なぜ若者は「ニコニコ超会議」に集まるのか

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「コメント」で動画が「見えない」動画サイト

今、日本の若者に最も人気のある動画メディア、それが「ニコニコ動画」だ。一般会員登録者数は3215万人、そのうち月額540円の料金を支払っているプレミアム会員は211万人以上にのぼる。ユーザーが自分の作品を登録し、それをユーザーコミュニティーが見て楽しむという点ではYouTubeやVeohといったサービスと同じなのだが、一体この「ニコニコ動画」はなぜこんなにも成長を遂げたのだろうか。

その秘密は「コメント字幕」にある。

「弾幕状態」になった画面

ニコニコ動画では、ほぼすべての動画に「コメント」をつけることができる。その「コメント」はYouTubeのように再生画面の下に伸びているものではなく、再生している動画の上に、右から左に流れるように表示される。例えばニュースや外国語映画の字幕のようなものだ。

コメントは、自分が再生している箇所に埋め込まれる。全部で3分の動画のうち、2分1秒のときにコメントを書けば、別の人が同じ箇所を再生したタイミングで、自分のコメントが流れることになる。これによって、同じ動画をあたかも別の人と一緒に再生しているような感覚が生じる。

例えば、ミュージックビデオでサビのフレーズが来た時に歌詞を書き込むと、他に書いた人の書き込みと同時に自分の書き込みも画面上を流れていく。同時に何人もの人がコメントを書き込むと、そのコメントは再生画面を埋め尽くし、映像そのものが見えなくなる「弾幕状態」になってしまうことさえある。

ニコニコ動画が若者から支持される理由

ユーザーが積極的にコメントすることで、動画をアップロードしたユーザーは楽しくなり、さらにまた別の動画をアップする、というサイクルが出来上がった。

当初は、すでにある動画をそのままアップロードしたり、多少つないだりして改変したもの(「MADムービー」と呼ばれる)が多かったが、すぐにオリジナルの動画が制作されるようになった。自分が歌う姿をアップする「歌ってみた」や「踊ってみた」といったものが数多くアップされた。

2007年にバーチャル・シンガー「初音ミク」が発売されると、その動きはさらに加速した。音階と歌詞を入力すると、ボーカルパートとバックコーラスを作成できる歌声合成ソフトだが、イラスト画像により年齢16歳、身長158cmというキャラクターにリアリティーが生まれた。初音ミクに歌わせたいと、ユーザーは競うように曲を作り、いくつものヒットソングが生まれた。

同時に初音ミクのキャラクター人気によって、絵が書ける人間はアニメーションを投稿し、3D キャラクターを動かすソフトウェアまで作られた。

「ニコニコ生放送」がスタートすると、より密なコミュニケーションを求めるユーザーに大きく支持されるようになった。これは、ウェブカメラさえあればだれでも実況中継を始めることができるサービスだ。日本版Ustream(パソコン、スマートフォンとインターネットを利用した米国発のリアルタイム動画共有サイト)といえる。

これらのコミュニティーの進化によって、1人の参加者がクリエイターでもあり、聴衆でもあるという「全員参加」の文化が出来上がった。「全員参加」によって、誰かが作った作品に乗っかって新しい作品が作られ、その作品がまたさらに新たな作品を生み出すといった「本歌取り」が何重にも繰り返されることになった。

もちろん、それぞれの作品には作者一人一人が背後に持つ物語が投影されたものになる。こうした「本歌取り」が複雑に繰り返されていき、「分かる人には分かる」ものになった結果、それだけの「ハイコンテクスト」―コンテクスト(背景)の共有性が高く、詳しい説明がなくても「察して」理解できるような環境を指す―を読み込むだけの時間がある若者だけが、コンテンツを理解できるようになっていったのは自然の流れだった。

自分たちだけが理解できると確信するようになったユーザーが、ここでしか得ることができない作品に熱狂するようになったのもまた、当然の流れである。

会うだけで盛り上がる「ニコニコ超会議」

2014年ニコニコ超会議のキービジュアル

密接なコミュニケーションの最終的な形は「直接会う」ということだ。2014年4月26日、27日と、千葉県・幕張メッセにおいて、「ニコニコ超会議3」が開催された。

来場者数12万5千人、ネット上での来場者数が760万人となった本イベントは、過去最高規模となった。今回のテーマは「全員主役。」だ。多くのイベントで掲げられるテーマではあるが、ニコニコ超会議の場合、これが本当に実現している。

参加者一人一人は、すでにネット上でハイコンテクストな「つながり」を持っているプチ有名人ばかりだ。彼らは彼らだけの言語で、会うだけで盛り上がることができる。会場では自衛隊や大相撲、将棋といった、普段、若者から敬遠されているものも多数展示されているのだが、それらのコンテンツですら、同じ「つながり」を持つ参加者たちにとっては新しい話題の燃料投下となり、それをもとに、さらに盛り上がることができる。

2014年4月「ニコニコ超会議3」の実施風景。2014年12月には「ニコニコ超会議」の海外出張版「ニコニコ国会議」がシンガポールで開催される (写真提供:ドワンゴ)

一日の終りには「ニコニコ超パーティーIII」というライブイベントが開催される。リアルとネットで100万人が視聴するこのイベントに登場するのは、いわゆるプロの「歌手」「ダンサー」ではなく、すぺてネット上の有名人である。当然、視聴者も出演者全員を知っているわけではないのだが、パフォーマンスの「背景」を察することができるので、初見でもライブを楽しむことができる。

日本文化には、歴史的にこういった「ハイコンテクスト」なものは多い。その中でも、これだけの厚みをもつコンテンツで、ネットとリアルの両方で実現できている「ニコニコ動画」のコミュニティーの持つ力はずば抜けている。世界でも他にこういった例はなかなか見つけられないのではないだろうか。

KADOKAWA・ニコニコ動画の「メディアミックス戦略」は?

ニコニコ動画を運営する株式会社ドワンゴは、2014年10月1日KADOKAWAと経営統合した。

KADOKAWAといえば、終戦直後の1945年に設立された、70年近い歴史を持つ日本有数の出版社である。アニメ・マンガで多くの実績を持っており、書籍・テレビ・映画を交えたメディアミックス戦略が非常に得意な会社である。また、若者に人気のあるライトノベルに関しては、ほぼすべてのレーベルを傘下に収めている。

かつて、読書といえば、一人で楽しむものであった。しかし、2000年初頭、「ケータイ小説」の大ブームがあり、読書は、同じ作品の感想をリアルタイムに共有しあい、コミュニケーションの中で意味合いを深めていく体験を楽しむものとなった。

いまでも著名イラストサイトのpixivなどでは「pixiv小説」としてユーザー自作の作品が発表され、それがネットコミュニティーの中で愛されている。

KADOKAWAの強みである「メディアミックス」も、元は小説として単独で楽しむものから、映画となり、テレビで放送され、という過程を踏んで、友人同士で体験の共有を楽しむものに変えることであった。

現在なら、ライトノベルはアニメ化され、ネット配信されることで、コミュニティーを作り出している。多くの有力なコンテンツを持つ出版社であるKADOKAWAと、ネット上で体験を共有する手段に長けたニコニコが経営統合することで、若者にとって居心地のいいコミュニティーの生成がさらに加速していくことが期待される。

(2014年10月1日 記)

タイトル写真=2014年4月「ニコニコ超パーティーIII」のライブイベント(提供:ドワンゴ)

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