「日米協働の時代」への転換を刻印した安倍・オバマ会談

原野 城治【Profile】

[2015.04.30]

安倍晋三首相とオバマ米大統領との日米首脳会談が4月28日、ワシントンのホワイトハウスで行われたが、今年(2015年)は戦後70年という節目の年でもあり、戦後の会談の中でも重要な歴史的意味を持つ日米首脳会談となった。

実務の積み上げに裏打ちされた「同盟」強化

何が歴史的なのか。第1の理由は、両首脳が「日米同盟」強化のため、安全保障、経済における実務的な長い協議を積み上げて、具体的な政策の推進を確認したことだ。日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の18年ぶりの改定、膠着状態にあった環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の早期妥結への確認など、国内的には政治・経済的な混乱を引き起こしかねない課題に日米双方がしっかりとした決断を下し、あるいはその覚悟をして臨んだ首脳会談であったことである。

過去の首脳会談には、日米協力関係を儀礼的に確認する“顔合わせ”的な会談となるケースも少なくなく、政治的な言葉やキャッチフレーズが先行することもあった。このため、国民の間にしっかりと記憶されている過去の日米首脳会談はそう多くない。ちなみに、戦後第1回目の日米首脳会談は1951年9月の吉田茂首相とトルーマン大統領によるもので、対日講和条約(サンフランシスコ講和条約)と日米安全保障条約を調印した際に行われた。

最悪の首脳会談として記憶に残っているのは、鳩山由紀夫元首相が2009年11月、東京でのオバマ米大統領と会談した際、米軍普天間飛行場の移設問題について「トラスト・ミー」(私を信じて)と発言した例だろう。外交的失敗であり、日米関係、国際関係における信用失墜につながった。

世界に表明した「和解の規範」という日米関係

第2の理由は、戦後70年の節目であることから、戦前戦後を通じた「歴史認識」が大きな焦点となったことだ。中国、韓国だけでなく、米国内にも根強い、安倍首相に対する‟歴史修正主義者”という認識や評判が影響したことは否めない事実だ。

そうした文脈の中で、日米両国が発表した「日米共同ビジョン声明」は、国際社会の平和と繁栄に貢献してきた日米関係を「和解の規範」であると明記した。この意味は深い。第2次世界大戦で最大の敵同士であった日本と米国。その両国は戦後70年の日米関係を“和解”の成功例として国際社会に表明したからだ。

同声明では、日米関係を「かつての敵対国が不動の同盟国(steadfast allies)」になったと位置づけ、戦後70年の歴史の中で「和解の力を示す規範となっている」と強調した。さらに、声明では「全ての関係者が達成のために献身的に尽力すれば和解は可能だ」と指摘した。これは、歴史認識問題を抱えギクシャクしている日中関係、日韓関係の改善を当事国双方に強く求めたものであることは言うまでもない。

この「和解の規範」という事実を中国、韓国はどのように評価するのであろうか。

会談成功を後押しした“覇権的な中国”

第3の理由は、日米両国のアジア地域を中心とする国際情勢への危機感が極めて強く、そのことが濃密な日米首脳会談への布石となったことだ。読売新聞(4月29日付朝刊3面)は、米側が「日本と蜜月」関係にあることを強調したとの記事を掲載したが、果たして現状の日米関係は“蜜月”と言える状況にあるのだろうか。日米の外交交渉当事者間にあったのは、危機意識の共有であり、より濃密で確実な意思疎通基盤の再構築であったはずだ。決して、演出としての“蜜月”ではない。

その背景にあるのは、言うまでもなく「中国」の存在である。中国の東シナ海、南シナ海における軍事的なプレゼンスの増大、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立で見せた国際経済における主導権確保の動きなど、最近の動向は“覇権的”であったし、現実に今も続いている。

特に中国がAIIB設立で欧州各国を取り込むなど、国際経済・投資面で米国に対抗する動きを顕在化させたことは、日米間で膠着状態にあったTPP交渉を促進させる契機となり、極めて大きな転換要因となった。

まさに、成功裏に終わった安倍・オバマ会談は、中国の“覇権的な姿勢”が後押しした日米会談であったと言える。

「協調」から責任を共有する「協働の時代」へ

戦後の日米関係は、「対米従属」の時代から始まり、日本の高度経済成長による国際的地位の向上を踏まえた「対等の時代」へ進む。“イコールパートナー”といったフレーズが繰り返される中、冷戦終結、湾岸戦争などを経て「協調の時代」に突入した。

2001年の米国の同時多発テロ後、当時の小泉純一郎首相とブッシュ大統領の日米関係は、首脳同士の強い信頼に裏打ちされた「戦後最良の関係」とまで言われたが、そうした時代の再来は容易ではない。

そして、今回の安倍・オバマ会談で浮き彫りになったのは、日米関係が「協調の時代」から「協働の時代」という新たな段階に移行するということであった。日米ガイドラインの18年ぶりの改定やTTP交渉促進の確認が意味するところは、日本として今後、安保や経済だけでなく地球規模的な問題で米国と「責任」を共有し、痛みを伴う具体的な行動、決断を迫られる局面に入ったことを意味する。今回の安倍・オバマ会談が、極めて重要な歴史的転換を刻印した由縁である。

“奇異”だった朝日新聞の1面トップ見出し

最後に、余談だが、日本のメディアの報道ぶりに触れておきたい。主要全国紙の報道は、全体的に日米首脳会談を前向きに評価しているが、その中で奇異に映ったのが朝日新聞(4月29日付)の1面トップの見出しだった。

見出しは、大見出しが「日米『核兵器は非人道的』」で、副見出しが「不拡散の共同声明」。3本目が「首脳会談、同盟強化を確認」となっている。確かに、今回の首脳会談では「日米共同ビジョン声明」のほか、「より繁栄し安定した世界のための日米協力に関するファクトシート」、「核拡散防止条約(NTP)に関する日米共同声明」の計3本の合意文書が発表された。

なぜ、朝日新聞は本筋の「日米共同ビジョン声明」の内容より、NTPに関する声明から主見出しをとるのか。理解に苦しむ。日米首脳会談の内容に批判的であるなら、真正面から批判すればいいのであって、わざと本筋を外したようなニヒルな見出しは、読者を惑わす。

今回の安倍・オバマ会談が、日米関係における歴史的な転機となる首脳会談であるだけに、朝日新聞の見出しの付け方は、出来事を冷静に分析し、評価することへの誠実さを欠いていると言える。気になる“歴史観の希薄さ”だが、従軍慰安婦問題での誤報の後遺症をまだ、引きずっているのではないだろうか。

カバー写真=首脳会談後、共同記者会見を行う安倍首相とオバマ大統領(提供・ロイター/アフロ)

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  • [2015.04.30]

政治ジャーナリスト。1972年時事通信社入社。同社政治部記者、パリ特派員、解説委員、秘書部長、編集局次長、ジャパンエコー社代表取締役を経て、2011年から16年3月までニッポンドットコム代表理事。2006年より日本国際問題研究所評議員。2008年「イタリア連帯の星」カヴァリエーレ章受章。2009年TBS番組コメンテーター。

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