安倍首相の訪米:公式、非公式の受け止め

政治・外交

安倍晋三首相の4月末から5月初めにかけての8日間の訪米は、公式には成功だった。訪れたボストン・ハーバード大学、ワシントンDC、シリコン・バレー・スタンフォード大学、ロサンゼルスの4カ所では、首相を経済改革と強力な日米同盟の推進者と見なす多くの米国側主催者から温かい歓迎を受けた。

しかし、実際のところ、訪米の受け止め方には「公式」と「非公式」の両方があった。「公式」の受け止めは好意的だった。オバマ政権は国内では医療保険改革、移民政策、人種関係、景気回復の遅れなど、海外でも特にイラン、イラク、シリア、リビア、イスラエル、アフガニスタン、北朝鮮、中国、ロシアなど多くの問題に直面しているからである。

重要なパートナーへの温かい歓迎

こうした問題が山積するなか、多くのアメリカ人は日本を、必要な支援を提供してくれる信頼できる重要な同盟国であり、パートナーであると見なしている。特に安全保障の問題では、安倍政権が進めてきた新たな安全保障戦略の策定や防衛予算の増額、国家安全保障会議の設置、特定秘密保護法の施行、武器輸出三原則の緩和、集団的自衛権の行使、より緊密な日米安保協力に向けた日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定などの政策を、オバマ政権は歓迎している。

経済問題では、安倍首相は米国で改革派と見られている。しかし、「アベノミクス」政策は第一の矢(金融政策)と第二の矢(財政政策)に偏りすぎており、日本の長期的で持続的な成長を担保するための第三の矢(構造改革と成長政策)への取り組みは不十分と見なされている。現時点では企業業績の向上も見られ全般的に前向きだが、首相が公約した第三の矢に基づく構造改革を達成し、環太平洋経済連携協定(TPP)での合意を近々実現するため、政治的指導力を発揮するとの期待はまだ残っている。

首相のワシントンDC訪問中、私は首相を主賓に開催された3つの公式行事に招待された。これらは4月28日のジョセフ・バイデン副大統領とジョン・ケリー国務長官主催の国務省での昼食会、同日夜のオバマ大統領主催のホワイトハウスでの公式晩さん会、翌29日のジョン・ベイナー米国下院議長主催の上下両院合同会議での演説である。いずれの場合も米国側は安倍首相を歓待し、首相が両国間の友好や共通の価値観と利益に基づく絆を強調したことを評価した。

他の場所ではより冷たい反応

安倍首相に対する「非公式」の反応は、450人以上の日本研究者が署名入りで5月4日に発表した『日本の歴史家を支持する公開書簡(Open Letter in Support of Historians in Japan)』に表われている。ジョン・ダワー、エズラ・ヴォーゲル、入江昭、ロナルド・ドーア、ギャヴァン・マコーマックなど、米国、欧州、オーストラリアの著名知日派学者などが署名した書簡にはこうある。「今年は、日本政府が日本の植民地支配と戦争時代の侵略の歴史に言葉と行動の両面から取り組み、指導力を示すよい機会である」。婉曲な表現ではあるが、その趣旨は明らかに、安倍首相に1993年の河野談話と1995年の村山談話からさらに踏み込み、「慰安婦」問題の解決に向けた行動をとるよう促すものである。

この書簡は、戦後の日米の和解と戦後70年間に培われた強力な両国関係を中心とした、首相の4月29日の上下両院合同会議での演説を受けて発表された。演説が慰安婦問題を含め、広く歴史問題全般に及ばなかったことで、機会を逸したと感じた人が多かったのだ。複数の署名者によると、書簡は、安倍首相が8月に発表するとみられる戦後70周年の総理大臣談話でこれらの問題を取り上げ、解決に向けて努力することを期待して書かれた。

安倍首相の談話を見据えて

そうした書簡が安倍首相の8月の談話に影響を与えるのか、与えるとすればどの程度かを考えるのは興味深い。ある見方では、「戦後レジームからの脱却」に対する首相の強い思いからして、村山談話に盛り込まれた「植民地支配」「侵略」「心からのお詫び」などの文言を繰り返すことはなく、むしろ、すでに一部の首相支持者から「日本の内政問題へのよけいな干渉の試み」と非難されている書簡によって首相はかえって意固地になり、相手に譲歩するようなやり方を拒むのではないかという。

そうかと思えば、現実主義者、実際主義者である安倍首相は、歴史問題で韓国、中国と和解する姿勢を示す手段として8月談話を利用し、それによって少なくとも部分的に緊張を和らげるとともに、米国を中心とする国際社会からそうした取り組みへの評価を得ようとするのではないか、という見方もある。

一方、米国にとって最も優先度の高い安全保障、経済、歴史という3つの日本関連の課題について、筆者が関係の米国人らと議論を重ねたところでは、首相の先の訪米を得点で表わすと、安全保障は10点満点で8点(沖縄の普天間/辺野古問題の後退がマイナス)、経済は6点(第三の矢の進展の遅れ、TPPでは二国間合意に達していない)、歴史は3点(問題解決に向けた明確な発言がない)だった。今年後半に沖縄、TPP、歴史問題で進展が見られれば、米国が2016年の大統領予備選に突入するころには日米関係がさらに良好になっているはずである。

(2015年5月15日 記、原文英語。バナー写真:2015年4月28日、首脳会談後の記者会見での安倍首相とオバマ大統領。時事)

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