日系企業が加速するアメリカ南部への進出

森 則和【Profile】

[2015.04.24] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 |

北米に進出している日系企業の“南部シフト”が加速している。中でも熱い視線が注がれているのがジョージア州など南部の州だ。いまなぜ、南部なのか。現地から、最近の対米進出企業の投資動向を報告する。

ジョージア、フロリダ、など4州が中心

北米で事業展開している日系企業の間では、生産拠点を南部に移転させる動きが加速している。自動車や航空機、建設機械、食品加工などの分野で近年目立っている。外資系のみならず米国企業もこの地域に注目しており、生産拠点ではなく北米での統括拠点を南部に移す動きも見られる。

全米50州の中で南東部に位置するのは、フロリダ、ジョージア、アラバマ、サウスカロライナの4州である。広義では、ノースカロライナ、テネシー、ミシシッピの3州も含まれる。また南西部に位置づけられるテキサス、オクラホマ、ルイジアナ、アーカンソーの4州を合わせた地域計11州が米国南部と呼ばれることが多い。

日系企業の相次ぐ新規・拡張投資

最近の投資事例を見てみよう。例えば、日系企業では、ブレーキパッド用素材を製造する大塚化学がアトランタ郊外で建設中の新工場を近く完成させ、今秋には生産を開始する。拠点開設に伴いニューヨークの北米統括拠点も移した。

豊田自動織機はアトランタ郊外に、かつて日本から輸入していたコンプレッサー心臓部ラインの工場を関連会社の敷地に設立、2014年から生産を始めている。自動車以外の分野では、凸版印刷も食品包装用バリアフィルムの工場を新設した。食品・包装や建設機械分野でも、新規や拡張投資の動きは盛んだ。 

ジョージア州に隣接するアラバマ州では、新日鉄住金が独ティッセンクルップの高級鋼板工場を1,580億円規模で買収した。2014年末には第一生命による米中堅保険会社プロテクティヴ生命の買収が完了、日本の生保による過去最大規模の外国保険会社買収(5,800億円規模)となった。

サウスカロライナ州では、東レが既存の生産拠点(アラバマ州)に続き、新たな炭素繊維の生産拠点を設立する計画だ。1,000億円規模で現行機と次期大型旅客機「777X」の主翼の炭素繊維材料を今後10年以上にわたり独占供給するという。

さらにフロリダ州では、久光製薬が2014年8月、マイアミ郊外で女性疾患用パッチなどを製造するノーベンを400億円で買収。第一三共も同州南東部ジュピター市に拠点を持つチャールストン研究所と鎮痛剤開発販売契約(約450億円)を締結している。アデランスは同じく南東部のボカラトンに本社がある男性用かつらメーカーのヘアークラブを買収した。

“生産拠点”だけでなく、“統括拠点”を移転する動き

北米での統括拠点をそっくり南部移転する動きもある。独メルセデス・ベンツが東部のニュージャージー(NJ)州からアトランタ北部へ米国本社を移転することを決めた。サウスカロライナ州にスポーツ用多目的車(SUV)工場がある独BMWも、NJ州の北米統括拠点を南東部移転する方向だと報道されている。

日系企業では、トヨタ自動車が2014年5月、カリフォルニア州にある北米統括拠点をテキサス州ダラス郊外に移転すると発表した。自動車産業の場合、生産拠点が南部から比較的近いテネシー州やミシシッピ州などに集まっていることも移転の背景にあるが、対米進出企業などがこぞって南部に向かっている理由はいろいろある。

税制や労働コストの低さがメリット

南部地域は労働・生活コスト面や交通の利便性などで他地域より魅力がある。労働コストでは中西部など従来の製造業の集積地より安価で豊富な労働力、それに土地代も安い。さらに組合組織率が低いため、労務関連のリスクが相対的に低い。

各社の生産拠点へのアクセスも非常に便利だ。アトランタ空港は17年間連続世界一の乗降者数を誇るハブ空港で、他地域への乗り継ぎなどの利便性にも優れる。

さらにフロリダ州では、2014年11月の州知事再選を受けて、既に免税になっている個人所得税に加え、法人税も1年半以内をめどに撤廃する動きがある。こうした諸条件を総合判断すれば、日系企業のみならず主要企業の南部シフトは今後も進む可能性がある。

ジョージア州に注目する建設関連企業

中でも目立つのはジョージア州への進出の動きだ。同州政府によると、自動車分野での州内直接投資は過去6年間で120社、投資額50億ドル、新規雇用者数は1万8000人にのぼる。かつてアトランタ空港近くにあったフォードの工場(2006年閉鎖)や、アトランタ市内北東部にあるゼネラルモーターズ(GM)工場(2008年閉鎖)の撤退後、韓国の起亜自動車など外資系自動車メーカーを中心に新規投資が増えている。

建設機械の分野でも近年、南部地域への企業集積が進んでいる。最近ではアトランタ周辺に日系の関連部品メーカーや専門商社の拠点設立が目立つ。コマツは1985年テネシー州南部に、2001年サウスカロライナ州北西部に拠点を設けており、日立建機は1988年以来ノースカロライナ州で米社との合弁工場を操業している。クボタも米国内で2017年までの小型建機5000台規模の生産をめざし、新工場を建設する見込みだ。

米国製造業の“回帰”を象徴

日系企業だけでなく、2009年に中国・三一重工の建機部門がジョージア州アトランタ郊外南部に工場進出した。13年には米キャタピラー社の工場もジョージア州東部に進出し、ブルドーザーとミニ油圧ショベルの生産を開始し、「米国製造業の回帰」の例として注目された。 

米国では、人口減少社会に突入した日本とは異なり、今後の人口増加が見込まれる。特に南部地域の人口増加率は全米平均を上回っている状況だ。このためインフラ整備・住宅などの建設のみならず、大規模な土地所有者による整備などにより、小型建機の需要増加が見込まれている。

タイトル写真=日系企業の南部シフトが加速する中、熱い視線が注がれているアトランタ市。(Jon Arnold Images/Aflo)

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  • [2015.04.24]

日本貿易振興機構(ジェトロ)アトランタ事務所長。1990年ジェトロ入会。輸入促進部、企画部、米国シカゴセンター、産業技術・農林水産部、エジプトカイロセンター次長、上海万博チームリーダー、北米事業推進主幹、山口貿易情報センター所長を経て現職。

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