桜、温泉、AV……「爆買い」する中国人が思い浮かべる日本のイメージ、その実像との微妙なギャップとは

中島 恵【Profile】

[2015.05.05] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | ESPAÑOL | العربية | Русский |

イメージ先行?

今年の春節(旧正月)以降、中国人の「爆買い」が日本のメディアを賑わさない日はない。中国では日本のゴールデンウィーク中に3連休、6月にも3連休があるので、この先もまだ相当な数の観光客が来日しそうだ。

これほどまでに彼らが日本観光に訪れるようになった背景には、中国の経済成長により中国人の生活にゆとりが生まれたことや、中国では日本ほど高品質で廉価な商品は買えないこと、日本政府のビザ発給の緩和、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の発達により日本への関心度が高まったことなど、複合的な理由が挙げられる。(それらについては拙書『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』(中公新書ラクレ)で詳述したのでご参考を)。

しかし、日本では、彼らが「爆買い」を繰り広げていることに注目は集まっても、彼らが来日前、“日本”についてどんなイメージを持ち、どんな想像をして、日本の地を踏んでいるのか、については、ほとんど語られることがない。

この点について、中国各地で取材してみると、さまざまなギャップが聞こえてくる。このギャップにこそ、「近くて遠い国」である中国と付き合うヒントが隠されているのではないかと感じる。

まず「桜」だが

「やっぱり、日本といえば桜ですよね。日本人は木の下に座って、お弁当を広げて食べるのでしょう? すてきです。今年はお花見の時期に間に合わなかったので、来年こそ日本の桜をこの目で見てみたいと思っています」

こう語るのは上海在住の主婦(60歳)。先日、初めてツアーに参加して日本旅行を楽しんだが、桜はすでに散っていた。来年こそ、「お花見」を実現したいと意気込んでいるが、彼女は日本全国で桜が同じ時期に開花すると勘違いしているらしい。広大な中国から比べれば、日本の面積は25分の1。狭い日本でさえ「桜前線」があり、開花時期は異なるのに、そんなことは巨大な国に住む彼女らの脳裏からすっぽり抜け落ちているようだ。

一般的な中国人が思い浮かべる日本のイメージの代表格といえば、桜、温泉、ラーメン、富士山、新幹線、アニメなどだ。中国のメディアでは日本の情報が非常に多い。日本と聞いてイメージしやすいものは他国よりも多いのだが、細かい部分での認識はかなり違っていて、日本人としては複雑な思いに駆られることがある。

「日本人はみな、雪の中で露天風呂に入る」

たとえば温泉について。中国人は、テレビなどで、浴衣と下駄で温泉街をそぞろ歩きする日本人の姿を見て憧れの気持ちを抱くが、彼らは実際に温泉に入った経験がほとんどない。中国(とくに北方)は乾燥しているので、日本人ほど汗をかかず、お風呂に入る習慣もあまりない。だから、温泉のイメージは映像で見たものに限られる。それは「雪が降る北海道で、頭に手ぬぐいを乗せて露天風呂に入る」という“絵”だ。

中国で2008年に大ヒットした映画「非誠勿擾(邦題:狙った恋の落とし方。)」で北海道が舞台となり、中国人の間に北海道の知名度が一気に高まった。日本人にとって雪を見ながら温泉に入ることは主流ではないのに、「温泉と雪をセットで体験したい」と思う中国人は非常に多い。日本人である私が「雪が降っている中で温泉に入る日本人は多くはない」と説明すると、中国人は少しがっかりした表情を浮かべる。ここにも、イメージと実像の微妙なギャップが存在している。ラーメンなども同じで、中国にも拉麺(ラーミェン)は存在するのだが、スープも具材も異なり、日本のラーメンとは似て非なるものだが、具体的に「日本のラーメンの味」を知る中国人はまだ少ない。

ここに挙げた例は、ごく普通の中国人の「ザ・ニッポン」の象徴といえるものである。日本通の中国人以外、たいていの中国人はこのようなイメージを持つだろう。日本の実像は、ある程度は中国に伝わってはいるものの、完全に正しくは伝わっていないのだ。

「日本ではAVが街にあふれている」

ところが、中国人にとって最もイメージのギャップが大きいものがある。それはAV(アダルト・ビデオ)だ。日本の“表のイメージ”が桜や温泉であるとしたら、“裏のイメージ”がAVだといってもいいだろう。それほど日本=AV大国という認識が中国では広まっている。その認識は日本人の側にはないが、中国人と親しくなると、必ずといっていいほどこの話題になる。

武漢に住むエンジニアの男性(31歳)は、かつて「日本のイメージ」について、「AVです」と即答。男性は、仕事の研修で日本に3ヵ月滞在したことがあったが、日本語はほとんどできない。しかし、日本に行ったら「きっと街にAVがあふれているのだろう」と思い込んでいたという。

男性がそう思う背景は、中国でのネットの発達がある。中国ではAVは規制されており、そのようなサイトは公には存在しないが、特殊なソフトを使うことによってアクセスできる。中国で発せられる日本についての情報は政府の息がかかったものが中心だが、それ以外の生の情報を手に入れようとすれば、ネットしかない。ここ数年はネット情報が氾濫するようになり、玉石混淆の大量の情報が入手できるようになったが、同時に日本のAVについての情報も入ってくるようになった。その結果、中国人は日本について「やや間違った妄想」を膨らませている。

上海でOLとして働く30代の女性も、かつて日本留学していたと話すと、男女問わず、同僚からAVについて質問攻めに合うと話していた。「日本の男性は、やはりAVのようにみんな変態なのか?」「日本では手軽にどこででもAV製品が手に入るのか?」「日本の普通のテレビ番組にもAV女優は出演できるのか?」など、質問は尽きず、興味津々だ。

何しろ、日本のAV女優、蒼井そらは、中国語で微博(中国版ツイッター)などをやっていて約1500万人のフォロワ―を持っており、中国の若者の間で絶大な人気を誇っている。また、ネットにそれほどアクセスしない中高年の男性の間でも、日本といえば、「昔、高倉健の映画で見た中野良子とのラブシーンが忘れられない」という人もけっこう多く、同じ東洋人として、日本の進んだ性情報に強い関心を示す人は非常に多い(中国は儒教や社会主義の影響があり、性に対して、日本のように開放的ではない)のだ。

ネット違法アクセスで誤情報が拡散していく

そもそもはネットでの違法アクセスがもとで広がった日本への誤ったイメージの拡大が原因だが、日本側にはその情報を正しく把握するきっかけも、正す機会もほとんどないので、勘違いは拡散されていく。

蒼井そらの影響力は日本よりも中国のほうが大きいが、中国人の関心は「AV女優という職業は世間に認められているものか?」、「彼女は日本の一般女性からはどういう目で見られているのか?」といったAVと日本社会との関わりなど、少し広い範囲にまで渡っている。中国にはまったく存在しない職業なので、自らの国に置き替えて想像しにくい事柄なのだろう。

こうした認識を持った中国人(とくに男性)は、東京ならば歌舞伎町に行きたいと希望する。歌舞伎町に行けば、そうした店は溢れているので、「やはり日本はAV大国」と思ってしまうかもしれないが、少なくとも、日本中にそうした情報が氾濫しているわけでも、町の至るところにそのような情報がまん延しているわけでもないことはわかるだろう。少なくとも、日本に行く前と行ったあとの中国人は、情報を修正することができそうだ。

冒頭で書いたように、SNSの発達により、中国人の日本情報は数年前に比べて格段に高まっており、その精度も徐々に上がっている。しかし、ステレオタイプのイメージから先になかなか広がっていかないことや、AVなど偏った情報が一人歩きしていることもまた事実だ。

在日中国人からの情報もあり、政府がいかに情報統制しても、日本についての関心はとどまるところを知らない。今後、もっと多くの中国人が来日し、「本当の日本」を体験すれば、正しい情報が広まっていくだろうし、彼らの認識も修正されていくだろう。それが、母国に住む人々にも伝えられ、中国人全体の日本認識を高めていってくれると期待したい。また、日本人も中国人が持つイメージのギャップを認識し、中国に正しく情報発信するよう、努力していくべきではないだろうか。

カバー写真=春節期間に来日、買い物を楽しむ中国人観光客(提供・時事)

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  • [2015.05.05]

ジャーナリスト。1967年、山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て現職。東アジアがテリトリー。著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版局)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』(中公新書ラクレ)など。

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