中国の食肉加工会社摘発は党中央のメッセージ
APEC控え外交的配慮も

信太 謙三【Profile】

[2014.07.25] 他の言語で読む : ENGLISH |

上海の食肉加工会社が、原材料に使用期限切れで腐ってカビの生えた肉などを使用し、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、ピザハットなど大手ファストフード企業に製品を出荷していたことから、中国国内はもとより、日本など海外でも大騒ぎとなっている。しかし、この種の食の安全に関する事件は中国では日常茶飯事。危機感を抱く中国国民の不満も強く「爆発寸前」といわれ、上海の食品加工会社の不正暴露と摘発は中国共産党中央・政府の指示の下で実施された可能性が高い。

ファストフードは中国全土で50万店

今回摘発されたのは上海福喜食品有限公司で、米国系の独資企業(外資100%出資企業)。資本金は5047万元(約8億円)。シカゴに本部を置く親会社の「OSIグループ」は約100年の歴史を持ち、17カ国に工場を置いて運営しており、1991に中国に進出。現在は上海、廊坊(河北省)、大連、威海(山東省)、広州、昆明(雲南省)などに工場や事務所を構えている。マクドナルドには92年から商品の提供を始め、日本マクドナルドに対してはチキンナゲットを提供していた。このため、マクドナルドはもとより、ケンタッキーフライドチキン、ピザハットなども事件が明るみに出ると、直ちに同公司の加工肉を使った商品の販売を中止した。

ファストフード店は中国の改革開放による経済発展と生活水準のアップで人気を呼び、急速に増え続けている。一説には、店舗数は中国全土に50万店近くあるとされ、年間売上高は約800億元(約1兆2800億円)。従業員は約300万人ともいわれる。

西洋風の洒落(しゃれ)たファストフード店で食事をすることは豊かになってきた中国の庶民にとっての楽しみのひとつで、子供連れでハンバーグなどを食べにくる客も少なくない。しかし、そこで起きた食の安全にかかわる大事件。「ここが危ないとなれば、何を食べていいかわからない」と市民は嘆く。

カビが生えても加工して出荷

事件を暴露したのは上海を拠点とする衛星放送のテレビ局「東方衛視」の記者。上海福喜食品有限公司の工場に約2ヵ月間潜伏・取材。7月20日の夕方のニュースで同公司の不正行為を映像と共に流し、大きな衝撃を与えた。

それによると、工場では原材料が使用期限をすぎた場合、品質が劣化した肉をもう一度鍋に戻し、チキンナゲットやハンバーガー用の肉に加工していた。潜伏した記者が疑問を投げかけると、工場関係者は「期限が過ぎて食べても人は死なないよ」と答えたという。しかも、使用期限が7ヵ月以上も過ぎ、カビが生えてゴミとして処理しなければならない牛肉まで加工し、「保質期間」を1年間延長して出荷していたというから驚きだ。

今回の事件は映像もあって衝撃的。危険な加工肉がマクドナルドなどといった世界的に有名なファストフード店に流れ、日本など海外でも“被害”が出たため、世界中から注目を集める結果となった。が、中国では「保質期間」の改ざんや腐った肉を加工して売ったりするといった出来事は日常茶飯事で、なかなかなくならない。

食品安全関連事件は昨年、3万2000件

中国メディアの報道によると、公安省は2013年、「食品犯罪に打撃を与え、食卓の安全を守る」運動を展開。赤み肉の割合を増やす薬剤の使用や病死した家畜肉の販売に対する取り締まり、有害な成分が含まれた粉ミルクの生産拠点の摘発などを続けてきた。この結果、1年間で3万2000件に上る食の安全に関する事件を解決し、多数の容疑者を逮捕したという。

こんな状況に中国国民は、指導者・幹部の腐敗問題と共に、食の安全問題での行政の怠慢に不満を強めている。このため、党中央・政府としても対応せざるを得ない状況に追い込まれ、地方政府に対して厳重な取り締まりを指示、内部通報制度の整備やチェック体制の強化などを進めていた。この中で、北京の国家食品薬品監督管理総局は7月10日、各省・自治区・直轄市の関係部門に対し、「食品と薬品に関する重大な安全違法事件処理規則」を制定して文書を配布し、これに基づいて任務を遂行するよう求めた。即ち、党中央・政府が中国の深刻な食の安全のために本格的に動き出したということだ。

党中央宣伝部の同意の下で取材

「東方衛視」記者の潜伏取材とテレビでの放映はこの流れの中ででてきたといえる。中国メディアは、日本や欧米などと違い、なかなか自由に取材することができず、仮に取材できたとしても、党中央宣伝部の承認なしには、紙面やテレビでの報道ができない。

しかも、上海福喜食品有限公司は米国系の独資企業だったが、中国に大量の外貨をもたらしていた企業で、経営陣には中国人も多く、上海市政府関係者とのパイプも太かった。また、事件が暴露されれば、同公司の存続は難しくなり、多くの失業者が出てくる。

党中央宣伝部はこれらのマイナス面を十分に考慮して決断したはずだ。このほか、同公司が米国系の独資企業であり、中国にダメージが出たとしても、「最小限に抑えられる」との読みがあったとみられなくもない。

11月のAPEC開催への配慮も

中国の食の安全についてのイメージは最悪で、最近も米国やカナダでドッグフードを食べた犬が次々に死亡。原料として使われていた中国産の小麦グルテンに毒性の強い化学物質メラニンが含まれていた。小麦グルテンの品質の良し悪しは窒素の含有量で決まるとされ、そこで窒素の含有量の高いメラミンが投入された可能性があるという。こうした中国絡みの食の安全に関する事件が海外で相次いで起きており、党中央・政府は対外的にも食の安全面でイメージアップを図らなければならなかった。

今年11月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の 首脳会議が北京で開催される。主催国として、ここで評判の悪い中国の食の問題が持ち出されてはたまらない。中国は、上海福喜食品有限公司の事件が起きたのを機に、こうした食の安全問題をいっきに解決しよとしているようだ。

が、この問題の根本的な原因は中国に蔓延する拝金主義や腐敗によるモラルの低下にある。解決への道は遠い。

タイトル写真=期限切れ食肉事件の影響でメニューに制限があることを詫びる張り紙・上海のマクドナルド店舗(提供=時事)

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  • [2014.07.25]

ジャーナリスト(中国問題専門家)、元東洋大学社会学部教授、公益財団法人新聞通信調査会評議員、ニッポンドットコム理事。1948年静岡県生まれ。73年早稲田大学第一文学部卒業、時事通信社入社。香港特派員、北京特派員、北京支局長、解説委員、上海支局長などを歴任。優れた中国報道によって96年度ボーン・上田国際記者賞を受賞。著書に『巨竜のかたち 甦る大中華の遺伝子』(時事通信社)、『中国ビジネス 光と闇』(平凡社)などがある。

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