高い評価を受けた安倍首相中東歴訪、「中庸」をアピール
中東メディアからの緊急レポート

カマール・ガバラ【Profile】

[2015.01.23] 他の言語で読む : العربية |

安倍首相の中東4か国歴訪に対する現地・エジプトからの報告。人質事件とは裏腹に、首相歴訪を高く評価する現地の理由と背景は何か。

安倍晋三首相の中東諸国歴訪(2015年1月16日〜20日)は、過去2年間で5回目の中東訪問にあたり、エジプトでは官民双方から相当な関心をもって迎えられた。1月20日にISILによる邦人2人の身代金要求事件が起きたものの、歴訪に対するアラブ側の有識者、専門家や外交官による評価は、成功である100点満点だけではなく、満点を上回るレベルだという驚くべき評価まで出た。

首相がエジプトを発った後の1月19日、カイロ中心部の外交官クラブで、ワヒーブ・アルミニヤーウィー元駐日エジプト大使の主催による、香川剛廣駐エジプト日本大使を迎えての昼食会が開催された。エジプト政府の閣僚や高官、歴代の元駐日エジプト大使、作家、知日派ジャーナリストなどが参加した。

期待を上回る建設的な成果

今回のエジプト訪問について、香川大使が「100点満点の成功であった」と評したのに対して、ヤーセル・ムラード外務省アジア担当事務次官は「満点以上だ」と評価した。さらに、同席者の1人は「200%と言っても良いのでは」と述べ、昼食会は首相の中東歴訪に対する満足度を競い合う場と化した。アルミニヤーウィー大使も「あらゆるレベルで成功」と一言で概括した。

さらに、出席したナビール・ファハミー元外務大臣(元駐日大使)、マハムード・カーレム元駐日大使、ムハンマド・シャーキル外交議会議長をはじめとする元大臣、元大使、ジャーナリストなど各界著名人もこうした高評価に同意した。

「新時代の始まり」を強く印象付ける

ヤーセル・ムラード事務次官は“満点以上”と評価する理由について、「ページが繰られ、新しい1ページが始まった。エジプトと日本の様々なレベルの二国間関係に新たな時代が始まるからだ」と強調した。

香川大使も、“満点の成功”であった理由について、nippon.comに以下のようにコメントした。

「首相はエジプトに対する新規経済支援を約束した。新円借款約360億ドル相当額を供与するもので、エジプト日本科学技術大学(E-Just)プロジェクトに近接するボルグ・エル・アラブ国際空港の拡張計画、配電システム高度化計画ほか、再生可能エネルギー、運輸、教育、保健などのプロジェクトに活用される。『オペラハウス』、アフリカとアジア両大陸を結ぶスエズ運河橋『日エジプト友好橋』、大エジプト博物館、カイロ地下鉄、カイロ大学小児科病院などの両国間の協力によるこれまでの成果に加えて、新たな二国間プロジェクトは、両国の友好・協力関係の深化となる。これは、日本が世界の他のどの国とも築き上げていないような二国間関係である」

さらに、大使は首相の発言を引用し、「日本は交通インフラ、再生可能エネルギーや火力発電プロジェクトのため、環境に優しい最先端の技術を提供する。エジプト発展、中東全体に安定を広げていくためである」と強調した。

「中庸」をアピールした歴史的な首相スピーチ

今回の首相訪問は、経済、開発面にとどまらず、政治、外交、治安面におけるハイレベルでの協力、調整および相互理解を含むものとなった。安倍首相は、日エジプト経済合同委員会での中東政策スピーチで、「エジプト国民が安心して暮らせる平和で豊かな国になれば、中東も大きく繁栄するだろう。この責任感のもとに、長い歴史と伝統に根ざし、“中庸が最善”の精神に立って、エジプトに合う形での民主化の努力をしている。私はこの努力を支持し、心から拍手を送りたい」とあいさつした。

首相の歴史的スピーチは、中東地域全体に向けたものであり、“中庸が最善(ハイルル・ウムーリ・アウサトハー)”という叡智の言葉を人々に思い出させることから始まった。首相は、この言葉をアラビア語で述べ、同委員会出席の数百人から熱い拍手を受けながら、「伝統を大切にし、中庸を重んじる点で、日本と中東には、生き方の根本に脈々と通じるものがある。この叡智がなぜ今脚光を浴びるべきだと考えるのか」と問いかけた。

「それは、現下の中東地域を取り巻く過激主義の伸張や秩序の動揺に対する危機感からである。中東地域の安定は、日本ばかりでなく、世界全体にとっても平和と繁栄の基礎となるものであり、もしテロや大量破壊兵器の蔓延を放置すれば、国際社会は深刻な被害をこうむることになるだろう。“中庸が最善”という叡智にもとづき、人々が安心して平和に暮らせる、活力に満ちた安定した中東を回復することは、日本の協力の目標である。そのことを、エジプトを含む中東の人々に理解いただきたいと強く願ってやまない」

「今回の出発に先立ち、1枚の写真を目にした。151年前、1864年4月4日、日本人がギザで初めて、スフィンクスを背景に撮った写真である。自分たちのものより何倍も長い歴史をもつエジプトに、日本人は一世紀半、いつも魅了されてきた。こつこつと誠実にいいものを作る姿勢、そのような仕事をすることを尊いと思い、達成した仕事に誇りを持つこと。働くことに対して高いモラルを持っているエジプト人。大エジプト博物館(GEM)の建設や、エジプト日本科学技術大学(E-Just)の事業で、皆さんと一緒に働けることは、私たちにとって大いなる喜びである」

私は首相随行団の外交官たちと夕食(1月18日)で同席する機会を得たが、一行による、中東の治安、安定と平和の実現のために、日本が中東各国との関係を強化することの重要性についての説明は非常に興味深かった。

彼らによれば、首相の中東歴訪は日本の中東に対する強い関心と深い尊敬の念を反映したもので、中東地域の可能性は多大だとしながらも、近年の中東地域の現状は“最大に困難な状況”であると説明した。その上で、2年前に安倍首相がジッダ訪問の際に述べた「中東地域および世界の人々の間に、共生と共栄、協働、寛容の精神を広めることが肝要である」との発言について言及した。

なお、首相は、エジプト新聞最大手である「アルアハラーム」紙との独占インタビュー(1月17日付)に応じている。

対ヨルダン、パレスチナ支援

ヨルダン訪問について、首相同行者らは内戦状態の近隣諸国からの難民の流入で混乱状態に悩まされているヨルダンに対する支援の必要性を指摘し、パレスチナに対しても保健医療の提供、給水ネットワークの改善などパレスチナ人の生活改善、西岸およびガザ地区のパレスチナ難民への支援提供を目的としていると述べた。

安倍首相パレスチナ訪問。アッバース・パレスチナ自治政府大統領が出迎え。(写真/Aflo)

アンマンで行われた日本・ヨルダン首脳会談の直後、安倍首相は難民受け入れ対策への支援として1億ドルの提供の約束を実行した。また、難民への食料ほかの物資の形で2800万ドル相当の支援を行うことを表明した。

イスラエルでは「紛争激化」防止を要請

イスラエル訪問では、首相は「テロとの戦い」への支持を表明し、イスラエル側に地域紛争を激化させる発言や行動を中止するよう要請した。また、同年1月上旬にパリで発生したユダヤ系食料品店の事件で亡くなったユダヤ人4人について、遺憾と哀悼の意を表明し、テロ行為は理由の如何にかかわらず、決して許されるべきではないと強調した。

パレスチナ問題に対する日本の立場について、首相は帰途に就く前に改めて、「日本は、いつか、パレスチナを国家承認することができる日が訪れると信じている。その日が早く訪れるよう、日本はイスラエルとパレスチナの双方に対し、いわゆる“2か国解決”の実現に向けた協議の再開を求める」と述べた。

カバー写真=安倍首相が中東歴訪。エジプト大統領と会談。(提供/Aflo)

(原文アラビア語)

  • [2015.01.23]

エジプト日刊紙「アルアハラーム」、バングラディシュの二紙「Prothom Alo」および「The Daily Star」記者。「シュルーク・ネット」サイト編集長。1953年、エジプト共和国マンフィーヤ県生まれ。1976年、カイロ大学メディア学部ジャーナリズム科卒業。2000年、ヨルダン財政・銀行学アラブ・アカデミー人材育成ディプロマ取得。2001年~2005年まで「アハラーム」紙東京支局長。

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