている(ちなみに私は両者の中間だ)。そして後者には圧倒的に私のような30歳以上の可処分所得の高い中高年のファンが多いように思う。特にその中でも目立つのが80年代のアイドルブームの頃からそのブームに親しんで来た40代「以上」の強者たちで、私たちは彼らから日々多くの知見を得ている。

団塊ジュニア世代を巻き込むマーケティングが鍵

この光景が日本社会の一面を照らし出しているかどうかはまだ分からない。しかしサブカルチャーの専門家として分析するなら、同様のケースは他ジャンルでも同時発生している。つまり、少子化とメディアの多様化・情報の供給過剰の結果、ある程度以上の規模の市場を形成するためには最後の人口ボリュームゾーンである団塊ジュニア世代(40代前半)をいかに巻き込むかが鍵になっているとはいえるだろう。

これはアイドル文化に限らずアニメ、ゲームなど、これまではティーンを中心とした安価な娯楽だと思われていたジャンルに多く当てはまる傾向だ。たとえばアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズは、もう10年以上前から、初代『ガンダム』ブームの洗礼を受けた団塊ジュニア世代をターゲットにしたグッズ販売や新作アニメ制作がシリーズ展開の主力となっている。

少しジャンルは異なるが、レストランレビューサイト「食べログ」のユーザーにもこの2重構造は見られる。同サイトの利用者は「インターネットによる情報収集に明るい20代」が比較的多いが、実際にレストランを食べ歩き、レビューを投稿しているユーザーは「団塊ジュニア以上の舌の肥えた中高年男性」である、とかつて私の編集する雑誌の取材に応じた同サイトのディープユーザー達は口をそろえて答えていた。

中高年が買い支え、若者がタダで消費する文化

つまりここから見えてくるのは、インターネット以降の文化はコンテンツにつく値段をゼロにどんどん近づけていくが、しかしその一方で、ネットメディアの機動力や、細部に行きわたるマーケティング手法を用いたビジネス化をもくろむ際には、むしろいわゆる「ネット世代」よりは年長の、コンテンツにお金を使うことを惜しまない、昭和末期の日本の文化が身体に染み付いている40代以上の動員が鍵を握るということではないかと思う。要するに、中高年が買い支えている文化を、若者がタダで消費することで成立しているジャンルがいくつもある、ということなのだ。

これを政治的に望ましい市場の実現した所得移転と見るか、サブカルチャーの嘆かわしい老化として捉えるかは実に難しい。個人的には前者の立場をひとまず支持した上で、ジャンルの成長と多様化にうまく作用するシナリオを模索していきたいと考えている。

(2014年7月1日 記)

タイトル写真=ダンスボーカルアイドルユニットRev.from DVLのメンバー・橋本環奈(提供:時事)

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  • [2014.07.23]

評論家/批評誌〈PLANETS〉編集長。1978年生。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎, 2011年)、『日本文化の論点』(筑摩書房、2013年)、共著に濱野智史との対談『希望論』(NHK出版、2012年)、『こんな日本をつくりたい』(太田出版, 2012年)など。京都精華大学ポップカルチャー学部非常勤講師。

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