アジアで負けない日本企業の条件

江上 剛【Profile】

[2014.09.04] 他の言語で読む : Русский |

アジア企業としての生き残りを迫られている日本企業

2013年6月から数回、アジア各国を回り、進出した日本企業を取材し、このたび一冊の本にまとめた(『負けない日本企業』講談社、2014年6月刊)。

実は、2006年から07年にかけても同じように執筆の取材で、アジア各国を回ったことがある。それからわずか7年ほどの間であるが、08年にリーマンショックが起きて、日本が経済的に落ち込み、一方で、今まで以上に中国の影響力がアジアの中で大きくなっていることを目の当たりにするなど、風景は一変していた。

06~07年ごろの日本企業のアジア戦略は、まだ片手間なところが見受けられた。日本国内でもまだ十分な収益が上がっていたので、「とりあえずアジアに出てみよう」という感じだった。しかし最近は、どのようなメディアを見てもアジアしか話題が出ていないという状況になっている。それで本当にそれでいいのだろうか。日本企業は、ブームがあると、いつも同じ方向を向きたがる。「アジアに行かないと日本企業は死んでしまうかもしれない。もう中国じゃない、東南アジアだ」と言い出しているが、本当にそうなのか。それを自分の目で見ておきたいというのが今回の問題意識だった。

そしてそこで見たのは、日本企業が日本企業として生き残るためにアジアに行くのか、アジアの中でアジアの企業として生き残るのか、その選択を迫られている姿だった。

日本だけを見ているわけではない

最初の取材先として選んだ国はマレーシアだった。ここにはマハティール元首相がいる。今回、彼に会って、現在のアジアの動きについて全体的な見通し聞きたいと思ったのである。そして、アジアの側から見て日本のあり様について何かヒントがあればと考えたのである。

マハティールには、クアラルンプールのペレナスタワーの最上階にある彼の事務所で、彼が作った街をバックにインタビューした。

マハティール・マレーシア元首相と著者(左)

かつて、マハティールは“look east”をスローガンとしていた。われわれ日本人はこれを「日本を見習いなさい」という意味に捉えていた。eastとは欧米に対する日本で、日本型の発展モデルを積極的に取り入れようとしていると考えていた。しかし、意外だったことに、今回、彼の口から出たのは「以前からeastの中には中国を入れていた」という言葉だった。

だから、いま彼は安倍政権が中国と角を突き合わせることには非常に批判的である。マレーシアはTPPでアメリカにシフトするよりは、アジアの中で生きていくために中国と喧嘩をしてはいけないと考えているという。自身が関係している経済団体などには、中国シフトをするように指導しているという。マレーシアの現政権はTTPに参加しようとしているが、マハティールは当然、これにも反対している。

注目すべきことはこれだけではない。マハティールは政権の座にあった時代から、東アジアとは反対側の中東地域も重視してきた。マレーシア自身も属しているイスラム圏への注目である。イスラム圏は宗教的な基準が生活の隅々にいきわたっているが、その基準であるハラルの認証担当省庁を作り、ハラルマーケットへの参入を目指しているのである。

イスラム圏への配慮を怠らない

イスラム圏の国ならハラルは当たり前なので、ビジネスにしようなどという発想はふつうありえない。しかし、マレーシアは多民族、多文化国家であることから、このような「自由な」発想があり得る。さらに、この国はマレー系は政治を担っているが、経済は中国系とインド系が抑えている。マレー系がビジネスの世界で生き残るのはハラルビジネスしかない、と考えたのである。

マレーシアは、中東のように欧米から距離を置かれた世界からアジアへのゲートウエイとして自らを位置付けていると思える。中国を見つつ、日本を見つつ、中東も見る。それが多民族国家のプラス面なんだろう。自分の立ち位置、地政学的な位置をよく認識して、生き抜いていこうとしているのである。この点、日本とは対照的だと思う。

リスクの高い過酷な国で弱い日本企業

もう一つ、アジアと日本との関係を考えるうえで注目の国であるミャンマーにも行ってきた。ミャンマーはいま、アジアの最後のフロンティアとして注目されているが、まだまだ、軍事政権と民主派やアメリカの軋轢をはじめ不安定要素を多く抱えている。しかし、日本は第二次世界大戦以来の深い関係を持っている。地政学的にも重要性がある。いろんな思惑があって今、安倍首相を先頭にミャンマーに進出しようとしている。しかし、ミャンマーは歴史的に見てもしたたかで政治的に非常に老練な国だ。

こういう国はリスクが高い。日本企業はこういう国に進出するとたいてい「NATO」、つまり“no action,talk only”になってしまう。首相がどれほど積極的になっても、日本企業自身がリスクをとるという選択をしないと、結局、進出はできないのである。

進出企業の現地スタッフには、「何で本社はリスクをとってくれないのか」という不満があふれている。現地にいる人々にとっては腹立たしいことだろうが、取れる案件をいくつも逃している。日本の新聞を読むと、ミャンマーで成功しているというような記事ばかり出ているが、決してそうではないのである。

インドでも同じ話をよく聞いたが、過酷な国になればなるほど日本企業はダメ、みんなサラリーマンで根性がない、会社も失敗したらどうするのか、ということばかり気にして、結局、判断が遅い。「インフラが整わないと」という言い訳がよく出るが、インフラが整ったら誰でも進出できる。条件が整ったら欧米企業がやってきて、あっという間にシェアをとっていく。日本企業は、いつも、このパターンでやられているのである。

  • [2014.09.04]

作家・経済評論家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、第一勧業銀行入行。97年、広報部次長の時に起きた総会屋利益供与事件では行内改革派のリーダーの一人として混乱を収拾。築地支店長時代に作家としてデビューし、退行。おもな著作に、『非常銀行』『座礁 巨大銀行が震えた日』『戦いに終わりなし――最新アジアビジネス熱風録』など多数。

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