第二次世界大戦終結70年で世界が本当に学ばなければならない教訓

渡部 恒雄【Profile】

[2015.04.02] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL |

欧米メディアは東アジアの歴史認識問題をミスリードしていないか? 日本の過去の行動は当時の世界秩序への挑戦として批判されるべきだが、同時に現在の世界秩序への挑戦も見過ごしてはならない。

議論の本質は理解されているか?

第二次世界大戦終結70周年となる今年は、多くの人たちが、過去の歴史および歴史認識について、より時間を割いて議論することになると思われる。日本の安倍首相の発する談話と歴史認識について、中国、韓国だけではなく、欧米諸国からも関心を持たれているのは、歴史認識論争が日中のそれぞれのナショナリズムを煽り、それが対決的になって紛争の可能性が高まることを恐れているからだろう。

しかし、これまでのところ、主要な欧米メディアで繰り広げられている安倍政権の歴史認識をめぐる議論は、紛争を未然に防ぎ、アジア地域を安定的にしたいという目的があるのであれば、むしろ逆効果になるような非建設的な議論が目に付く。論者たちは、歴史を精査したり共有することなく、現在の政治的信条や倫理的立場から過去の歴史認識について浅薄な議論を繰り広げることに終始している。そして、このような日本の過去をめぐる歴史認識論争が、東アジア地域における現在の国際秩序への力による変更という、重大な挑戦から関心が逸れるという深刻な事実にはあまり気がついていない。

安倍晋三の立ち位置とは

欧米メディアの昨今の焦点は、日本の「歴史修正主義者」が、1930年代の日本の中国への侵略行為を正当化しようとしているか否かということだ。日本の一部にそのような人たちがいるのは否定できない事実である。日本は表現の自由が担保される民主主義国家であり、そのような発言も規制されないからだ。

日本が現実に周辺国に脅威となるような軍備拡大や拡張的行動を行い、既存の国際秩序に対して力によって挑戦しようとしている兆候があるのなら、「歴史修正主義」に敏感になるのは理解できる。だが現実にはそうではない。

安倍首相自身を「歴史修正主義者」と指摘する記事もみうけられるが、彼自身は保守的心情を持つ政治家ではあるが、一方で、第二次世界大戦後の国際秩序を構築してきた米国との同盟関係を強く支持する政治家である。また、日本の戦没者を追悼する靖国神社を訪問することに個人的なこだわりはあるものの、既存の国際秩序に挑戦するどころか、むしろその維持を強く支持する立場をとっているのである。

「歴史修正主義」が問題となるのは、過去の侵略行為を正当化することで、未来の国際秩序への挑戦をも正当化しかねないという恐れがあるためだろう。しかし、現在のところ、アジア地域で既存の国際秩序を力によって変更しようと懸念されているのは日本ではなく、その日本の歴史認識を厳しく批判している当の中国であるというパラドックス的な状況が存在する。

現在、世界秩序を変更しようとしているのはだれか

筆者は、中国が日本の歴史認識を懸念するのは自然なことだと思う。1930年代に日本の侵略で苦しんだ経験を持つ中国にとっては、日本への懸念を表明することに正統性はある。

問題は欧米の識者が、日本の歴史認識への批判と、中国が南シナ海において既存の国際秩序を力で変更しようとしているという問題を、きちんと分けて論じていないことである。このことは、問題を複雑化させ、むしろ日中の和解の妨げになっている。

筆者は、欧州のメディアに、「日本はなぜ、小さな無人島(尖閣諸島)を守るために、中国と不要な対立を起こすような態度をとるのか」という質問を受けたことがある。私の答えは「日本が尖閣諸島問題で妥協することは、中国による大量の公船を送りつけるという圧力に屈することであり、中国のような影響力のある国家が、力による現状の変更を周辺国に容認させる前例を作ることは、今後の国際秩序に悪影響を与えるから」というものだ。それは、欧米が、ロシアのクリミア半島併合を問題視して経済制裁を行っていることと同じ性質の問題なのである。

今年も、9月3日に中国とロシアは合同で第2次世界大戦の対日戦勝記念日を祝う。この式典において、日本の過去の侵略行為を戒めるメッセージが正当性を持ち得るのは、あくまでも、彼らが既存の国際秩序を力によって変更しないという原則を支持、実践するという前提の上にたってのことである。

日本の70年間の真の姿

日本の一部の人々による「歴史修正主義的」な言動は批判されるべきものだが、それは日本国民の多くの声を代表するものでもなければ、日本が1945年以降に実際に行ってきた行動とも異なる。

日本は、第二次世界大戦後、70年間、国際紛争を武力で解決することを放棄した憲法9条を遵守し、専守防衛という政策を、真摯に遂行してきた。

現実の厳しい国際環境でそれが維持できたのは、軍事大国の米国との同盟関係があったからだが、2014年7月1日以前は、米国との円滑な同盟関係維持のために、本来なら必要である集団的自衛権の行使ですら、憲法9条の理念から憲法違反として規制してきた。

これは、同盟関係というものが、ギブアンドテイクであることを考えれば、同盟関係自身を壊しかねない極端な自己規制でもあった。この問題を解決しようとしておこなわれたのが、昨年7月に安倍内閣が行った憲法解釈の変更である。それでも、集団的自衛権を一部行使できるという憲法解釈の変更は行っても、必要最小限の軍事力で専守防衛に徹するという憲法9条の基本精神は変えていない。

また1952年に、かつて日本が直接に戦火を交えた台湾の国民党政府の蒋介石総統は「以徳報怨」として、日本に対する損害賠償請求権を放棄した。このことは、日本人に深い感銘を与え、日本もまた台湾の経済発展に協力してきた。1972年に国交を回復した中華人民共和国政府の毛沢東主席も日本に損害賠償を求めなかった。日本は、折に触れ、中国とアジア近隣諸国に対し、植民地支配や第二次世界大戦への反省とお詫びを表明するとともに、多額の経済支援と友好的な政策を行ってきた。

日本の外務省によれば、1979年に開始された対中ODAは、これまでに総額約3兆円以上にのぼる。2007年を最後に、新たに円借款を供与することは中止したが、無償資金協力と技術援助については現在まで継続されている。保守系の『産経新聞』は、2011年の中国に対する無償資金協力は1ドル100円で換算して、約1300万ドル、技術協力は2億8700万ドルの計約3億ドルに上ると指摘し、尖閣諸島への領海侵犯を繰り返し、東シナ海上空に防空識別圏を一方的に設定するなど、膨張主義的な政策を取り続けている国になぜそのような資金を提供するのかと批判しているほどだ。

日中の和解を妨げる欧米メディア

欧米メディアの日本の歴史認識に関する報道や批判は、一部の保守主義者の発言だけにフォーカスするあまり、日本政府の中国や近隣諸国に対する冷静な姿を無視している。そして、そのような一面的な報道や批判は、むしろ日中の和解には障害となりかねない。

例えば、欧米からの対日歴史認識批判は、国内向けに反日・抗日ドラマが恒常的に放送されている中国人の反日ナショナリズムに、はからずとも国際的な支援を与えてしまう。そうなると、実際のところは、経済的にも政治的にも、日本との対立の長期化に利益を見いだせない中国の指導者にとっても、対日和解が高いハードルになってしまう。昨年11月の北京でのAPECの席で、習近平主席が、安倍首相と握手をするという決断をしたことには敬意を表したいが、その時の彼の苦渋の表情は、今も我々の記憶に新しい。

日中の紛争を未然に回避するためには、日本の歴史認識批判だけでは十分ではなく、中国の拡張的な姿勢を抑制させることが必須であり、国際社会はバランスのとれた議論をすべきだ。例えば、第二次世界体制終結70年を迎えた世界は、ロシアのクリミア半島併合や中国の南シナ海での拡張姿勢のような既存の世界秩序を力で挑戦するような姿勢を断固として許さない、という共通認識に立った上で、1930年代に日本やドイツが行った国際秩序への挑戦を容認するような歴史修正主義に反対すべきなのである。間違っても、歴史認識をめぐる論争が現在の国際秩序への力による変更という行為を正当化することがないように気をつける必要がある。

日中への冷静なジャッジとなるべき欧米メディアに期待することは、日中が歴史認識をめぐる不毛な対立を高めないように、冷静な議論と、過去の東アジアの歴史を丁寧に見る視点だ。歴史認識が重要なのは、過去の教訓から失敗を学び、現在の国際関係に不毛な対立を持ち込まないようにするためだ。歴史認識問題が、むしろ現在の国際関係の抱える問題の本質を見る目を曇らせることがあってはならない。

カバー写真=2014年11月10日、APECに際して久々に行われた日中首脳会談(提供・時事)

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  • [2015.04.02]

東京財団政策研究ディレクター・上席研究員。1963年生まれ。東北大学歯学部卒業。米ニュースクール大学政治学修士課程修了。戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員、三井物産戦略研究所主任研究員などを経て現職。専門は日米中関係、アジアの安全保障・政軍関係。著書に『いまのアメリカがわかる本・最新版』(三笠書房、2012年)、『二〇二五年米中逆転——歴史が教える米中関係の真実』(PHP研究所、2011年)など。

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