北京のメイドカフェ——中国に浸透する日本のサブカルチャー

信太 謙三【Profile】

[2014.10.29] 他の言語で読む : 简体字 | 繁體字 |

中国・北京で見たメイドカフェ

日中関係が厳しい局面にあることは否めないが、日中の民間レベルでの交流は確実に進んでいる。日本の対中投資をみると政治関係の悪化や元高、労賃アップなどでスローダウンしているが、対中進出企業の数は今や2万社に上るとされ、日中貿易は既に3000億ドルを突破。民間レベルでは、あらゆる領域で日中交流が進展し、アニメ、漫画、ゲームなど日本育ちのサブカルチャーが中国社会に浸透、首都北京にはメイドカフェも登場し、人気を集めている。

あいさつは日本語「おかえりなさいませ、ご主人さま」

瓦葺の「屋根裏」の玄関

北京市中心部から車で15分ほど走った同市朝陽区新西里中街に日本スタイルのメイドカフェ「屋根裏(ウーゲンリ)」があり、アニメや漫画好きの中国の若者が多数押しかけ、中国人オタクの隠れた人気スポットとなっている。

新西里は市中心部からいささか離れ、古い建物が多く、理由はわからないが、あちこちに日本料理店があり、串焼き屋には日本風の赤ちょうちんがぶら下がっていた。「屋根裏」は通りの最も奥の建物2階。瓦葺の玄関を入って階段を上り、左側の細い廊下を入っていくと、そこが店。総経理の湯凱さんが奥に向かって声を掛けると、若い女性2人がフリルのついたスカートにエプロンというメイド服で現れ、「おかえりなさいませ、ご主人さま」と日本語であいさつ、テーブル席に案内してくれた。

総経理の湯凱さん

システムは東京・秋葉原のメイドカフェと基本的には同じ。「屋根裏」にも舞台があってメイドのパフォーマンスや撮影会が定期的に行われていた。お客さんの大半は中国人で、「多いときには1日100人ぐらいが来る」(湯総経理)そうだ。メイドの多くは現役女子大生とのことで、「常時、30人から40人ほどが登録」しており、都合のいいときに働きにくるシステムになっているという。

彼女たちの日本語はあいさつができる程度だったが、「日本人のお客さんでも大丈夫。身振り手振りで話ができます」と、意に介さない。とにかく、明るく、写真を撮りたいというと、「OK。でも、1枚5元(約90円)です」と答え、2人はお互いの手でハートのかたちを作り、撮影に応じてくれた。

テクニカルディレクターはオタクの日本人留学生

「屋根裏」がオープンしたのは2009年末。当時、湯さんは日本滞在10年の経験をいかし、北京で日本料理店などを経営しており、「メイドカフェは新たなビジネスチャンス」と判断。オタク文化に詳しかった日本人留学生、峰岸宏行さんをテクニカルディレクターに迎え、店をオープンしたという。

中国でも日本のアニメや漫画ファンがどんどん増えていたからだ。日本の漫画は70年代末ごろからアニメと共に中国社会に参入。「鉄臂阿童木(鉄腕アトム)」や「聪明的一休(一休さん)」が人気を博し、その後、「哆啦A夢(ドラえもん)」「竜猫(となりのトトロ)」「竜珠(ドラゴンボール)」「蝋筆小新(クレヨンしんちゃん)」「名偵探柯南(名探偵コナン)」「鋼之錬金術師(鋼の錬金術師)」などが次々に中国に入っていった。もちろん、正式のルートばかりではなく、DVDの海賊版によるところも多く、中国の版権侵害に泣いている日本企業や作家も少なくない。

とはいえ、質が高く、娯楽性に富み、しかも、小さな子供向け中心の欧米のアニメや漫画と比べ、日本のそれは大人でも楽しめるものが少なくなく、その分、中国社会に深く浸透。高校生のバスケットボールを題材にした「灌籃高手(スラムダンク)」は大人気となり、「中国のバスケットボールを変えた」とまでいわれているらしい。クールジャパンのすごさを思わざるを得ない。

中国で広まる静かなるコスプレ・ブーム

廊下に貼られていた漫画やメイドさんの写真

北京の「屋根裏」の廊下の壁にも色鮮やかな日本のアニメ絵画が多数、飾られおり、アニメや漫画の主人公のフィギュアも売られていた。中国のオタクたちも、日本と同じように、メイドカフェで、アニメや漫画を肴に、楽しいときを過ごしているというわけだ。店内にはお酒の飲めるバーや鉄板焼きコーナーまで設けられており、地元北京の生ビールが1杯10元(約180円)。日本酒は2合で40元(約700円)。刺身や寿司も注文でき、料金の方は日本とほぼ同じぐらいだった。

ところで、中国のネット人口は今や6億人を突破し、当局の規制があるとはいえ、海外の情報もあっという間に中国に入ってくる。それが何としても手に入れようとするオタク商品であればなおさらだ。

アニメや漫画の主人公らのコスプレ衣装もそのひとつで、中国でもコスプレ・ブームが着実に広がりつつある。それを物語るのが中国のコスプレ・サイトで、そこでは、いろいろなアニメや漫画の衣装が売られている。例えば、「名探偵コナン」のそれは、明るい藍色のジャケットと薄いブルーのズボンに赤い蝶ネクタイが付いて75元(約1300円)、「犬夜叉」に登場する桔梗の巫女衣装が158元(約2800円)、「ONE PIECE」の主人公ルフィの衣装は、赤と青の上下で、96元(約1700円)といった具合だ。

北京市近郊のコスプレ工場を突撃取材

コスプレ・サイト上の「犬夜叉」桔梗の巫女衣装

中国でも、こうしコスプレ商品を販売する専門店が各地にでき始めているようで、山東省済南市に本部を置く「AA国際動漫」は08年の創立からのわずか4年間で20以上の省・市・自治区に合計600店以上のチェーン店をオープンさせたという。需要がそれだけあるということでもある。

そこでネットで知った住所を頼りに北京市近郊にあるコスプレ工場を訪ねてみた。場所は北京市南部の大興区。工場は幹線道路からわき道に入り、車で10分ほど走ったところにあったが、看板も出ておらず、近所の人に何度も聞いてようやく見つけ出すことができた。

工場といっても質素な建物が2棟あるだけ。雑然とした事務所にいたのは若い男性総経理と若い女性職員の2人だけ。取材を申し込むと、まず「どうしてここを知ったのか」との質問が返ってきた。そして「取材は拒否です」と一言。海賊版の取材と思ったのかも知れないが、「版権の問題できたのではありません。中国でコスプレ・ブームが起きているとのことで、純粋に、そうした観点から話を聞きたいだけだ」と言うと、総経理はちょっと安心した様子で、匿名を条件に話を聞かせてくれた。

工場の製品はほとんど中国国内向け

コスプレ工場で自社製品を見せてくれる女性職員

それによると、この工場の年間売上額は数十万元から100万元(数百万円~1760万円)で、「(コスプレ)製品は(中国)国内向けで、輸出はほとんどない」という。また、ネットで注文を受け、商品を販売しているそうで、購入者は「小中学生が多い」ということだった。値段は1着30元(約500円)程度。工場直売で安いのかもしれない。総経理は「一番売れているのが白雪姫の衣装だ」と教えてくれた。

しかも、ここは工場とはいえ、サンプルの生産や簡単な材料加工をするだけで、実際には、周辺の農家などにサンプルと材料を提供して縫製させ、製品にしているという。倉庫をみると、さまざまなコスプレ商品が山積みになっていた。

また、中国のネット上に日本のアニメや漫画のコスプレを販売している会社があった。日本に実在する企業から版権を得て、「名探偵コナン」などのコスプレ関連商品を販売していると書いてあり、名称の一部に日本の企業名を入れていた。このため、北京での取材の際に訪ねようと思い、この日本企業に電話を入れた。すると、「そんな(中国の)企業は知らないし、関係もない。以前にも、同じようなことがあった。困っている」との話で、中国のコスプレ企業は、日本企業の名前を勝手に使って、堂々と商売していたのである。確かに、とんでもない話ではあるが、中国側をルールにのせれば、クールジャパンはビックビジネスにもなってくる。中国ビジネス、苦労は絶えないが、日本企業には、タフになって粘り強く戦い続けてもらいたい。

カバー写真:手でハートの形をつくってくれた北京のメイドカフェ「屋根裏」のメイドさん

  • [2014.10.29]

ジャーナリスト(中国問題専門家)、元東洋大学社会学部教授、公益財団法人新聞通信調査会評議員、ニッポンドットコム理事。1948年静岡県生まれ。73年早稲田大学第一文学部卒業、時事通信社入社。香港特派員、北京特派員、北京支局長、解説委員、上海支局長などを歴任。優れた中国報道によって96年度ボーン・上田国際記者賞を受賞。著書に『巨竜のかたち 甦る大中華の遺伝子』(時事通信社)、『中国ビジネス 光と闇』(平凡社)などがある。

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